
投稿者: ilkuji_99 ヨーロッパ航路に投入され、北海と地中海を縫い走っていた頃、1年の乗船契約期間がほぼ完了する時点で船長が船員を一人一人呼んで契約期間を延長しないかと誘っていた。船員を全員交代させるには本国から新たな船員を送出すべきで帰国する船員たちの費用もかなりかかるのでできれば既に採用していた船員を継続雇いたいからだろう。筆者にも昇進してやるからそのままいるように誘ったが、家にも行けずに苦労したのにもう一年乗るのが想像もつかないので一言で断った。2等航海士は1等にしてやるというから嬉しくて継続乗船すると言ったらしい。大体そのようにして半数は残り、半数は離れるようにしたのに、残るグループは大体船長や1等航海士と衝突しトラブルを起こした側というのがアイロニだった。
どころが下船1週間前、会社から電文が来て「人力送出会社が替わったので全船員交替になった」とのことだ。新たな会社側から自分たちの船員を乗せるとの意味である。トラブル起こし実力もないのにこの機会で昇進しようとした船員あちの夢が霧散されたのだ。フランスのセルブール港で全員交替した。セルブールとは映画「セルブールの傘」の舞台になったところだが観光もできず新船員たちとの引き続きと引き受けが終わったあと、みんな待機中のバスに乗りパリーを向って出発した。バスに乗り走りながら今度こそ帰国するのかと思い安堵の息をついた。
6時間ぐらい続けて走り、夜遅くパリーの市内に到着した。パリーの市内は車道が建物より低くなっていてノンストップでバスや乗用車が全速疾走するのが異彩だった。ホテルに荷物をおいて帰国のお土産でも買おうとショッピングに出た。当時はフランスなら有名ブランドのランコム化粧品を買うべきだといわれ、コンパックトと口紅をいくつか買った。店の女性店員が「ジャポン?ジャポン?」というから何だと思ったら日本人かとの質問だった。コリアと答えたら「あ、コレー」という。他の店で東洋人店員がいるので日本人かと聞いたところベトナム出身だけど日本語もできるというので何ができるかと聞いたらば、「スズキ、ホンダ、トヨタ」というのでみんな笑った。
翌日荷物を持って降りてきたら食事をしようというのでロビーに繋がっているレストランに入った。何かが出るのでさっさと食べてみんな起きるのに又何かが出てくる。再び座って食ってから立ったのに又座るようにいわれた。後でわかったのが前菜、メイン、デサートの順で出てきただけだ。メインだけ食べてた癖があり田舎者に見えたはずだ。常に果物ぐらいは食後、食べたけどな。パリーの空港で飛行機に乗った。
日本航空のせいかほとんどが日本人乗客だった。当時はソ連領空を過ぎないように北極を通過、アラスカ経由、日本到着で乗換える旅程だった。食事が終わると乗務員たちが窓のシャッターを全部降ろす。北極を通過する航路なので夜は無く毎日昼間だけ持続する白夜現状があり、シャッターを降ろさないと眠れないわけである。映画ばかり観るのも退屈なので寝ようとしたら再び食事、食事の後、睡眠、食事の順番が繰り替える。下を眺めたら雪に覆われた白い氷しかみえない。継続座っていたら足に痺れが来そうで後ろにいって大きな窓を通じて下をみていた。
傍にある日本女性が立っているのでことばをかけてみた。団体で1週間のヨーロッパ観光を終えて帰るOLだそうだけど優しく答えてくれるので好感を持ち簡単に自己紹介をしたあと彼女の連絡先をもらった。30分ぐらい経ってから再びあの窓にいったら先のあの女性が近づいて来て、さき渡した自分の住所を返してほしいという。自分は帰ってすぐ結婚するからもしかして他の男から手紙が来たら夫が疑うからだと言って「すみません」という。わかったと住所の書いた紙を渡すと握手をされた。毎時に細心な女性の繊細さを感じた同時に少しほろ苦い気分だった。最初に試した機内恋愛はそういうわけで失敗裡に終わったのだ。
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