突然川が盛り上がり思わず飲み込まれ死ぬかと思った事件


第八章 


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川が突如として盛り上がり、気づくのに3秒遅れていたら
鉄砲水に飲み込まれて死ぬところだった。

その日はそろそろ鮎釣も終盤を迎えつつある八月の
お盆もすぎたころのお話です。

どんよりとした
蒸し暑い日で、ときおり雨が混じる
いわゆる天気雨と言われる日であった。
で、死ぬとこだった事件の場所は、オラのホームグランド雫石川での事。
竜川と葛根田川の支流が合流して雫石川と名前を変え太い流れとなり
つなぎ温泉郷のほとりに有る御所ダムに流れ込む
バックウォーター付近での事である。

マア雫石川のアユの友釣り場としては、最下流にあたるポイントで
あまり釣り人に知られる事のない、オラのトッテオキの場所です。
この川で一番大きい鮎の釣れる美味しいポイントで
もある。
そしてここは9月の後半、夜半過ぎから落ちアユ漁でにぎわう場所でもある。
だからアユの友釣り釣り場としては、あまり一般的に知られる所ではなく
普段は人けの少ない所でもある。

この日の先客は、すげがさを被ったおじいさんが一人だけでした。
「ウッシシ今日もデカ鮎を独り占め、二ケタの水揚げはある」と踏んだオラ。

さっそく身支度を整え漁場へと、はやる心を押さえながら川原を
足取り軽くそそくさと下ることにしました。
そして15分ほど下ったところに有る大鮎の漁場ポイントで
川を真っ二つに切るように盛り上がっている中州へと渡りました。

釣り支度をさっさと済ませてさっそく鮎釣り竿を伸ばし
左岸の流れから野鮎を攻めることにしました。
ここのポイントは、川底には岩盤アリ〜の
頭大の石がアリ〜の、こぶし大の石が
びっしりと敷き詰められてアリ〜ので
鮎釣り師なら誰が見たって
ヨダレが出そうな美味しそうなポイントである。
いつもどおり、ザラ瀬が落ち込む淵がしらの左脇にある
岩盤から攻めることにした。

ここのポイントは
すぐに野鮎が掛かる、オラの友鮎交換の場所です。
友あゆに鼻カンをセットして、川の真中を流れる急な流れを
パスすべく友鮎をフィリッピング。
そして放たれた友アユが着水すると、一呼吸置いて強烈な当たりが来た。
そして流心へと奔走する掛かりアユと友アユの2匹のパワー。
使い込みすぎているオラの一番大好きなF-1競技スペシャル10m。(ふる〜)
そのロッド特有のグリングリンと首を振る感覚と、極限のひん曲がり状態。
それでもなんとか竿が折れそうになりながらも抜いた鮎は
25cmの雫石川では大型に入るヤツである。
それからはバッタバッタの入れ掛り状態が始まり
もう夢中になってしまうオラであった。



そうだな〜快調に7,8匹くらいも釣ったときでしたが
ジャラジャラと小石が流されるようなざわついた音が
聞こえたような気がしました。
しかし鮎が入れ掛り中のオラは、そんな音よりも
大鮎を釣るのに夢中でたいして気にも止めずに
野鮎を追いかけ回しておりました。
次第にジャラジャラという音が大きくなって来ました。
鮎釣りに夢中になっているアホーなオラでも、さすがに気になり
顔を上げ「なんの音だべ」と、まわりを見渡しました。

そして後ろを振り向いた時、見なれない光景がそこには有りました。
それは、上流50m先の水面が1,5mほど直角に切り立つようにして
盛り上がりって段差を造っております。
小雨の中、時折のぞいた太陽がその切り立った壁部分に反射し
真茶色の濁流とあいまって、黄金色にキラキラと輝きながらそして
ジャラジャラという音を立てながら迫ってきます。
それは実に不思議な光景では有りました。

オラにはそれが何んであるか、とっさに理解することができませんでした。
そんな事より鮎だよ鮎と竿を握り返す、おバカなオラでありました。
しか〜し、まてよと考え直したオラ「ん、ひょっとしてアレッテ鉄砲水か!
そうだヨ!鉄砲水だ」と再度振り返るのであった。
そして、先ほどよりも盛り上がった鉄砲水は
すぐそこまで迫って来ているのです。

そこで始めて慌てまくった、お間抜けなオラです。
イトの先に付いている友鮎は外そうにも外す時間などありません。
そのままイトを掴み、ひきちぎりました。
石に固定してあった鮎の船(掛かり鮎を生かしておくための
入れ物)をむんずと掴み、とにかく柳の木の生えてある中州の
一番高く盛り上がった所まで猛ダシュしました。

なんとかたどり着き恐る恐る後ろを振り返えりました。
今しがた釣りをしていた場所は濁流の渦の中、その様子は
鉄砲水というよりは川津波と言った方がピッタリと来るようで
思わずおしっこをチビリそうになるオラでした。
川の水はドンドン膨れ上がり、根っこから引き抜かれたような
太い大木やら、伐採された丸太などがすごい勢いで流されてくるのです。

トリアエズ命は助かったようなので一息つきましたが、どうやって
向こう岸に帰り着くかが大問題となりました。
泳いで渡るにしても、この大木などが流れてきている間は無理です。
下手に今、川を横切ったらあの大木に一撃されイチコロだし。
ここはとりあえず川の水が引けないまでににしろ、大木が流れて
こなくなるまで様子見だなと思いました。




そういえば2週間前にも、この川の支流竜川で鉄砲水の騒ぎがありました。
突然増えた川の水に、立ち往生してしまった釣り人が
岩手県警のヘリコプターに救助された事件。
その記事が新聞に載り、それを読んだ時オラは
「バッカな奴がいるもんだ」と笑いました。
それが今じゃ笑われる立場になっているオラでした。

「まさかオラのとこに、ヘリコプターなんか飛んでこね〜よな」と
「救助される惨めな釣り人」と新聞やらテレビで記事に
されるのがハズカシ怖くなって来たオラであった。
「こんなとこに何時までも居たら絶対に捜索に来るゾ。」
その前にどうにかして川を泳ぎきることを考えました。

まずは右岸と左岸どちらかを選び、泳ぎ渡るかの選択です。
左岸側は距離としては短いのですが車のタイヤ大の石や
大岩があり、これに激突した日にゃ骨折とまで行かないにしろ
強度の打撲は免れないと判断し、比較的障害物の少ないが
渡る距離が長い右岸を取ることにした。
しかし右岸側は、流されすぎると下流の
激流1本瀬の絞り口が待っているのです。
ここの激流に突入した日にゃ命の保証は無い
とてもやばい流れではあるが、右岸側と左岸側を天秤にかけると
やはり右岸側しか無いとオラは決断したのである。     

決行の前にトリアエズ、竿と鮎の船は柳の木に縛り付け
フィッシングベストとポロシャツも泳ぎの邪魔になるので脱ぎ
これも木に縛り付けました。
下に履いているネオプレーン生地で出来ているタイツは
万一の場合、打撲を軽減できるので
これは脱がずに履いたまま泳ぐことにした。
依然として水位は減らないのだが、大きな流木が流れて来なくなったので
今だと判断しました。

下流部にある激流の一本瀬に呑み込まれないように
今居る中州の上流側の行ける所まで川の中を進み
いくらでも距離を稼ぐ作戦で決行です。
しかし意気地のない気弱なオラは、何度となく進んでは
戻りを繰り返し、その一歩を踏み出す勇気と決断が出来ないのでした。



「ためらっていてもしょうがね〜や」とへそに気合を入れました。
何故か「お母さ〜ん」とさけびながら濁流に一歩一歩と足を踏み出しました。
濁流に負けないようにとこらえるも、激しい流れの圧力の前には勝てず
体はドンドンと押し流される一方で、倒れないように踏ん張るのが精一杯です。

こうなると下手に流れに逆らっては、いけないなと思いました。
足が川底に付く所は、その流れに寄りかかるようにし体制を
保ちながら「
ぴょンぴょん」とはねるようにして渡ります。
そして足がまったくつかないところは、水を飲まないように
顔だけは水面から上げるようにして、立ち泳ぎでこらえます。

その途中、岩に足をイヤとゆうほどぶつけてしまい
痛くて涙が出そうになるもこらえたオラはもう必死です。
もう余力がもう後わずかと、体力の限界が近づいてきていました。
しかしこの状態で流されるままだと、激流一本瀬の口が待ってます。
オダブツという文字がもうすぐそこにあります。
又しても「おか〜さん」と必死に叫ぶオラです。
この一言を叫んだおかげで、踏ん張りすぎて足がつりそう
になっているクタクタの体にも最後の力が沸いてきました。



せまり来る激流一本瀬の口に突入するギリギリ一歩手前の
小さな中州に、なんとかどり着きました。
ヌレネズミ状態のオラは思わず「やったー」とガッツポーズです。

この小さな中州と右岸の陸の間はホンの3mくらいです。
「こんなのひっととび」なんて軽くその時は思い、楽勝気分でした。
「俺様はなんて逆境に強いんだろ、さすがランボー」(いつのまに)と
ハイな気分に浸り切っているオラでした
さてと緊張感と興奮が収まり掛けたところで
対岸に渡ることにしました。

今しがた立っている小砂利の山状態になっている中州を
ずるずると足の裏を滑らせるように川の中へと下って行きました。
そして、川の中に入ったとたんオラは青ざめてしまいました。
なんと中州と対岸の小さく思えた流れは、見た目のそれとは違い
とてつもなく押しが強い急な流れで
しかも深くえぐれてアリ地獄状態なのです。

一気に3mほど流されたオラは慌てまくりました。
何故ならその流れは猛烈な勢いで吸い込まれるように
この中州と対岸の間に覆い被さるようにはえている川柳の木の
下へと流れ込んでいるからでした。
この鉄砲水のおかげで川の水位は上がり
覆い被さった木と水面の隙間はまったく無いのです。

この覆い被さった木の下へ吸い込まれたら最後
奥へ奥へと吸い込まれ顔を水面上に上げれないままに
柳の枝に手足がからまり一巻の終わりです。

この鉄砲水が収まり、川が平水に戻ったとき「柳の枝に引っ掛かり
溺れ死んでいる釣り人発見」という新聞の図が
オラの頭の中をよぎりました。

さっきの大岩に足をぶつけながら泳ぎ渡って来たことなんか
今の状況に比べたら「へ」でもないことです。
もはや1秒2秒しかオラに助かる時間が無いのです。
そして「おか〜さ〜ん」なんて叫んでるひまはもちろん無いのです。
オラはまるで花の応援団に出てくる青田赤道先輩のように
足を猛烈にフル回転し、取っ掛かりがまったく無いアリ地獄の
ような小砂利の中州を駆け上りました。
それでもズルズルと滑るので、しまいには手も使い
4WD状態で必死こきました。

そしてなんとか中州のてっぺんに、たどり着いたオラは思いました。
一難去ってまた一難、「人生、どこに落とし穴があるか分からない」
サターン様が最後に待ちうけている落とし穴は、小さな危険で
油断させといて、最後にドッカーンと一発勝負を仕掛けてくるのだと。



なんとか気を取りなおしたオラは、さっきと同じ方法で距離をとり
この中州のギリギリ前方まで進み、そこから泳ぎ流されるように
対岸へと渡りました。
そして藪だらけの、ぬるぬると滑る崖を、ずり落ちては登りを
繰り返しながらもどうにか這いあがりました。
泥まみれのヌレネズミ状態でこの崖を登り切ると
そこは広々とした野菜畑になっていました。
その野菜畑を横切り舗装道路に出て
本当にホット一息つきました。

さて、オラの車の置いてあるとこまで行くのには
下流にある橋を渡ってたっぷりと1時間は掛かりそうです。

ヌレネズミ状態の汚い格好でしかも、鮎釣りのゴム製のタイツを履いて
トボトボと歩いていたら「変な輩が歩いているな」と思ったのか
一台の軽トラックがオラのそばに寄ってきて「どうしたんだその格好は」と
声をかけてくれました。
オラはこういう訳でこうなってしまったんだとお話をしたら
その軽トラックのおじさんは「しょうがね〜な
じゃお前の車まで乗っけてってやっからよ」と
親切にも言ってくれ、そのお言葉に甘えることにしました。

途中そのおじさんが言うには、「雫石スキー場のある山々に、重く暗い
雲が掛かっているときには、川に入るのは止めといたほううがいいぞ
あれはナ、鉄砲水が出るぞという合図のような物だからな」
というような事を言っていました。
そして「昔はこんなにタビタビ鉄砲水が出ることは無かった。」とも言い
「岩手山のふもとにスキー場がたくさん出来るようになってからだ」と言った。

つまり話の核心はこうだ。
降った雨を一時的に貯めておくはずの森林が
スキー場開発という名のもとにきれいさっぱりに
山々を禿山にしてしまったせいで
降った多量の雨がそのまま斜面を滑り
川に流れ込むそんな場所がいくつも重なって鉄砲水となるのだと。

そういう森林管理の話をしているうちに
オラの車を置いたところに近くなってきました。
そして最初に見えてきたのがギョエ!のパトカーでした。
オラを乗っけてくれたおじさんが「ホレお前を探しに来ているぞ
早く行って説明してやれや」と言いながら笑っていました。

この車の持ち主は君かね」とお巡りさんが尋ねてきました。
上流から鉄砲水警報を、スピーカーで流しながらここまで
来たそうなのですが、ここに避難していたもう一人の釣り人がいうには
「下流の方へとドンドン下っていった釣り人がいて多分、鉄砲水に
呑み込まれたのではないか」と話ていたというのです。
その話を聞いたお巡りさんは、すぐさま岩手県警に連絡し
捜索ヘリコプターの用意と、自動車のナンバーから割り出した
家に電話をして家族の人に捜索願を出すように
連絡
しときましたと、オラに説明してくれました。

ああぁ これで当分雨の日に釣りにイケネ〜ナ」と
かみさんの怒った顔を思い浮かべ
またまた青ざめ小便をちびるオラでした。

もう一つ、「おかぁ〜さ〜ん」ついでに、そのとき鏡のような湖面が
突然荒れ狂いオラの豪華釣船(定員2名)タイタニック号が
波にもまれ浸水して思わずジャックになってしまうとこだった事件
なんてのも紹介しちゃおっかな〜。




ヤメトキ