12月9日、珍しく東京に雪が降った。 夜中から降り出した雪は街を白銀に染め、 次の日の夕方まで降り続いた。 少し頼りなく見える淡雪が幾重にも積もり、地面を隠してゆく。 数時間後には溶けてしまうその雪は、 短い命ながらも、必死に俺達にその存在を焼き付ける。 その様を見ながら、俺は何故か、切なくなった。 【淡雪】 「・・・すっげ・・・なにこれ・・・」 眠い身体を無理やり起こして仕事に出る。 それまで眠気を纏っていた頭が、 その寒さと目の前の白銀の世界によって急に起こされた。 いつも通りに仕事へ行く用意をして、 マネージャーを待たせている駐車場へ向かう為に玄関を開ける。 そのまま車に乗り込み、寝の体制に入る。 浅い眠りに、車が止まったことで目が覚める。 先に車を降りた剛の言葉に「朝っぱらからうっせぇな〜」と呟きながら自分も車を降りる。 目が覚めた。 「うわっ、寒ぶっ!」 コートを着込んでいる剛と違い、光一はジャージ姿だ。 寒いに決まっている。 「雪?マジで?ほんもん?」 「当たり前だろ、こんなとこにニセモノの雪降らしてどうすんだよ」 積もる雪を見てニセモノを思い浮かべるのは職業病だ。 そんな剛とマネージャーの会話を聞きながら、さっさとメイク車に向かった。 こんなとこにいつまでもいたら死ぬって。 大袈裟なようだが、薄着の光一にはそう思えた。 今日は雑誌の撮影なので、衣装は暖かいコートか何かが用意されているだろう。 今日は屋内での撮影の予定だったのだが、急遽外での撮影となった。 きっとカメラマンも雑誌社側の人間も予想外のアクシデントを喜んでいるだろう。 「冗談じゃねーよ、寒みーっつうの」 ブツブツと言いながらも身支度を進める光一。 光一がメイク車に入ってしばらく経つが、剛はまだ来ない。 「あいつ何やってんだよ」 そのとき、「外すげーよ〜」と言いながら剛が入って来た。 「すごい降ってきた」 光一にとっては気が滅入りそうなことを嬉しそうに言う剛。 「子供じゃねーんだからそんなにはしゃぐなよ」 「ええやん、雪降るとテンション上がってくんねんもん」 「お前上がんない?」と聞かれ、「逆に下がる」と答える。 「でもお前暑い方が嫌いやろ?」 衣装に着替え、もくもくと自分のメイクを進めながら話掛けてくる剛。 「寒すぎるのも嫌」 「うわ、出た!我侭王子!」 「うっさいな〜」 メイク車でのそんな軽口も久しぶりだった。 昔は外でのロケが多かったので、よくこんな感じだった。 きっと前よりは、替わったことの方が多いと思う。 カメラマンが替わり雑誌の記者が替わり、マネージャーが替わり、そして何より、自分達が変った。 たった4〜5年で、大人になった。 昔はならざるおえなかったものを、少しずつ取り戻しながら・・・。 そして信頼が・・・愛情に変った。 自分でも気付かないうちに少しずつ少しずつ色々なものが変っていく。 それはまるで降り積もる雪のようで、 俺をセンチメンタルな気分にさせた。 ◆ ◆ ◆ 外に出ると、さっきよりも少しは小降りになっているものの、 まだ雪が降り続いていた。 「ったく、いつまで降る気やねん」 それに対してまた文句を言う光一を見て剛は、 「みなさ〜ん、王子は寒くてご機嫌が良くないので早く終わらせましょうね〜」 などと言ってスタッフの笑いを誘っていた。 それを聞いた光一は、それにノッって、 「そうしてくれるとありがたい、ヨキニハカラエ」 と言って、更にその場を笑わせた。 こんな楽しい時間も、懐かしい雰囲気も、この淡雪が連れてきてくれた。 嫌だ嫌だと文句を言いながらも、光一はこの雪に感謝していた。 ◆ ◆ ◆ +end+