今年の一大イベントであるワールドカップサッカー大会がここ札幌でも開催され大変な盛り上がりでした。イングランドなど外国からのサポーターたちが、お気に入りの選手の背番号をつけたシャツを着て街中を歩く姿はスポーツ心をくすぐるものがあります。この時期の札幌は気候が安定し運動会やテニスの大会などスポーツものが毎週開催されているようで、普段体を動かすことから遠ざかっている私も健康のため愛犬とジョギングをはじめました。そんなある夜のこと、獣医師の会合にてホノルルマラソンの話題となり、同業のU先生がすでにエントリーを決めておられ他にもA先生、F先生も計画中とのこと。マラソンに興味がなければヘエエーという程度の話でしたが、私は完走したときの達成感が一度走ると忘れられなく、その話しに触発されてしまいました。都合でホノルルマラソンにはどうしても出られませんが、その話を聞いていまだフルマラソンに出場経験のない私は無性に走りたくなり、ロングランならば走ってみたいと思っていたサロマ100キロマラソンと利尻島一周54キロマラソンを考え、締め切りに間に合った利尻島マラソンに出場申し込みをしてしまいました。あの夜の酒とU先生に甘く誘われた悲劇?幸運?の始まりでした。今までススキので飲み屋をはしごするときさえTAXIを使っていた私、でも、一度決めたからには引っ込みはつきません皆に笑われます。朝6時に起きて雨の日も二日酔いの日も地道にランニングをはじめました。

利尻島マラソンに出場を選んだ理由は実はもう一つありました。10数年前、利尻島には利尻牛乳という島の中で飼育された乳牛の希少なミルクがあったのです。数年前に観光でこの島を訪れたところすでにこの名前の牛乳は見られなく、島にはもう酪農業を営んでいる人はいないとのことでした。今回、島に渡り獣医師の興味としてぜひ幻の牛乳のことを知りたかったのです。事前に豊富でウシの獣医をしている同級生のK氏に聞いたところ島には酪農家も獣医師も10年以上いないらしいとのことでした。

さて6月9日の大会が近づき、稚内からフェリーで島にわたりましたが天候は悪く利尻富士は雲の中です。当日、朝6時スタート、最高気温の予想は12度、冷たい雨と島特有の強風の中開会式は行われ、参加者約100名はスタートいたしました。

私は犬を連れて走るので最後尾からスタートし、犬には犬ぞりレース用のリードをつけています。途中人家のあるところでは島の人が声をかけてくれ、とても和やかな雰囲気で私も犬も序盤戦は余裕で走っていました。

その余裕も半分の30キロくらいまでで、走っているつもりではあってもほとんど歩いているのと変わらないくらいとなったところが島のちょうどスタート地点の反対側。もう戻るにしても歩くしか手だてはありません。そこからは右手に利尻富士、左手に日本海を見ながらほのかに昆布の香りを楽しみつつ1人と一匹は歩きました。しかしこの島は海に山が突き出たような地形ですのでとにかく坂が多いのです。歩くだけでもけっこう息が切れるし足の裏や膝には日頃の運動不足でかなりの負担がかかっています。ラスト10キロ地点からは歩くことすらままならない状態になり、足を一歩ずつただ前に出すようなつらさでした。しかし伴走してくれている愛犬は私よりもかなり軽い足取りで、歩道の端の方のにおいをあちこち嗅ぎ回っています。四つ足ってすごいものなのですね。ああそしてようやくゴールが見えてきました。8時間以上かかってついに完走です。早い人は3時間16分で戻ってきたとか、すごい方がいるものです。悪天候と過酷な距離のため完走率は65%と報告されました。係の人がゴールで出迎えてくれて犬と抱き合い一緒に記念撮影をし、その足で出場者の懇親会に参加しました。会場ではウニやホタテ、ほっけなどが炭火で焼かれ、どの人もきつかったことは忘れて笑顔でうまーいビールのジョッキを飲み干したのでした。ジョッキを傾けながら私は自分自身の達成感よりも、島の人たちがとても親切にしてくれたことへの感謝の念で一杯でした。その間、愛犬はさすがに疲れたのか車の中でうずくまってぴくりともしません、ちょっとかわいそうなことをしたかなあ。私も足は自分で靴のひもをほどくことができないほどの筋肉痛でぱんぱんになっています。そして案の定、翌日はトイレに行くことができないほどの下半身麻痺におそわれたのでした。もう若い頃よりかなり体力、回復力ともに落ちているのでしょう。

翌日は自分が走ったコースを車で一周してきました。昨日歩いたコースの一歩一歩に道しるべが付いているかのような気がしてくるのでした。

そして、例の利尻牛乳を探しました。島の人、観光案内所、役場などで聞きましたが10年以上前のことで今は分からないとのこと。やはり幻の牛乳だったかとあきらめかけたとき、鴛泊の町はずれに一軒の家がありそこの看板にご自由におやすみ下さいと書かれているところがありました。そしてそこには“ミルピス”と名づけられた自家製の飲料が売られており、ちょっと興味を持った私はそこに行ってみましたところ、なんとそこが島で最後まで酪農を営まれていたお宅だったのです。確かに家の横には牛舎のようなものや裏にはおそらく干草をおく納屋のようなものもありました。お話を伺ったところ約50頭ほどの乳牛を飼い、島の中でしか手に入らない利尻牛乳という製品を主に、島の学校や特定の島の人向けに生産していたとのこと。50年以上酪農を続けてきたが島での酪農はとても過酷で、何軒もあった酪農家が次々やめていき、ついには自分一軒になったが15年前についに離農したのだと語ってくれました。当時は牛乳の生産が島の牛乳の需要を賄いきれなかったのだそうで、牛が病気になると稚内から獣医を呼んで、治療費の他に旅館代や旅費も負担していたから大変高くついたと言っておりました。その名残でここの女将さんは自分で看板にあった“ミルピス”という飲み物を作って販売しているのだそうです。ミルピスの味はカツゲンとカルピスの間くらいの味でなかなかの美味でした。このほかにもシソジュースやハマナスジュース、なんと行者ニンニクジュースというものもあり、皆ごちそうになって参りましたが、やはりここでも島に人の優しさを感じさせられました。残念ながらもう利尻牛乳を味わうことはできませんが、その歴史を酪農家の方から直接聞くことができまた、その名残と言っても良い商品が跡を継いでいると言うことは感慨深いのでした。皆さんも利尻島を訪れた際には350円で是非この“ミルピス”を味わってきて下さい。

その翌日、鬼脇という漁村でウニ丼が食べられると聞きつけさっそくいって参りました。“ノナ”と島の人は言っている紫ウニでしたが甘くてとてもおいしかったのは言うまでもありません。食事の後、港まで犬と散歩していると地元の漁師さんが、犬とマラソンやっていた人かいと話しかけてこられ、さらにホタテを焼いて食うから遊びにおいでと誘われ、犬共々、人なつっこい私は、ほいほいとついていったのでした。突然のおじゃまでしたが佐々木さんと言われた漁師さんは子供や近所の方たちを呼んで、カニやら肉やらいろいろなものを炭で焼いて宴会を開いてくれたのでした。おまけに酔っぱらった私を一夜泊めてくれたのでした。なんて親切な方たちばかりなのでしょうか。私はこの島に来て、自分自身を見つめ利尻の大自然と島の人の温かさに触れることができました。最後に犬と走ることを許可して下さいました黒川さんを始めマラソン開催者の方に深く感謝いたします。



r(利尻島)


(走る前)


(まだまだ余裕)



(給水所がない)



(ゴール)



(ビールがおいしい)





(病院で)


利尻マラソン Dr.S