『緑の風が吹いてる丘で〜後編〜』 数日後、志帆は実家へ帰ると言い出した。 そんな志帆に、甲斐は、一緒に町をでると言った。 志帆がダメだと言っても、水族館で待っているからと言って・・・・。 武司は藤木病院の院長室へと駆け込んだ 「藤木が居なくなったんです!もしかしたら、あいつ倉橋先生と・・・・・」 「ほっとくんだな」 「けど」 「女は来ない、これであいつもひとつ勉強するだろう。 きみも覚えておきたまえ、愛など幻想に過ぎないということを・・・・」 そんな啓輔を睨みつける武司 「あなたは気づかないんですか?そこまで甲斐を追い詰めたのが、あなただということに・・・・・」 えっ?と驚く啓輔を背に、武司は部屋を出て行った。 夕方の町のなかを、武司は甲斐を探していた。 もしやと思い、志帆の部屋に向かった。 しかし、そこにいたのは志帆1人だった。 「藤木はどこにいるんですか?教えてください。 あいつは知ったよ、先生と父親のこと」 志帆が微かに身じろぐ 「それでもあんたと一緒にこの町を出ようとしてる。 来るはずもないあんたを待ってるんだ!」 武司は必死だった。 ふと、志帆の傍らにあるボストンバッグに気づく。 「今夜この町を出ていくの」 「それじゃ・・・・・」 「1人でよ・・・・。行けないでしょ?彼の待つ場所には・・・・・行きたくても行けない・・・・・・」 志帆が泣き出した。 志帆の気持ちを知り、武司も胸が痛くなった。 武司が水族館へ行くと、そこには甲斐がいた。 「俺にも黙って行こうとしてたのかよ?」 甲斐は何も言わない、そして、道の向こう側をじっと見ていた。 「来ないよ倉橋は・・・・・・藤木」 「俺は信じてる、先生はきっと来る」 そのコトバに、武司の心は苦しくなる 「バイトだろ?行けよ」 しばらくして、甲斐が気を使って言った。 「・・・・・・裏切ったわけじゃない、倉橋はお前を・・・・。 もっと早く出会いたかったって言ってたよ、父親よりも先に・・・・・。 そしたら、違う出会い方をしただろうって・・・・・・。」 自分の気持ちを堪えながら、武司は言った。 「会ったのか?」 武司を見つめる甲斐、2人の視線がぶつかる 「俺はお前を行かせたくなかった」 武司は甲斐の幸せを選ぼうと思った。それが今自分に出来る、精一杯のことだから 「・・・・倉橋は今夜の夜行で田舎に帰る・・・・・・・・8時発長野行きで・・・・・」 甲斐がはっとして時計を見た。7時半だ。 「・・・・まだ間に合うかもしれない」 「ありがと」 駆け出して行く甲斐の後ろ姿を、武司は胸に刻んでいた ≪偶然、春の小道で出会うのもいい―夏の校庭でも、秋の図書館でも、冬の星座の下でも≫ 帰り道で武司は、涙が止まらなくなった ≪もう一度出会いから始めようと言ったら≫ 甲斐の後姿を思い出しながら、武司は泣きつづけた ≪きみは・・・・・頷いてくれるだろうか・・・・?≫ ***End***