誘拐              2001/09/26
 
 うちでは以前、やっぱりマルチーズを飼っていたんですが  
 なんと! 誘拐されてしまったのです!!
 自慢ですが、ランズという名の彼は、バリバリの血統書つきで 
 数々のショーでチャンピオンに輝きまくったわんわんの息子でした。 
 涙やけひとつないその被毛は極上の絹糸のように白く美しく、
 散歩の時もまるで視線を意識するかのように
 くっと頭をあげ、颯爽と歩く。
 バツグンのプロポーションに整った顔立ち。
 どんな命令も瞬時に理解する頭のよさ。
 まさに完璧な犬でした(母:談)。
 母はショーなどに全く興味を示さない人でしたが
 あちこちから「費用なんかは全部面倒みるからショーにだしてほしい」     
 と、頼まれまくったんだそうです。
 
 そんな彼には恋人がいました。
 近所に住むプードルのエリちゃんです。
 通りに面した庭で放し飼いにされてる彼女に会うため
 彼はよく家を抜け出しました。
 車はきちんと避けるし、長居もしない。
 垣根越しに少し遊んで、何食わぬ顔で帰ってくる。
 母は彼の楽しみを奪うのが可哀想で、
 時々はわざとドアを開けておいてあげたそうです。
 

 ある日、いつものようにデートに出かけた彼は
 帰ってきませんでした。
 青い車に乗った人が、彼を連れて行ってしまったのを
 近所の人が見ていました。
 キャリーバッグを持っていたそうですから、前から目をつけていたのでしょう。   
 我が家にとっては大切な家族でも、一般社会では犬は「所有物」です。
 誘拐ではなく、ただの盗難にすぎません。
 まして、外へ出ていたわけですから
 不法侵入も器物損壊も適用されず、「捨て犬かと思った」と言われたら
 何の罪にも問われることはないでしょう。

 
 長い間、彼を連れ去った人を憎んで「許せない」と思ってきました。
 犬好きなら、彼がどんなに大切にされているのか
 なぜわからないのだ?!と思いましたし、
 もし売買のためならもっとやりきれない。
 でも、今になって思います。

 
 こちらに落ち度はなかったのか、と。

 
 世の中は犬好きな人ばかりではありません。
 小さな子供や犬嫌いの人にしてみれば
 リードをつけていない犬が歩いているのは恐ろしかったでしょう。
 たとえ、絶対噛まないようしつけられた小型犬でも。
 もしかしたらどこかでおしっこやうんちをしたかもしれない。
 いや、しなくても普段そんなことで迷惑してる人なら
 飼い主のついていない犬は不快だったでしょう。
 犬にも自由をあげたい気持ちはあります。
 好きな時に好きな人に会いたい気持ちもわかります。
 でもここは野中の一軒家ではないのです。
 犬を飼うにはルールがあります。
 それを守るのは飼い主だし、犬が安全に楽しく暮らせるように
 最後まで責任を持ってやるのが飼い主の勤めだと思います。

 
 私は母も悪かったのだと、今は思っています。
 そして同じ過ちは決して繰り返してはいけないと
 心に誓っているのです。
 あれから10年以上たっているし
 おそらく彼はもう、この世にはいないはずです。
 せめてその後の彼の生涯が幸せであったことを
 心のそこから願ってやみません。