逞しい胸にぎゅっと抱きしめられる。それだけで心が幸せでいっぱいになった。 甘えたようにすり寄ると、そっと髪を撫でてくれる愛しい人。 「こおちゃん…」 囁くと、胸をぺろりと舐め上げた。この逞しい胸は、あと少しで削ぎ落ちてしまう。 「なんや?」 そっと見上げると、数時間前に色っぽく、そして激しく求めてきたオトコと同じと思えないくらい優しい眼差しが、真っ直ぐに見つめていた。 言いたいことは、たくさんある。けど、今はどうでもいい。 こうやって抱きしめて、髪を撫でてくれるだけでいい。 「ううん。何もない…」 「そうか…」 光一は年があけたら二ヶ月間舞台に立ち続ける。そんな事はとっくの昔にわかっていたのに、いざ目の前に迫ると動揺してしまった。 また怪我をしたらどうしよう…とか、もっと酷い怪我をしたらどうしよう…とか。 このまま舞台が光一を奪ってしまうのではないか…とか。 そんな事を考えてはいけないと解っているのに、暗い想像をとめられない。 光一はこの前の公演で【ギリギリの快感】を知ってしまった。 きっと、この男はその快感をこれからも求めてしまうだろう。 命をかけて仕事をし、成功した時に身体を駆け抜けるのであろう快感を求めて…。 自分はその後ろ姿を見守るしかないのだ。どんな些細な哀しみも苦しみも光一に訪れないようにと祈りながら、笑顔で送り出してやるのだ。 たとえ、どんなに心のなかで叫んでいても…。 「雪、止んだかな…?」 瞳を閉じれば浮かび上がる、光一の部屋に来る時に見た激しく舞い降りる雪。 雪は音を吸収してくれる。しんとした中で、剛が雪を踏む音だけが耳に響いた。 「やんで欲しくないな…」 もっともっと降り積もって、このまま隠してくれればいいのに。 こうして光一の胸に抱かれたまま、雪が全てを隠してくれればいいのに。 そうしたら、きっと彼はこのままでいてくれる。優しく抱きしめて微笑んでいてくれる。 けれど、それは光一が望む光一自身の姿ではない……。 「お前、雪とか好きやったっけ?」 耳元で囁く、低くて優しい声。。 「好き…大好き……」 もっともっと、もっと激しく降ればいい。街を全て覆い隠すくらいに。 その雪は街の雑音をキレイに吸収してくれる。 そうしたら……。 この胸の叫びが光一に聞かれる事は、きっとないだろう……… +++ 【うたたねさんからのコメント】 2002年12月8日深夜の話ってことで(笑) ゆきちゃんの筆が速くて、ちょっと自分を反省。とほほ。 --------------------------- 【佐倉のコメント返し】 素敵なお話をありがとう! 聖なる夜に相応しい切ないお話・・・。 交換小説企画、またやろうね!