『この眼も耳も、思考さえも塞いでしまえたら』   ―眠れない羊― ときどき思う。 自分のこの思考を止めることが出来たら、 少しは楽になれるだろうかと。 眠れない。 体は睡眠を欲しているのに、 心が痛んで、頭が冴える。 気休めに羊の数を数えてみても 羊達はただゆっくりと頭の中を通り過ぎていくだけで、 睡眠を誘ってくれるわけではない。 誰が眠れないときに羊の数を数えろなんて言いだしたのか・・・? そんなことなら、猿でも牛でも何でもいいじゃないかと、 自虐的な考えも過ぎり苦笑する。 こんなのただの八つ当たりだ。 理解してはいてもなんだか悔しくて、 だからと言ってこんなとき恋人に電話するのも悔しくて。 解ってる・・・逢いたいと心が叫んでいることを。 彼が側に居てくれれば、それこそ安らかな眠りが訪れるだろう。 それでも自分のなかのちっぽけなプライドがそんな些細なことすらも邪魔して、 僕は手にした携帯を握ってはまた離す。 光一の声が聞けるだけで眠れるかも・・・なんて、 段々女みたいな思考になってくるのが嫌で、 そんな自分は許せなくて、ムコウも忙しいだろうというへんな遠慮もあったりして、 連絡出来ない。 どうして会いたいときに会えへんのやろか・・・ 「あー!もう!あかんわ・・・電話しよ」 ベッドに横たえていた体を無理やり起こし、 手にした携帯をもう一度睨んだ。 「3コールで出なかったら諦める!よっしゃ」 出る確立はゼロに果てしなく近く、 ちょっとやっぱり出て欲しくないかもと思う自分の我侭な気持ちもあったりして、 メールではなく電話にしてみる。 何故恋人に掛ける電話にこんなに緊張するのか。 自分はこういう事は元々苦手なのかもしれない。 胃が痛くなってきた。 それでも出ないだろうと思い込むことで勇気をだし、 呼び出した携帯番号。 ―ワンコール― ―ツーコール― ―スリーコール― 切ろう。 もう切ろう。 と思った4コール目。 声の聞きたかった相手の声が聞こえた。 「もしもしー?おい、どしたー?」 思わず固まってしまった自分に、 光一の呼びかける声が聞こえる。 「―あ、うん、ごめん」 もしも出てしまったら何と言えを言うのか、全然考えてもいなかった。 会いたくて連絡したとか、声が聞きたくて・・・なんて、鳥肌が立つような台詞を言えるわけも無い。 どうすんだ?俺。 「珍しいやん、電話なんて」 「 ―うーん、まぁ・・・」 なんとなく言葉を濁す。 しかし、ここまで来て誤魔化すのもなんだか癪で、 「いや、なんとなく声聞きかかったっていうか」 そんな言葉を口に出す。 「―――」 黙る光一に、やっぱり寒かったか?と、 さっきまで思いつめてた自分が居たのに、 なんか段々こっちが冷静になってきた。 「どした?」 なんて、さっき光一が言った台詞をこちらが言ってみた。 「―・・・いや、なんかキタかも・・・」 「は?キタ?なにが?」 「いや、なんつうか・・・・会いたくなってきた」 僕の言葉の何が彼を刺激したのか解らないが、 先程の寒い台詞が彼にはどうやらキタらしい。 「ちょっと今から行ってもいい?」 そんな即断即決オトコの台詞とともに、 僕の答えを聞かずに通話は途切れた。 「・・・・は?なんで切んねん・・・ちゅうか、え?今から来んの?」 ベッドにごろんと寝転がり、纏まらない先程の会話の中から必要な部分だけを思い起こしてみた。 今から彼が来る。 「マジで?」 知らずに緩む頬を手で押えながら、ひとり自分につっこみを入れる。 「さっきまでの俺のシリアスちっくな思考はなんやってん」 あーあと、思わず溜息を付いてしまいながら、 しかしその顔は安堵に包まれていた。 ―真夜中の道路、彼の車を飛ばせば               到着するまであと30分弱― もう一度、彼と一緒に羊でも数えようか。 そんな風に単純な自分に、少しだけ笑いながら・・・。 ++++++++