小川 直也選手(UFO)

新日本プロレスのファンのみなさま、目を覚ましてください!!
飛行機を模した両手を広げたポーズで客と新日の選手をおちょくりながら、
小川は東京ドーム内にいる全ての人をアジテートした。
オリンピックでは確実視された金メダルを逃し日本国中から非難を浴びた彼が
橋本真也という偉大なレスラーを失神させ、客に悪態を付きだしたのだ。

暴走王と言われる小川直也の伝説が始まった瞬間であった。

リングの上ではヒールの小川も、リングの外では別人。「どっちの料理ショウ」ではおいしいものをパクつき、
歌の番組ではサザンの曲を熱唱し、ドラマにレギュラー出演する「タレントレスラー」である。

真剣勝負を常に訴えてきた小川。しかし橋本との出会い、ZEROONEという新興団体へのシリーズ参戦で
小川は総合格闘家からプロレスラーに変わろうとしている。

必殺技・STOを引っさげ今もっとも客を熱くできる男、小川直也の歴史を振り返りたいと思う。





●「目を覚まして下さい!!!」

平成11年1月4日、東京ドーム大会のセミメイン。
前年から好調を維持し続ける破壊王・橋本にUFOの小川が挑戦、そういう図式だった。
過去二人は2試合しており、勝敗こそ一勝一敗の五分ながら2試合とも橋本が圧倒的に押していた試合だった。

しかし試合は登場シーンでもうすでに決まっていた言ってと良いかもしれない。
アンコ型の子供のようなぽっちゃり体型の橋本に対して、小川がこの日に披露した肉体はギリシャ神話の彫刻の
ような理想的な格闘家のカラダであった。

試合が始まると小川はプロレスラー同士の禁じ手である人体の急所ばかりにパンチを放っていく。
あご先、こめかみに鋭いパンチを放ち、相手に馬乗りになると耳の下(アンダーイヤーと呼ばれ、ここは打たれると
危ない場所である)、後頭部の脊髄にパンチを放っていく。
(この時小川のこういった攻めに対し、新日の他の選手はあまりの異常事態に右往左往している。ビデオでチェックしてみると
どれだけレスラーの常識から外れた攻めを小川がしたか分かるだろう)
ラストも凄かった。倒れた橋本の顔面、それも鼻筋を思い切り小川は蹴り上げたのだ。
これによって橋本は鼻が折れ、戦闘不能の状態に。新日の裁定は無効試合だがどう見ても小川の完勝であった。

そして客と選手達をアジテート。そこで冒頭の「目を覚ましてください」発言が飛び出す。

この時小川が何を言いたいのか、何のためにそんな際どい試合をしたのか、まるで分からなかった。。

●肉体改造

小川は言わずと知れた柔道の五輪銀メダリストだ。銀メダルは十分立派な成績だが、山下以来の逸材と言われる
小川の結果としては確かにファンの期待を裏切ったのかもしれない。
小川はマスコミにたたかれたのもあり、引退後もJRAの社員として注目を浴びない幸せを求めていくつもりだった。
しかしアントニオ猪木が許さなかった。猪木はこの逸材の潜在能力を買い必死のロビー活動を続ける。
そしてついに猪木の努力が実り小川はプロのリングにあがることになる。

しかしプロレスを始めた頃の小川は器用さを所々に見せるものの決していいレスラーでは無かった。
デビューで橋本に勝つという大金星をあげたもののその後鳴かず飛ばず。
どうしても柔道時代からの「一皮剥けきれない小川」のままだったような気がしていた。

しかしここで小川は猪木の薦めにより大肉体改造をはじめる。
体重を20kgも落としレスラーというよりキックボクサーのような締まったカラダを作るのだ。
そしてここから小川の快進撃が始まったのだ。

●戦いのフィナーレ

先に書いた試合で屈辱を味わった橋本は小川にリベンジを誓い平成11年10月11日東京ドームで再度試合をする。
しかしほぼ前回と同じ展開。小川の必殺技、受け身を取らせない変形大外刈りであるSTOが面白いように橋本に
決まる。橋本はSTOが決まる度に後頭部を打ち付け目は朦朧。小川は橋本を返り討ちにする。

その後小川と新日の関係がこじれて今一つ再戦の話は無かったのだが平成12年4月7日にとうとう
橋本の3度目の小川戦が決まる。

この試合、事前に橋本のリベンジ劇をテレビが特集するなど橋本が3度目の正直で勝つのでは無いかと思われていた。
加えて小川の体調が万全とは言えず、さらに「あの強い橋本が同じ相手に3連敗は無いだろう」というプロレスファンとして
の期待感もかなりのものがあった。

試合は橋本ペースで進む。これで勝ちかと思われたときに小川がSTOを一閃。
途中小川の肩が脱臼してしまうアクシデントもあったが結果として小川の圧勝だった。

この試合に引退をかけていた橋本は引退を決意。
そのことについて試合後の控え室で聞かれると小川はこう答えた。
「引退を賭けようが勝敗は勝敗。相手と同じくらい俺は勝たなければならなかった。
橋本選手、俺のいうことじゃないけどもったいないよ、やめるの」
これが小川を語るときの真実だろう。ヴァーリテゥード(リアルファイト)とプロレスの融合という不可能と思われていた
問題に小川は答えを出した。勝敗は勝敗。しかし闘いは闘い。それ以上でもそれ以下でも無い。
「目を覚ましてください」と言われ、この試合によってファンはようやく目を覚ますことが出来たのではないだろうか。

●今後の小川

小川は,新日のエースと言えど一介のレスラーである橋本に負けるわけにはいかなかった。
しかし戦いを終えてみて残るのは確執では無く爽やかな友情、そんな滅多にない経験を小川は一連の戦いでしたのだと思う。

その後小川は三沢や長州、佐竹、健介などのトップレスラー達と戦っているが残念ながら対橋本戦のような熱くなる試合
を出来ていない。「小川」という存在自体で試合は盛り上がるが橋本の様に小川の土俵で付き合おうとする選手が
いなかったからかもしれない。

そこで意外というか必然というか、小川は天敵橋本とタッグを組むことを決める。
新日を辞め新たな道行く橋本に小川は理解を示し、橋本も一匹狼の小川をいろんな圧力から守った。
このタッグ、ZEROONEや新日だけじゃなく、ノアや全日、さらには海外まで進出して欲しいと思う。
それだけ通用する可能性を秘めたタッグだと思うのだ。



●2002年8月8日、レジェンド失敗からのドラマ

橋本とともにZEROONEで存在感とレスラーとしての価値を示し続けている小川だが、先日行われたレジェンドでは
大会を主催するエースとしてメインカードを務めた。相手は元アマレス五輪銀メダリスト・ガファリ。

しかし残念ながら東京ドームに現れたガファリはもう盛りをとうに過ぎ、太った身体を持て余すただの中年の選手
だった。これではいい試合しようにも出来ない。試合はSTOや寝技技術を出す前に小川の左パンチが相手の顔面を
とらえ敢え無く決着。いまいち消化不良を否めない試合となった。

加えて東京ドームに集まったファンの数はわずか2万5千人。完全に興行は失敗に終わった。

暗い話題が続く中一つだけ光明が見えてきている。それはレジェンドへのヒクソングレイシーとタイソンの出場。
もし話がうまくまとまれば、次のレジェンドでは藤田VSタイソンとヒクソンVS小川が見れるわけである。

永らく格闘技界、プロレス界を通じて「小川最強論」が呟かれている。ヒクソン、藤田、タイソンを乗り越えたとしたら
小川は新日、全日、ノアなどの小さい枠ではなく、プロレス界全体、総合格闘技全体を通しての覇者となれるはずだ。
猪木を越えるために、そう国民全体のヒーローになるにはこの恵まれた挑戦者達の試合要請を小川には受けて欲しい
と思う。これからの小川の輝かしい未来を期待せずにはいられない。


                                                      2002.8.11




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