彼は1年ほど前から、自宅の地下室に閉じこもるようになってしまった。 何が彼をそうさせたのか、まだそれははっきりと口にすることは出来ないけれど 彼がある事件をキッカケに、例えば人を愛するという感情を忘れてしまったことだけは確かだ。 彼は笑わなくなった。 いや、正確には笑い方を忘れてしまった。 彼の笑顔をもう一度見ることは出来るのか・・・。 彼から愛してるともう一度聞くことが出来るのか・・・ それは今はまだ分からないけれど、僕は信じていたい。 少しずつでいい、だからあの頃の感情を取り戻して欲しい。 僕を愛さなくてもいいから。 だから笑い方を思い出してください。 それがたったひとつの、僕の望みです。 【Remote 〜愛することを忘れた彼〜】 僕と光三郎様との出会いは、中学生のときでした。 僕の母は氷室家に仕える侍女で、それまで別々に暮らしていた僕を 父が亡くなったときに引き取り、大旦那様の御好意で氷室家に置いてもらえることになったのです 当時3歳だった僕と父を置いて出て行った母。 10年間も会っていなかった母と、急に親子のように接することが出来る筈もなく 父を失った僕は、独りでした。 多感な時期にこういった環境に置かれた僕は、自分から壁を作り、 1人でいることが多かったのです。 そんな僕にお声を掛けてくださったのが光三郎様でした。 +++ 「そんなところで何しているんだ?」 僕がいつものようにお屋敷の奥にある竹林に1人でいると、 誰かが声を掛けてきた。 声のした方を振り返ると、そこには氷室家のご子息の光三郎様がいらっしゃった。 すぐに頭を下げると、光三郎様はカラカラと笑って、 「そんなことしなくてもいいのに」と言いながらこっちに向かって歩いてきた。 光三郎様はとても頭がよくて、僕と同い年なのにとても落ち着いた雰囲気を持っていらっしゃる。 普段からお優しい方だったが、こんな風に笑ったりもするんだな〜と、当たり前のことに驚いてしまった。 「君、いつも1人でいるよね?」 光三郎様の問いかけに、頷くことしか出来ないでいる僕に彼は微笑むと、 「名前は?」と聞いた。 「・・・剛です」 「剛か」 そう言ったあとにしばらく黙って何かを考えているようだ。 僕の名前が何かおかしかったのだろうか? 不安げに瞳を揺らす僕に、彼は急にこんなことを言い出した。 「なぁ剛、僕の話相手になってくれないか?」 「・・・・え・・・?・・・僕が、光三郎様の・・・ですか?」 天才の考えることはよく分からない。 あまり言葉を交わしたこともない、侍女の息子の僕に話し相手になって欲しいだなんて・・・ 「ああ、剛さえ嫌じゃなかったら」 「嫌だなんて・・・僕なんかで宜しいんですか?」 「あぁ、剛ともっと話がしてみたい」 同い年のお坊ちゃまの気まぐれで、 僕はその日から彼の話し相手になることになった。 身の回りのお世話をしながら、光三郎様が大学を飛び級でご卒業され、 アメリカに留学なされるそのときまで、彼の話しを聞いたり、僕の話しをしたりしていたのだった。 ++++++++ 【Remote 第2話 〜あの頃の彼〜】 光三郎様は、いつも楽しいお話しをたくさんしてくださった。 光三郎様は何でも知っている。 そしてその内容は全て興味深いものばかりで、 僕はいつも彼の話しに引き込まれていった。 誰にも・・・自分の本当の母親にでさえ心を開けなかった僕を、 光三郎様は少しずつ、少しずつ変えていってくれた。 最初は話し相手と言ってもどんな話しをしたらいいのかと考えたりもしたが、 そんなことは考えなくてもいいよと彼が言ってくれてからは、 あまり緊張せずに話せるようになった。 そして、自分のことも、少しずつ話せるようになった。 「母とうまくやらなければとは思うんです。でも、どうしたらいいのかがわからなくて・・・」 それまで誰にも言えなかった母とのことでさえ、光三郎様には話すことが出来た。 そして、そんな僕の話を、彼は本当に真剣に聞いてくれるのだ。 「僕が3歳のときに出ていったんです。顔だって覚えてなかった。それなのに、急に親子らしくするなんてどうすればいいんだろう」 「頑張らないといけないとは思うんですけど・・・」 僕の話を聞いて、しばらく考え込んだ光三郎様は、僕の方を見てこうおっしゃっられた。 「無理に親子らしくしようと頑張らなくてもいいんじゃないかな・・・・?」 「・・・え?」 俯いていた顔を上げると、そこには優しい目をした光三郎様がいた。 「10年間も離れてくらしていたんだ。血の繋がりはあると言っても、君が戸惑うのは当然の事だと思うけどな」 「当然・・・?」 「そう、それにね、頑張るってさっき言っただろ?」 「・・・はい」 「頑張るっていう言葉の語源を知ってる?」 「いえ」 「頑張るっていうのは、我を張るっていう言葉からきているといわれているんだ。    自分自身の我を張って、それに気付かないで疲れ果てて自分が傷ついてしまう。    だからね、あんまり頑張ろうとしなくてもいいんだよ?」 「・・・我を・・・張る・・・」 「そ、だからさ、少〜しだけ肩の力を抜いてみたらどう?そしたらまた、他の考え方が見つかるかもしれないだろ?」 そんな光三郎様の言葉に、僕は救われた気がした。 慰めの言葉を掛けられるよりも、ずっとこころに響いた。 独りぼっちだった僕のこころに、光三郎様は少しずつだけれど、入ってきてくれた。 ずっと他人に自分の心の中を見られるのが嫌だったのに、 それは嫌ではなくて、なぜかとても心地よかった・・・・ +++++++ 【Remote 第3話〜人を愛するということ〜】 「剛、君は恋をしたことがあるかい?」 ふと、そんなことを光三郎様から聞かれたことがあった。 「いえ・・・まだです」 なぜそんなことを聞かれたのかは分からないが、 中3にもなって初恋もしたこともない僕は、顔を赤くしながらも本当のことを答えた。 「そうか・・・」 「はい」 光三郎様の癖で、話しをしている最中に、よく1人で考え込むことがある。 今もそうで、こちらから声を掛けないと中々思考を戻してくださらないので、 どうしてそんなことを聞くのかと、僕は聞いた。 「恋というのは・・・難しいものだな」 「難しい?」 その意味がイマイチ分からず、聞き返した 「ああ、数式なら簡単に解けるけれど、人の感情というのはとても難しい」 数式と人の感情を一緒に考える光三郎様の思考が、とても彼らしいと思い、思わず笑いを洩らしてしまった。 「なんだよ」 含んで笑う僕を見て、光三郎様は少しだけ拗ねたような、そんな顔をなさる。 「だって、光三郎様は数式と人の感情を同じ事のようににお考えになってるんですもの」 彼は拗ねたような表情のまま、僕に問い掛けてきた。 「人の感情だって、数式のようにある程度の予測を付けることは可能だろう?その人間のそれまでの行動から予測はつくさ」 「ふふ・・・」 光三郎様らしい正論に、また笑ってしまう。 そんな僕を見て、彼はますますおもしろくないようだ。 「ちょっと待てよ、さっきから・・・何がそんなにおかしいんだ?僕が言ってることは間違ってる?」 「いえ、間違ってはおられませんけど・・・あまりに光三郎様らしいな・・・と思いまして」 「・・・僕らしい・・・?」 「ええ、なんでも答えを見つけたがる・・・それが光三郎様らしいと思います」 「だけど、恋は分からないよ・・・答えが見つからない」 そんなことをおっしゃる光三郎様に、僕は少し考えてから言った。 「・・・・・分からなくてもいいんじゃありませんか?」 「・・・え?」 「僕もよくは分かりませんけど、恋をすると人は理性で感情を押さえられなくなるんじゃないでしょうか?  その人のことが好きで、好きで・・・気がつくとその人のことばかり考えている。それが恋なんじゃありませんか・・・?」 「・・・気がつくと?」 「はい、相手のことが知りたくなって、自分のことを知って欲しくなる。そういう人間の貪欲な部分が出るんじゃありませんか?」 「貪欲な部分か・・・確かにそうかもしれないな・・・」 「ふふ・・・光三郎様は恋をなさってるんでしょ?」 「え?!僕は今そんなこと言ったかい?」 明らかに動揺している姿を見れば、彼が誰かに恋をしていることはすぐに分かる。 と、いうよりも、そんなことを僕に聞いてくる時点でそう考えるのが普通じゃないだろうか 天才的な頭脳を発揮しているいつもの彼とは違って、 顔を真っ赤にしながら、「そんなことはないよ」とボソボソ呟く彼は、 僕だけに見せてくれる顔をしてくれて、僕にはそれがすごく嬉しかった。 彼からの気持ちにも無邪気に気付かずに笑いながら、 そして・・・彼への気持ちにもまだ・・・自分でも気付かないまま・・・ 子供だった僕達は、そのまま2人で・・・いつまでも笑っていた。 そんな日々が、ずっと続くと疑わなかったから。 ++++++++++ 【Remote 第4話〜芽吹き始めた愛する気持ち〜】 僕が光三郎様に想いを告げられたのは、 光三郎様がハーバード大学への留学の為にアメリカへと旅立つ前日でした。 アメリカへの留学を知った僕は、悲しくて、寂しくて、 しばらく光三郎様と顔を合わせていませんでした。 光三郎様のお顔を見たら、泣き出してしまいそうだったから・・・。 ずっと一緒にいたのに、急にいなくなってしまわれるということが、 僕にとってすごくショックなことだったのです。 旅立たれる前日に、光三郎様のお部屋に呼ばれた僕は、 お気をつけて行ってらしてくださいと言わなければと、 俯きながらずっと思っていました。 「なぁ、剛・・・お前にずっと言いたいことがあったんだ」 急に光三郎様にそんな風に切り出され、僕が伏せていた顔を上げると、 真摯な光三郎様の瞳に捕まり、眼を逸らせなくなったまま、 光三郎様のお言葉を待ちました。 「・・・俺はずっとお前が好きだった」 「・・・ぇ?」 本当に驚いた。 言葉をなくすというのはこういうことなのかと、全く関係のないことを考えてしまうくらい。 「・・・でも・・・え・・・?」 「剛は、俺のこと嫌いかい?」 「嫌いなんてそんな!・・・でも・・・あまりに急なことで・・・」 おろおろと話す僕に光三郎様は苦笑しながら、 「そうだよな・・・俺はずっと考えてて今言ったけど、剛は今初めて聞いたんだもんな・・・」 小さく頷く僕に、光三郎様は優しくこう言ってくれた。 「分かった、じゃあ・・・2年後、2年後に俺が帰って来るときまでに考えておいてくれないか?」 「・・・でも・・・」 「ゆっくりでいいから、剛の答えがでるまでいくらでも待つから」 困惑した顔をしている僕を部屋に残したまま、 光三郎様は部屋を出て行きました。 僕はそのまま動けなくなってしまい、 光三郎様をお見送りすることも、お気をつけて行ってきてくださいと声を掛けることも出来ず、 ただただその場に立ち尽くしているだけだった。 そうして、光三郎様はアメリカ留学へと旅立たれたのだった・・・ +++++++++ 【Remote 第5話〜泡沫の恋〜】 光三郎様がアメリカに発たれてから1ヶ月が過ぎた。 僕はまるで心にぽっかりと穴があいてしまったように、 何をしていてもつまらなかった。 光三郎様が傍にいることが当たり前になっていたこの4年間、 こんなにも光三郎様の存在が僕の中で大きくなっていたなんて、 自分では全く気付くことはなかったのに・・・。 例えばいつも2人でお話をしていた時間になると 足が勝手に光三郎様のお部屋に向かっていたり・・・ いつものように2人分のお茶の用意をしてしまったり・・・ 他愛も無い会話が、僕の支えだった。 そのことにやっと気が付いた。 光三郎様からの急な告白、そして旅立ちが 僕にそのことを気付かせてくれたようだった。 それからまた幾つかカレンダーを捲った夏の初めのころ、 光三郎様から氷室家にお電話があった。 使用人の中では一番若い僕は一番下っ端で、 かかってきた電話を取るのも仕事のひとつだった。 朝の9時ごろ、いつものように廊下の雑巾がけをしていると、 隣の部屋にある電話がなったので、いつものように受話器を取った。 「はい、氷室で御座います」 「・・・光三郎だけど・・・剛か?」 「光三郎様?・・・え・・・あの・・・」 光三郎様からの急なお電話に、僕は何を話していいのか分からなくなって、 黙ってしまった。 お元気ですか?っていうのも何だかオカシイ気がするし、 とりあえず奥様も旦那さまも出かけていることを言わなければと思い、 「あの・・・奥様も旦那さまもお出かけになられているのですが」 「へ?・・・あぁ〜いや・・・いいよ、剛の声が聞きたかったんだし」 その言葉に黙ったままの僕に光三郎様は何か勘違いされたらしく、 焦ったように捲くし立てた 「あ・・・いや、別に剛の声が聞きたいから電話したとかっていうワケじゃないぞ?・・・いや、聞きたかったんだけども・・・  だからと言って別に無理に返事を聞こうとかそういうことじゃなくて・・・あ〜・・何言ってんだ?俺は・・・」 焦ってるような光三郎様なんて珍しくて、僕はクスリと笑ってしまった。 「おい、何笑ってるんだよ」 なんだか、前にもこんなやり取りがあったような気がするな・・・ ずいぶん昔のことだけど。 そんなことを思い出してひとしきり小さな声で笑った僕は、 今の気持ちを光三郎様に伝える事にした。 「会いたいです・・・僕、光三郎様に会いたい」 「え?」 「光三郎様に会って、抱き締めて欲しいです」 「それって・・・・」 「僕、ずっと光三郎様が隣にいてくれたから気付かなかったけど、光三郎様がアメリカへ行ってしまわれて  やっと気が付いたんです。  僕には光三郎様が必要だって。  光三郎様に会いたい、光三郎様のお傍に居たい。毎日そればかり考えているんです」 「・・・剛・・・俺も会いたいよ、早く剛の顔を見て抱き締めたい」 「はい」 「そうだ、忘れてた!この夏帰れることになったんだよ。 とは言っても1週間くらいだけど」 光三郎様のその言葉に、僕は笑ってしまうくらい反応してしまった。 「本当ですか?!」 「あぁ、8月の初めごろには帰れると思うよ」 「あと1ヶ月もあるのか・・・」 すごい勢いで声のトーンの下がった僕に笑いながら、 光三郎様がおっしゃった。 「俺も早く剛に会いたいんだけど、実験だの研修だので中々時間がとれなくてね。  でも毎日電話するから、1ヶ月なんてすぐさ」 「はい」 そう言ってくださる光三郎様の気持ちが嬉しくて、 僕は飛び跳ねてしまいそうな自分自身を叱咤しながら、受話器に耳を押し付けていた。 「とりあえず、そのことを父と母に伝えておいてくれないか」 「分かりました、8月の初めごろにお帰りになることを伝えておきますね」 「ああ、頼んだよ。じゃあそろそろ行かないといけないから今日は切るけど、明日またかけるから」 「はい、お待ちしています」 そう言って受話器を置いた僕は、少し前までは考えられないくらい幸せな気分でいた。 自分の中でもやもやしていたものを吐き出せたということと、 光三郎様と自分の気持ちが通い合ったという幸せを噛締めながら、 僕は幸せな気分に浸っていた。 こうして僕は、1ヶ月先の光三郎様のお帰りを待っていたのだった。 +++++++++++++++++ 【Remote 第6話〜哀訴する心〜】 「どうしてあんな冷たい言い方しか出来ないんだろう!」 華江が入れたお茶を飲みながら、くるみがいつものように 光三郎の態度に怒っていた。 「本当はお優しい方なんですよ」 「華江さんはいつもそういう風にいうけど、どうゆう風に優しかったっていうんですか?!」 「・・・光三郎様は、私の息子に良くしてくださったんです」 「息子さん・・・?」 「はい、大旦那さまのご好意で、息子もここで暮らすことになったんですが、  ずっと離れて暮らしていたもので、息子と中々うまくコミュニケーションがとれなかったんです」 昔のことを思い出しながら、華江は遠くを見ていた 「そんな息子に光三郎様はお声を掛けてくださって」 「・・・・」 「光三郎様とお話をするようになって、あの子は明るくなりました・・・私とも普通に話してくれるようになって・・・」 「そうだったんですか」 「ええ、光三郎様も楽しそうでしてね・・・・ただ、剛が・・・あの子があんな事になるまでは・・・」 「・・・あんなこと・・?」 ふと我に返った華江は、慌てたように言った 「いえ、なんでもありません。 今日はいろんなことを話してしまいましたね、関係のない話までしてしまって・・・」 「いえ」 「とにかく、光三郎様は本当はお優しい方なんですよ。 これからもよろしくお願い致します」 華江に頭を下げられ、くるみはそれ以上聞けなくなってしまった。 光三郎の昔のことも、剛という華江の息子のことも・・・・ ++++++ 「ほら、花とかがあった方が気持ちが明るくなるじゃないですか」 そんなことを言いながら、くるみは持ってきた花を花瓶にいけはじめた。 その声に、昔聞いた声がだぶる。 『光三郎様、お庭に咲いていた百合が綺麗だったので、ここに飾っておきますね』 『花なんていいよ』 恥ずかしくてそう言った俺に、笑いながら 『そんなこと言わないでください。 お花は飾っておくだけで気持ちが明るくなりますから』 そう言ったあいつ。 頼むから思い出させないでくれよ。 辛いから・・・。 ・・・辛い? 辛いなんて超えただろ、もうずっと辛いとも思えなかったのに。 「・・・やめろ」 「え?」 「こんなもの必要ない!」 花を掴んで捨てようとした光三郎の腕を、 くるみが掴んだ 「俺に触るな!」 頼むから俺の心をこれ以上引っ掻き回さないでくれ。 「・・・すまない、悪かった・・・今日は帰ってくれないか」 「・・・はい・・・それじゃあ彩木巡査は駐禁でも取ってきます!」 そう言ってくるみが出て行ってからしばらくして、華江が入って来た。 「光三郎様、お食事でございます」 「ああ、そこに置いておいてくれ」 「はい・・・・このお花、くるみさまが?」 「ああ、勝手に置いていったんだ」 「そうですか」 華江が奥のデスクに持ってきた食事を置くと、 部屋のもっと奥の方に、ひとつだけの花を付けた植木鉢が置いてあった。 それはこの地下室にある、唯一の植物。 「・・・あれは・・・」 その声に光三郎が振り向くと、華江がその植木鉢を見ながら涙を流していた。 「剛が好きだった花・・・飾っていて下さっていたんですね」 「あの花は剛が好きだったんじゃない、俺が好きだった花だよ。  だから剛が植木鉢に入れて、部屋まで持ってきてくれたんだ」 「・・・そうだったんですか・・・? あの子、いつもお庭であの花を眺めていましたから、あの子が好きな花なのかと思って・・・」 紫の花を付けた花は、風が入る筈もない地下室で、 どこか揺れているように感じた。 +++++++