ヴォイス
「僕の名前を呼ぶのは誰?」
学校から帰る道の途中で僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
僕は憂色(ゆうしょく)小学校に通う6年生。名前は岡村秋仁(おかむらあきひと)。
好きなことは歌うこと。嫌いなことはプロレス。理由はフォモっぽいから。
友達の新藤春ニ(しんどうはるじ)と一緒に帰っていてさっき別れたばかりだ。
話す相手がいなくなり、つまらなくなった僕は石ころを蹴りながら歩いていた。
そんな僕の名前を呼ぶ声「秋仁くん・・・」
薄暗くなってきた帰り道で突然聞こえてきた声に僕は驚いて周りを見回した。
しかし、どこにも人はいない。
周りは畑だけで家はひとつもない。
この道を通る人はほとんどいない。
僕の家に続くこの道は、一本道で先には僕の家しかないからだ。
だからこの道を通るのは僕の家族か僕の家に用事のある人しかいないはずだ。
こんな夕方に用事がある人なんているのだろうか。
気のせいだと思い再び石ころを蹴りながら歩き始めた。
しばらく歩いていると僕の家が見えてきた。
「秋仁くん・・・」
また僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
今度ははっきりと聞こえた。
周りを見回したけどやっぱり誰もいない。
僕は急ぎ足で歩き出した。
「待って、秋仁くん・・・」
明らかに後ろから聞こえた声に僕は振り返った。
なんとそこには白いうさぎが二本足で立っていた。
「良かった、気づいてくれて」
僕はびっくりして声が出なかった。
うさきが二本足で立っていることにまずびっくりした。
さらに声を出して話したことにびっくりした。
僕が呆然としていると
「ごめんなさい。驚かせちゃったみたいだね」
「キ・・・キミはうさぎだよね?」
僕は単純な質問を投げかけてみた。
「そうだよ、うさぎだよ。名前はウサギだよ」
うさぎといったらいつもおとなしくしている動物のイメージだった。
そんなうさぎが目の前で話している。
しかも二本足で・・・。
「あ、私は秋仁くんの小学校にあるうさぎ小屋にいるうさぎだよ」
僕の小学校には確かにうさぎ小屋があって8羽のうさぎがいる。
2年生の時に飼育係をやっていたから、うさぎ小屋については普通の人よりは詳しいと思う。
「そう、秋仁くんが2年生の時に私は産まれたの」
考えていたことを目の前にいるうさぎに言われたから僕はドキッとした。
僕はその時のことを思い出すために少し黙り込んだ。
あれは小学2年生の夏休みだった。
僕の学校では夏休みには、当番制で飼育係がうさぎの世話をするために順番で学校に来ていた。
ちょうど僕と春ニが当番の日で、小屋に入ってすぐに小さな赤ちゃんうさぎがいるのに気がついた。
あの時2羽のうさぎが産まれいて、1羽は倒れて死んでいた。
僕は本でうさぎの赤ちゃんについて調べたことがあった。
うさぎというのは産まれたらすぐに親うさぎと離さなくちゃならない。
なぜなら親うさぎが自分の子供を踏み殺したり、かみ殺したりしちゃうから・・・。
僕はそのことを思い出して、すぐに生きている赤ちゃんうさぎを手に取り、親うさぎから離した。
そして職員室に行き飼育係担当の黒玉先生にうさぎを渡した。
その日からしばらくの間、黒玉先生の自宅で育てることになった。
10月くらいになってそのうさぎは大きくなり、学校のうさぎ小屋に戻ってきたけど、元気が無かったのを覚えている。
他のうさぎと馴染むことができずにいつも離れた場所にいた。
あのうさぎは確かに真っ白なうさぎだった。
今、目の前にいるうさぎと、あの時のうさぎが同じという確信は持てない。
でもこのうさぎが言っていることは間違っていない。
僕がいろいろ考えていた時に・・・
「思い出してくれた?」
突然聞こえた声に僕はドキッとした。
今までどれくらいの時間思い出していたのだろう。もう辺りはすっかり暗くなっていた。
我に返った僕はこう答えた。
「思い出したよ。確かにキミは僕が2年生の時に産まれたうさぎに間違いない」
「良かった。今日はあの時に秋仁くんが私を助けてくれたお礼を言うために来たんだよ」
僕は違和感を感じた。
「ちょっと待って・・・キミはうさぎだよね。どうして話せるの?どうして二本足で立っているの?」
「そうだよ、私はうさぎだよ。言葉を話したらまずい?二本足で立ったらいけないの?」
僕はなんて言っていいのかわからなくて黙ってしまった。
そんな僕を見たうさぎは二本足を地面に下ろした。
「そ・・・そんなことないよ!うさぎが言葉を話しても、二本足で立っても全然不思議じゃないよ!」と僕は大声で叫んだ。
だけどうさぎは何も言わずに振り返ると暗闇の中に走り去っていった。
僕はしばらくうさぎの走っていった方向を見ていた。
家に帰ってからもうさぎのことが頭の中から離れずにおかしな感じがした。
夕食を食べてから風呂に入ってすぐに寝ることにした。
宿題があったけどその日は何もする気が起きなかった。
次の日、僕は目が覚めてもまだ昨日のうさぎのことを考えていた。
朝食を食べて学校に向かった。
途中で春ニと会って二人で学校まで話しながら歩いたけど、僕の頭の中はうさぎのことでいっぱいだった。
春ニと何を話したかまったく覚えていないくらい僕の頭の中はうさぎのことでいっぱいだった。
学校に着くと僕はうさぎ小屋を見るために校門の所で春ニと別れた。
しばらく歩いてうさぎ小屋の前に着いた。
中を覗いて見ると白いうさぎがいた。
昨日のうさぎに間違いない。
僕がじっと見ているとこっちをチラッと見たけど、すぐに小屋の奥の方に行ってしまった。
あの日からうさぎとは何もなく、僕は今、卒業式に出席している。
6年間通ったこの学校ともお別れだ。
もう一度あのうさぎと話したいけどそれはできそうにない。
あの帰り道でうさぎの言いたかったことはまだわからないけど、いずれわかる日が来るかもしれない。
さよなら憂色小学校・・・
完!
注意:気になることがあってもお答えできません。