第壱拾四章





イーハトーブトライアルの七時雨山高原

1993年それまでキチガイのように毎日、野に山にと愛車ファンティックで
駆けけまわっていたオラであった。

ある日の午後、1mくらいのわけも無いステアケースを
「こんなもの」と舐めてかかったのか
ハタマタ気を抜いたかステアリングバーの引付が足らなかったか
その腕を伸ばしバーを引きつけた態勢のままステアケースに激突。
その瞬間左肩に激痛。
思わずその痛さにバイクを投げ捨て、その場にうずくまるオラでした。

とてもじゃないがその夜の仕事、フライパンを振るのにも激痛が走り
得意のフライパンW字振りもできずに
右手でフライパンを持ちかえる始末
たいへんだった。



半年くらいして、ようやく痛みが引いてきたので又、ファンティックの
ハンドルを握ってみるものの、ダウンのセクションに行くと
肩に痛みが走る始末。
こりゃもうだめだな」と感じた瞬間、愛車ファンティックの巨大な
トルクが急に恐ろしくなりました。
セクションに入っても、愛車の制御が思うように出来なくなり
バタバタと足を着くようになってしまいました。
こうなって来ると完全にトライアルバイクから引退という文字が浮かび
今度こそ、それが現実のものとなるのだった。

「ホンじゃ、なんかまた新しい事でも始めんべかな」と思いめぐらし
探してみるものの、残るものはヤッパ
「釣しかないねこのオラには」との結論。

そしていつも行き付けの店、はとば釣具店。
このお店は、ヘラ釣りが三度の飯より大好きな(なんで大好きかって?
それはね、朝もはよからヘラ釣りを始めたオヤッさん、店番をしなくちゃ
なんない午前11時になっても、あまりの面白さに帰りたくありません。
かみさんに昼前には帰るという約束を無視し、そのままヘラ釣りを続けたとさ。
朝から何も腹に入れてないオヤッさん、昼過ぎにもなって猛烈に腹がへり
こらえ切れずに思わずヘラの餌を食べったっていう話し。
もちろん食べたのはマッシュだけとは言っていたが、、、。
それとは別のある時、新製品のバラケを手に持って「このバラケは
チョット麩の焼きがキツイ」とか言ってました。
「どうしてわかるの」と、すかさず突っ込みを入れたオラに
「食べてみたらそういう味がした」と言っていたくらいでしたから
多分その時もサナギ粉入りのバラケも食ったんでしょうな、たぶん。)
オヤジがやっているだけ有って、ヘラの用品がワンサカとある。

「そうだ俺もそろそろ40路、この辺で侘び寂びの境地
ヘラ釣を極めなくちゃ」と思い立つ。
ジジイになった時、急にヘラ釣りを始めても、ただのへタクソなヘラ鮒
釣り好きジジイと思われるのもしゃくだし。
そんな、へらビギナージジイになったオラなんか考えたくもないし。
今からビッチッとヘラ釣りをやりこんで行けば、ジジイになった時
ソコソコ上手くなっていて、偉そうな講釈でこう言えるだろ。
「オイ、そこの若いもんヘラは寄せ切らなきゃつれんゾ」なんてね。
で、今から老後の釣り人生設計の為にも
ヘラ釣りを始めようと固く決心したオラでした。


御所湖の夕暮れとヘラオヤジ

「ヘラ釣りなんてどうせジジイの暇つぶしに毛のはえたモンだろう」と
タカをククッタおら。
はとば釣具店の親父を、この釣りでオラの師匠にと勝手に決め付け
ヘラ釣りを始める事にしたわけです。

まず最初に思ったのがヘラ釣り用語ってのが、コレマタ業界の隠語
みたいでホンと分かり難い。
「バランスの底はしっかりタチを取れ!」とか、「宙は地合を作り出せ!」
地合って、勝手にあちら来るもんじゃないのかね?
と思ったら時合じゃなく地合なのね。

エサ作り一つとっても、せっかく軽量カップできっちりと計って作った
エサも「モドシテ練りを加え込み、麩を押し込む。」とか、ボウルの
ヘリで百コスリ?千コスリじゃね〜のか、とか、押しねりとか、、、、。 
そのエサ一つ針に付けるのだって、カド付けだの芯ノコリするようにとか
底に行ってバラけるように丸付けとか言われてもコマル。

しまいにゃ「肩でウケテなじんでモドシてツン」とか「サワリながら
ナジミ、アタリ返しのカチッとアタリだけに絞る」とか急に言われても
オラはただニヤついてうなづくだけ。
究極は「陽気を食った。」なんだそれ!って感じ。 


御所湖の名エリア、黒沢のワンド

はた目に見えるのは「デカイ椅子にどかっと座って傘なんぞ
さしたりして、タバコでもフカシながら放り込んだウキが沈むのを
待っている。」なんていう、のんきなものでは実際の話じゃ無かったりして。

ウキに出るほんのチョットのアタリに神経を集中しながら竿を握る右手は
いつ何時でも対処出来るように臨戦態勢におかなくちゃなんねぇ〜しさ。
針に付いたエサが溶け落ちて、ウキが上がり切る前に次の
エサ作りを考えながら、まとめなきゃならんし。
ウキの上がり具合など考慮しながら、ナジミ幅を少しづつ
決めんばなら無いし、ホントこんなに忙しい釣りとは思わなかった。 
今までやってきた釣りのなかで、一番時間が経つのが早かった。

そんな単純なオラが、だんだんとこの釣りの深みに、はまって
行ったのはいうまでもありません。
当初、はとばのオヤジさん(これからは師匠と呼ばせて頂きます)に
連れられて行っていたのは、おもに野ベラ釣りっていうヤツで
ヘラ釣りの中では今思えば、やや忙しさが薄い釣りではあった。


これがその3本松道場

そのうち、オラの店に出入りしている精肉業者の、社長ならびに
専務、配達のお兄ちゃんまでが、ヘラ釣りの例会にバシバシ
出ている猛者連と知り、その方達の影響を受けそして師と仰ぎ
(はとばのオヤッさんの立場はどうなるの)
競技志向のヘラ釣りへとオラは傾倒して行く訳です。

その当時、ヘラ釣り専用の管理釣り場が無いこの街にとって
三本松と皆に呼ばれていた超人気のため池に
オラは恐る恐るデビューする事になったのだ。
ここは平日でも常に人が並び、休日ともなれば
池の周りにはビッチリとヘラ台が並ぶ所です。
何がなんでも人に負けたくない、しょうも無いオラは
来る日も来る日もこの池に通いました。
こうなると野ベラ釣りなんか、野暮ったくてやってられません。

そして宙のダンゴはエサのタッチが命だとわかり
底はグルテンの配合とずらし幅で
食わせアタリを出せると学びました。
そしてなによりも、ウキとなんとかお話が出来るようになり
ここで天狗になったオラは、」この池を管理している
日研の支部会に入会するほど熱くなっていたのでした。


           
だが、この支部の例会にデビューという段階になって、腰痛が勃発。
そりゃ痛いのなんのって、言葉に言い表せれない痛みでした。
そりゃそうだよな、毎日毎日雨が降ろうと雪が降っても、池に氷が張っても
ものともせず朝の9時から昼の2時過ぎまで、おんなじ姿勢で釣りしてるんだモノ
痛くなん無い方がおかしいってモンだ。

パソコンも又おんなじ感じだな
あんまりやりすぎると肩から腰にかけて筋が痛くなるよな。

トライアルバイクでの負傷は肩で
フライパンが持てなかったのですが今回は腰で
オーブンに料理を入れるため
しゃがみ込むとズキッと背骨の脇と腰に走る激痛。

同じ病いを抱えるという肉屋の きくつぁん からも
聞いたんだけどヘラウキをジーッと凝視し
神経も筋肉も緊張している状態を同じ姿勢で
長時間続けるからだと言っていた。
そう言う彼は、この症状が悪化してしまい2ヶ月入院の末
手術までしたそうだ。
それに追い討ちかけるように右腕の腱鞘炎も出てきて、
遂にドクターストップ。
ホントこの時ばかりは、音に表すとバツンという防炎ドアーが
閉まるヨウな音でヘラ釣りに幕を落としたわけです。

それから2年ほどたち、腰痛が直ったらヘラ釣り再開だとは
思っていたのですが、いざ腰痛が納まっても、ヘラ釣りの道具に
なかなか手が伸びませんでした。
それは又、あの痛みを1年も引きずるのに懲りたからです。

1998年からパソコンを始めるようになり
ヤフーのオークションと
いうものにエライ興味が沸いて「オラもなんか売る物なかんべかな」
と回りを見渡しました。
有るんじゃございませんか、ヘラ釣り道具。  
さっそくオークションにかけると、面白いように落札されます。
気が付いたらフラシまで売ってしまい
残るはへら台と竹竿が一本になっていました。

そして最後のカーボンロッド五天聖12尺をオークションに掛けていた時でした。
バス釣り仲間のたくちゃんから思いもかけない内容のデンワ。
「ヘラ釣り始めたばかりだから一緒にやろうよ」というお誘い。
その時オラは、ヘラ釣りにはもう未練が無く、きっぱりと自分の中で
見切りを付けていたものですから、「ン〜」と言う生返事。
それでもたくちゃんは、たたみ込むように言いました「チョットだけ
一緒にやってヘラ釣り教えて。」とオラの自尊心に、微妙にクスグル
バラケのような言いまわしで誘うものだから、「じゃチョットだけね」と
思わずグルテンに食い付くオラでした。

てなわけで、それから慌ててエサを買いに
はとば釣具屋さんへと走ったわけです。
そしたら師匠が大変嬉しそうな顔をして
「そうか、ついにまた始めんのか」と言いました。



なんで竹竿だけ残しておいたかと言うと
競技志向真っ盛りの熱く燃えていたあのオラの時代。
はとば釣具店のおやっさんに「そこまでヘラをやるんだったらシャレで
竹竿を一本くらい持っていてもいんじゃないの」と言われ
その話にオラは乗ったわけです。
買ってすぐにどんなモンかなと池に直行、釣り開始です。
ガチガチの五天聖に慣れきっていたオラには
この竹竿の振り込むタイミングがすぐに飲み込めませんというより
まったく異質のモノとしか写りませんでした。
道糸は絡むし、エサは落ちてしまうし、さんざんです。
「ン、チョット待てよこの感覚どっかで見覚えがあるぞ」
とここで思い出したオラでした。
ソウですバンブーのフライロッドその物です。
「これは竹の曲がりにシンクロさせた振りじゃなければどうもならんな」
と悟った訳です。
竹竿に慣れると、なんとエサの滞空時間の長い事
それに伴いコントロールも付けやすいし、エサの着水もソフトだな〜と感じた訳。 
しかし、こりゃやばいともオラは感じたわけで
「このまま竹竿にはまり込んでしまうと大変な事になる」と思い
この日1日限りで、竹竿を使うことにオラは封印したわけです。
そんな思いもあって竹竿だけは、なかなかオークションに出せずにいたのです。
そんな竹竿とヘラ台を持ち出して、ヘラ釣りへと行く事になったのです。


たくちゃんとこおいっつぁん。

そんな たくちゃんは中学、高校生の頃
どっぷりとヘラ釣りにはまっていたそうで
「教えて!」なんてのは本当はウソで
「オラと勝負!」と思っていたようでした。

さてその決戦の場ですが、たくちゃん
雫石川水系にある御所ダムを指定してきました。
「ナヌ!野べら釣りカイ」と一瞬気が引いたオラでした。
池専門にやってきたへラ釣りのオラに
いきなり野ベらとは「こりゃ自信ね〜な」と
思いつつ御所ダムにのこのこと出かけた、お馬鹿なオラでした

さてさて野ベラ釣り開始です。
たくちゃん達は夜明けと同時にエサを打ち始めたようで
もうヘラを何枚か釣り上げていました。
ソウです、ヘラを完全に寄せ切っていました。
オラはチョット焦りましたが、そこは先生風をふかして余裕のポーズ。
するも、釣れて来るのはモロコ、ハヤ、マブナにコイッ子、しまいにゃ
虹鱒にブラックバス、コラッーなんなんねん。
肝心のヘラ鮒は釣れません。
がっくしです。
しかし、ここで思うトコがありました。
以前やっていたヘラ釣りの感覚と
今の感覚エライ違う物があります。
それは何かなと考えました。
そうなんです。
小物が釣れている間はナントも思わなかったのですが
コイッコやマブナを針掛かりさせてからの
手に来る感覚がナントも言えないいい感じなのです。
それにウキのトップがツンと入って、バッシッと合わせた瞬間の衝撃が
実にソフトで良い感じなのです。
「ウ〜ムこれはあの時の始めて竹竿を手にした時の感覚だ」
と気が付いたわけです。


腰が落ちちゃってるよ、こおいっつぁん。

何回かヘラを掛けてはみたものの、最盛期の野べらの
それも尺上のパワーの前には池の魚じゃねんだから
0.3号のハリスは太刀打ちできません。
ハリスを0.5号に上げたら。今度は道糸0.8号がウキ上からブッチリです。
大事にしていた月山のボデー16号がおさらばです。
結局この日はヘラは一匹も釣れないままに、この一世一代の大勝負に
負けてみじめに帰る事となりました。
こうなるとすぐに熱くなってしまい、金銭感覚が吹っ飛んで大事な
虎の子をパチンコ台に次から次と込むオラでした。
モトイ、ヘラ鮒釣りにのめり込み始めたオラでした。


6時に来たのにもう釣っている、たくちゃん。

もちろん次の日も朝早くからこの場所に行きましたが
たくちゃん達はもう場所を占領していて
ヘラも釣り上げていました。
しかし今日は作戦があります。
池では通用していた0.3号のはリスを、0.6号に上げてきました。
もちろん道糸は1,5号です。
エサを打ち始めてまもなくです。
待望の鮮やかな力強いツンアタリ。
バッシッと合わせるも、手に来る衝撃は強くありません。
それからの竿の曲がりは、釣っているオラには分かりませんが
わきで釣っていた、たくちゃん達は歓声を上げています。 


もりおかの野ベラさま

合わせた時の態勢のまま竿をこらえていると、掌の中で野ベラ鮒が
抵抗している感覚が心地よく伝わってきます。
始めての気持ちいい感覚です。
後は竿まかせで堪えると湖面にヘラ鮒が浮いてきます。
竿を寄せるとヘラ鮒は抵抗しないままスーッとたもに納まります。
これを何回か繰り返していたら、隣のたくちゃんが言いました。
スンゲー竿の曲がり具合だな、そういうのを満月って言うんだな」と
そしてこういっつぁんは、こう言いました。
「竹ってヘラが暴れないで、たもまで寄って来るんだな」と。
確かにそう言われてみると、水面に顔を出したヘラ鮒は
暴れることなくすんなりとタモに納まります。
オラは人に言われて新発見です。
野ベラと竹竿、しびれるまくるマッチングです。
こうなるとはとばのオヤッさんが常日頃言っているように
池のへら鮒なんぞ釣って喜んでいる場合じゃ御座いません。
はとばのオヤッさんには、オラの野ベラ釣りの師匠に
マタ返り咲いて戴きました。

試しにカーボンロッドと比べるべく
伯天弓16尺を買って使ってみました。
ナント軽い事、羽毛のようで竿を持っていないようです。
その代わりエサの重量感も伝わりづらく、エラク振り込み難いのです。
合わせた後の感じもスカスカでモノ足りません。
スカスカと言えば、ヘラ鮒をすくいそこなった時の竹竿もスカスカだね。
寄せてくるヘラもいいように暴れて、おとなしく寄ってきては
くれません。考えようによっちゃ、こっちの方がオモロイかもね)
という訳で、第2期ヘラ鮒釣り黄金時代に、どっぷしと浸かリ始めた
体中故障だらけのオジジなオラでした。

そして後は、ご想像の通りヘラ貧乏になって行くオラです。


放流モノ無しで純野ベラが釣れる、四十四田ダム 
又の名を南部片富士湖。


野べラ釣りは剣術のごときなり
されど相手は野ベラにして人にあらず
これ全身全霊を傾けて勝負するものなり。


と、師匠(はとばのオヤッさん)は説いています。