みみちゃんが いるよー  (みみのひとりごと)

    
( 一 )
名前は、みみです。ヨーキー。体重1.3キログラム。超小型犬。
みみと呼ばれて三年、三年より前のことは、もう忘れちゃった。
本当のことを言うとね・・・・ただ忘れたいと思っているだけなんだ。
思い出したくないんだ。


みみはネ、大きな農家の土間(どま)でやっと産まれたんだけど、
ちっちゃいちっちゃい犬だったんだ。
他の二匹は、元気に大きくなっているのにどうしてか、
みみだけは、体が弱くて 毛もだんだん抜(ぬ)けていき いつもピイピイ泣いてばかりいたんだ。
その家では、いつも邪魔者(じゃまもの)だったんだ。

ある朝、その家の話のなかで 「こりゃダメだろう。もう死んじゃうよ。」
「エェッ 死にたくなーい」
そう思うと、いてもたってもいられなくなって、そっとその家をでたんだ。初めて外へ出たので石ころにつまずき、
どぶにはまり、歩けなくなってしまい、「もうダメだー」と、あきらめていた時、目の前に、赤い車が止まりました。
中から、お兄さんとそのお母さんらしい人が、おりてきたのです。

「あら 子犬じゃなぁーい。」
「こんな所にいると車にひかれるよ。」
「お母さん、連れて帰ろうよ。」
「うーん、でもねー、うちにはリーちゃんがいるからねー。」
「でもこの子、まだ赤ちゃんだよ。それに病気みたいだし、
このままにしていたら、絶対(ぜったい)死んじゃうよ。」
「そうね、家に連れて帰るしかないわね。」
ということになりました。
みみは、何が起こったのか分からずだんだん気が遠くなっていきました。
そのお兄さんはドブで汚れたみみの体を、大きな手でしっかり抱いてくれました。(とっても暖かかった。) 
生まれて始めて幸せな気持ちになりました。
本当は赤ちゃんではないのです。でも、
(赤ちゃんのほうが幸せなんだ。)と、その時 思っていました。

その人達の家には、大きな犬がいました。その家の愛犬りーちゃんです。
お庭でりーちゃんのお皿で、牛乳を。・・・・・りーちゃんはヨタヨタのみみにも飲むことを許してくれました。
オロオロしていると「早く飲めよ」と、場所をあけてくれたのです。
ひとつのお皿で、ふたりで牛乳を飲みました。(温かくておいしかったー)
「大丈夫みたいね」
「うん、大丈夫だよ」との話し声が聞こえ、よく分からないけれど、なんだかうれしくなりました。
その時、自転車(じてんしゃ)に乗った男の人が帰って来ました。
「どうしたの?」と、大きな声がしています。
みみはドキッととしました。三人は何か話していましたが、
その大きな声の人が「それにしてもきったない犬だなー ちょっと洗ってみるか。 それに病気みたいだから病院へ連れていくしかないねー。」

生まれて初めてシャンプーをしてもらい、ちょっとビックリしたけど、暖(あたた)かくてとってもいいにおいがしました。この三人が、
みみのパパとママ、そして恩人(おんじん)のお兄ちゃんです。

みみの病名は、シンキンという皮膚病(ひふびょう)で、人間でいうと、
水虫だそうです。それも全身です。
「体も弱っているし、きっと、治らないでしょうね。」と、先生の言葉に、
「かわいそう。こんなに小さいのにね、うちの子になろうね。」
と、ママのことばでした。

みみという名前ですが。・・・やせ ちび ねずみ いろいろでましたが、
結局(けっきょく)、耳だけが異様(いよう)に目立つと言うことで、みみと 安易(あんい)だけど
とっても可愛い名前がつきました。生まれて二年目にして初めて
市(し)民権(みんけん)を得たような気持ちでした。
ママは、「あなたのなまえは、みみちゃんよ。今日からママの子供よ。」
やさしく話しかけてくれました。
「みみちゃーん」とやさしく呼ばれると、とても幸せな気持ちに
なります。

すこし落ち着くと、ママは、迷い犬かも知れないわね。
探している人がいると悪いからと、
『ヨーキー保護(ほご)しています。(皮膚病(ひふびょう)あり)お心当たりの方は、
電話**の****まで、ご連絡下さい』と、張り紙を作り、みみのいたあたりに、貼(は)りにいきました。
でもみみは知っていたよ。絶対(ぜったい)、電話が来ないことを。
そしてママは、みつからないよう、人があんまり見ないような場所に貼(は)って来たことを。
それからは毎日、病院通(がよ)いでした。一年間、一日も休まず薬を飲み続けました。
薬も、特別にアメリカから取り寄せたものらしいです。

みみは、このような動物好きの家族のなかで、幸せに暮らして
います。体全体の毛が抜けてしまった時も
「可愛い子ね。みみちゃんのお目め、ボタンみたいで とても可愛い。」
と、いつもママは、抱きしめてくれました。他の人達にも
「可愛いでしょう」
と、みみが恥(は)ずかしくなるほど自慢(じまん)するのです。

今ですか?絶対(ぜったい)、治らないと、言われていた毛も生えそろい、
黒と黄金色(こがねいろ)のツヤもよくリンとした、とっても美人ですよ。

( 二 )
ママはよく出かけていて、いつも みみとりーちゃんの二人で
お留守番(るすばん)です。泣き虫で甘えん坊のみみに、いつもりーちゃんは
優(やさ)しかったです。何をしても 怒りません。だから、お留守番(るすばん)でも平気でした。 
でした と言ったのは、優(やさ)しかった りーちゃんは、もう年を取っていましたから、あちこち具合(ぐあい)が悪くなって来て、
ちょうど一年前、亡(な)くなってしまいました。

あの日のことを話します。
りーちゃんは、一ヶ月ほど前から、病院へ行って 点滴(てんてき)をしてもらっていました。
パパ、ママ、お兄ちゃん、そして時々帰ってくるお姉さん達(たち)が心配(しんぱい)していることを知っているので、
いつも大丈夫(だいじょうぶ)の顔をしていました。
でもみみは、知っていたよ。もう歩く力さえ残っていなかったことを。
そして、あの日 みみに言ったんです。
「ぼくは、もうダメだ。こんどは、お前が この家族を まもれ。」と。
そして「今晩(こんばん)、お前の寝床(ねどこ)を ぼくに貸してくれ」と。
それまでりーちゃんは、パパとママの寝室(しんしつ)で、みみは、
おしっこを時々、漏(も)らしちゃうので 夜はケージの中で寝ていたのです。
もちろん、みみは オーケーサインを出したよ。
今日は、パパとママと一緒(いっしょ)に寝れるんだもの。りーちゃんはケージの中へ自分で入っていってしまいました。ママは、
「あーら、どうしたの?りーちゃん。みみちゃんのお家へ、
入ってみたかったの?」って
「しょうがないわね。じゃ今日は、みみ パパと寝(ね)なさい。
おしっこしちゃだめよ。」
そして その朝のことです。りーちゃんは みみのお布団(ふとん)の上で冷たくなっていたんだ。
りーちゃんは、そんなに偉い人だったんです。きっと幸せだったから、そうゆうすごいことができたんだろうね。 皆、悲しみに暮れていました。
その時、みみは、決心したんだ。{これからは、みみの、出番だ。}と。
おしっこもトイレでするように頑張(がんば)っているし、皆が楽しそうに笑ってくれるので、ボール遊びも練習(れんしゅう)しているんだ。

お兄ちゃんが仕事で疲(つか)れたとき、
「みみに会いに来た」と、時々帰ってくる。みみ、うれしくなってサービスしまくるんだ。それに、みみ、家の中では、泣かないことにきめたんだ。
おりこうさんになろうと心がけているんだけど、なぜか皆は、その事を とても気にしてるんだ。
みみは 人間だと思っているのに、「やっぱり分かってもらえないのかなー と。
黙(だま)っているけど、みみは何でも知っているんだよ。パパとママが寂(さび)しいのを。

だって、お兄ちゃんはお仕事で りーちゃんは天国へと、このお家から出ていったんだもの。
でもねー。でもね、パパ、ママ、 みみちゃんが いるよー