最初はただの偶然で それがいくつも重なって いつしかそれは、運命になる。 きっとただの偶然。 本屋でバイトをしているオレが、彼の手の届かない場所にあった本を取ってあげただけ。 その彼は何度も礼を言って、一冊の画集を買って帰って行った。 何が、というわけではないが、なぜだかオレはその彼のことがしばらく頭から離れなかった。 それは彼が車椅子に乗っていたからなのか、 それともあの力強い瞳のせいか・・・? そのときのオレには、まだ分からなかった。 いつものようにダルイ朝。 バイトの時間ギリギリまで寝ていたオレは、 今朝も何も入れないコーヒーを飲み、 寝癖も整えずに自分の部屋を飛び出した。 もう一人暮らしも4年目になる。 光一はこの春大学も卒業したのだが、 特にやりたいことも見つからないまま毎日がダラダラと過ぎて行った。 バイトを入れ、友達と遊び、それなりに忙しい日々。 ちょっと前まではオンナと付き合ったりもしたけど、 今ではそれも面倒臭いだけで虚しくなる。 大学行ってた頃は親友の長瀬なんかとつるんでよくナンパとかしてたけど。 何人かのオンナと付き合っても、結局オレは満たされるわけでもなく、 オレの態度が冷たいと言って、オンナ達は不満ばかり言い始める。 向こうが別れると言ってきても、俺も別に未練なんてないから追いかけるわけでもない。 そんなもんだと思ってた。 みんなそう。 夢とか希望とか、そんなんダサいとか言いつつも、結構憧れてることも。 ダサいと言い張るのは、自分がそれを見つけ出せないから。 そういうのを持ってる奴らを見ると、羨ましくて、眩しくて・・・。 自分がどんどん惨めになるから、 オレの人生なんてこんなもん? みたいな、絶望的な気分。 それでもやっぱり、相変わらずな日常は変わる事はなくて、 そんなこと自体が結構ムカついたりするのだけれど・・・。 誰も必要としない、別にされるわけでもない。 人生を諦めかけてた。 それで自分を納得させてた。 自分と向き合おうとしなかった。 それがオレにとって、一番楽な方法だったから・・・・。 ////////// あのよく晴れた春の日、 それはいつもと変らない一日のように思えたけど、 その日、俺は初めて人を好きになった。 その人は男で、自分も男だったけど、好きになってしまった以上それは仕方の無いことだと思うことにした。 その人はとある本屋の店員で、俺の届かない場所にあった本を取ってくれた。 客の欲しい本を従業員が取ってあげるのは当たり前のことなのだけど、 なぜか胸がドキドキし始めてしまって、ちゃんとお礼が言えたかどうかも定かじゃない。 恋なんて絶対にしないと思っていたから、一目惚れをしてしまった自分に、ちょっとした希望を持つことが出来た。 いつもと同じ朝。 ベッドから降り、車椅子に乗って、まず最初に顔を洗いに行く。 高校の時に事故で足を失ってから、考えてみればもう5年も経つ。 22歳の春。 人生の中で俺は一度夢を諦め、そして今、また違う道に向かって歩き出していた。 高校時代、小学生の時から続けていたバスケでインターハイの出場も果たした。 卒業間近、インターハイでの成績を認められ、プロのバスケットチームにスカウトもされていた俺は、 現実味を帯びていく夢に向かって、確実に突き進んでいた。 プロのバスケット選手になることは、小さいころからの夢だったし、 諦めることになるなんて思ってもみなかった。 当たり前の事だと思ってた。 それなのに、神様はどうして俺に味方してくれなかったんだろう・・・。 18歳の10月。 突然の事故によって、俺の夢は全てかき消されていった。 入院中に見舞いにくるバスケ部の連中の顔なんて見たくも無かった。 なぜ俺が?自分1人がそこにいたわけじゃなかったのに・・・。 そんな風に考えてから、そんなことを考える自分がとても嫌で、自暴自棄になった。 何もかも失った俺に残されたのは、動かなくなったこの両足だけ・・・。 リハビリセンターに居た1年間、バスケの時間が一番嫌いだった。 そして一年後、車椅子が俺の足になった。 でも、高校になんて行きたくなかった。 中退したっていい。 あと少しの単位と出席日数で卒業出来ようが、もうどこにも行きたくなかった。 こんな自分の姿を、高校時代の俺を知ってる人間に見られるのが耐えられなかった。 でも、20歳になったとき、これじゃいけないと思った。 自分に対しての苛立ちを家族にぶつける自分。 そんな自分が、世界で一番嫌いだった。 それから、また高校に通いだし、なんとか卒業した俺は、 自分のやりたいことを考える事にした。 そのとき俺は、長く暗いトンネルの中から、光を遠くの方に見つけたような気がした。 もう一度、生きてみようと思った・・・・・ /////////////////