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痴呆のよくある症状のひとつの、「忘れちゃう」ってやつ。 これは忘れるというより、「記憶が消え去る、存在しなくなる」 ということです。 だから、思い出せと言っても、ないものは 出てきませんねー、絶対。 思い出すなんて無理なハナシ。 |
| さくらさん | ばーちゃん | ||||
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| 「お財布はあそこの引き出しにありますよ」って、何度も言ってるのに…。 | ばーちゃん、「はい、ありがとさん」とかなんとか言いながら、引き出しに向かいますが、廊下を歩いているうちに、もうヨメさんの言葉を忘れます。で、また、「あのねぇ、あたしのサイフ、どこかしらねぇ?」ときくわけです。5回も6回も…。 | ||||
| 朝の忙しい時間だったりして、ヨメさんは、「もういいかげんにしてっ!何度も言っているじゃない…」と苛々します。 | 「…サイフがないゎ。サイフがないゎ。ヨメはガミガミ怒ってばかいて怖いし、ちっとも教えてくれないし。知ってるくせに出してくれない。…そうよ、盗られたのヨ!」 | ||||
| なんで、そうなるわけ? いつ私が盗ったのよっ。 | 「あ、ヨシ子、来てくれたのねぇ。ちょっと聞いて…ヨメがあたしのサイフを盗ったのヨ!…グスグス」 | ||||
| 「とられた」「かえしてくれない」はよくあるハナシ。いつもの人々がいくら説明しても納得してくれませんね。 あまり期待はもてませんが、一応奥の手。人って、けっこう「権威」に弱いものです。 普段おばーちゃんが一目置いている立場の人が身近にいませんか? 先生・医者・看護婦さん・おまわりさんなどの第三者で。 いたらちょっと話してもらっては? 運が良ければ案外納得するかも…。ホントはお財布、わたしてあげればよかったかもね。でも、しょっちゅうこのくり返しじゃ…やってられない?。 | |||||
| 「え?ごはんって、今食べて片付けたところじゃないですか」 | 「さくらさん、私、おなかがすいたわ。 そろそろ朝ごはんを…」 | ||||
| 「さっき、お魚がおいしいって…」 | 「何いってるの? まだ食べていないじゃないの」 | ||||
| 「まあ、忘れちゃったんです? でも、そんなに食べると体にわるいわ。 それに私もう出かける時間ですから。 ホントに食べたんですヨ」 | 「私にだけごはんをくれないのね…ああ、おなかがすいて死にそうヨ」 | ||||
| なんでこーなっちゃうわけ? 一生懸命気をつかっているのに、妙なウワサをたてられて…。うーむ、お茶碗だしっぱなしにすれば、食べたってわかるかな? | ばーちゃん、とうとう近所の昔ながらのおうちへ行きます。昔から、ちょっと作った煮物なんかをおすそわけし合った仲のお宅ですから。 「うちのヨメ、あたしにもうなん日もごはんをくれないの。 おなかがすいておなかがすいて、死にそうなんですョ…」 |
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| ばーちゃんにとって覚えていない食事は存在しなかった食事です。 だから、やっぱり食べてなくて、ひもじくて、せつなくて、ないがしろにされた気持で、やりきれないわけです。食べられないので、誰かに助けてもらわなくちゃなりません。だから、ばーちゃん的には、当然な結果、自己防衛本能ってわけです。 | 「まさかねー。でもすごーくおなかがすいて、弱ってい るように見えるし…。とりあえず何か食べるものを…」 | ||||
| 痴呆のプロセスで、こういう時期があるそうです。 よく食べてもよく動くので結構消費します。ま、たまにはおなかをこわすかもしれませんが、お医者さんへ行くくらいですむでしょう。 ずーっと続くわけではない、ということです。限られた期間らしいんですよ。 |
「ああ、おいしい。こんなごちそううちじゃ食べたことないワ。やさしいおヨメさんねえ。マサエさんは仕合わせ。 それなのに私ときたら…めそめそ」 | ||||