兄さんの話しを聞いた夜、一緒にいた黒い仔の事を考えていたら自然に叫んでしまった。
本当に人間っておいら達を打つのかなぁ? ここに来る人間はぶたないけど、外では
ぶつのかなぁ?
不安だったけど、次の日からもおいらは普通に暮らした。おいらは人語が分かるから
やってきた人間共は、「可愛い」とか「綺麗」とか言って抱っこしてくれている。 時々
首を掴んでダラーっとさせられるけど特に苦痛を感じるとか、恐怖を感じるとかは
ない。暫くたってから気がついたんだけど、人間の中にはおいら達を怖がったり変な目
で見たりする奴らもいるし、とってもおいら達を可愛がってくれる奴らもいる。
怖がってる奴にはあんまり近づかないほうがいい事もなんとなく分かってきた。
抱っこすると落ちそうになるわ、急に大声でわめき出すわ、ちょっと噛むと面白い
位大騒ぎになる。 まぁ結果的に噛むとおいらが怒られるから自重してるけどさ。
人間がわからないまま、毎日あまり変化の無い日々が過ぎていった。
その日は人間共がやけに多く来ていた。こんな日は、寝むくってもおちおち寝てられない
し、ボォーとしてると踏まれる事もある。おいらにとっては危険な日なのだ。
うとうとしていると、お店の女の子がおいらをヒョイと抱き上げていつもとは違う水槽に
運んだ。
「うにゃ??」と思ってると、そこにはいつか突然いなくなった黒い仔がおいらと同じ首輪を
つけて寝そべっていた。
「わぁ!どうしたんだよぉ?帰ってきたの?」
そんなおいらのビックリした顔を眺めながら黒い仔は言った。
「あらぁ!?あなたまだここにいたの!?」
虐められてイタチ兄さんと同じに、ここに連れてこられたんだろうか? 毎日ぶたれていたんだろうか?
やっぱり人間と外に嫌気がさしているんだろうか? おいらのちっこい頭の中は????で一杯に
なった。
「あらぁ、あなたも首になにか付いてるわね。そう、人間と一緒に暮らしているのね」
おいらは自分の首輪を見ながら、今までに経験してきた事を彼女に話した。もちろん人語が
分かる様になった事は除いて。
「私の人間はとっても優しいよ。ぶったりもしないし、ご飯もちゃんと食べてるわ。今はここに
いた時よりも、ずーっと、ずーっと幸せよ。外に出てよかったとおもってるわ。あなたも一度
出てみればいいのよぉ」
頭がくらくらしてきた。。。。イタチ兄さんの言葉と、この仔の言葉とどっちが正しいんだろう?
確かにこの仔はおいらとはちょっと違って、なんだか違う匂いもしてるしおいらが知ってた黒い
仔とは違ってしまってる気がする。
「だって、帰ってきたんじゃないの?もう人間とは一緒に暮らせないんじゃないの?」
おいらの言葉に彼女は初めて不安そうな顔になって、空を見つめて「ブッブッ」と鳴いた。
「ブーちゃんの事、覚えているかしらねぇ、どぉ?ちーちゃん?」
空を見上げると、優しそうな目で黒い仔を見ている人間の顔があった。
「ちーちゃんって呼ばれているんだぁ?」
「そうよ、いつもいつもちーちゃんって私の事を呼んでくれるわ。私ももうすっかり覚えたのよ」
真っ黒な鼻をヒクヒクさせながら黒い仔はちょっと得意げに言った。でもすぐに
「あなた、なんで私がちーちゃんだと分かったの?今日初めて聞いた言葉でしょ?」
「それは、、、、」
本当の事を話そうか迷っているうちにおいらはお店の女の子に抱き上げられておいらの目の前
から黒い仔の姿が消えた。
「ブーちゃんも早く誰かにお迎えされるといいねぇ。」抱っこされながらおいらは黒い仔の姿を
探した。
「ちーちゃんにもお友達をつくってあげようと思って。ねぇ、ちーちゃん」見知らぬ人の顔と
黒い仔の姿がおいらの目の前にあった。
「外での暮らしでイタチは君だけかい?」
「そうよ、どうして?」
「淋しい?」
「うん、時々皆で遊んだり、あたたの背中にくっついて寝てたりした事を思い出すわ」
「。。。。きっともうすぐ、友達が出来るよ。きっと」
「えっ!?どう言う事なの?あなたがお友達になってくれるの?一緒に外にいけるの?」
なにか言おうとした次の瞬間
「じゃぁブーちゃん、戻ろうね。じっくりお見合いさせてお友達がみつかるといいですね」
おいらはお店の女の子にしがみつきながら、定位置に戻された。
「ねぇ、一緒に外にいきましょうよ。私あなたとならもっともっと楽しいと思うわ。」
遠くで黒い仔の鳴き声が聞こえた。
声の方に走ろうと思ったが、紐が邪魔でこれ以上近づけない。
「ねぇ!おいらを連れていってよ!仲良く暮らせるから、きっとおいらならうまく暮らせるからぁ!」
「ブーちゃん、どうしたの?そんなに興奮して?ちーちゃんの所に行きたいの?」
「やっぱり覚えているんですかねぇ?もう一カ月も会ってないのに。ブーちゃん、ちーちゃんの
事覚えていたの?今日はね、ちーちゃんの妹を探しに来たのよ。ブーちゃんも早くママが
見つかればいいわねぇ」
おいらの足が止まった。
てくてく戻って、丸まって寝た振りをした。黒い仔の声も聞かないように、聞こえないように
前足で耳をふさいで目をぎゅっとつぶった。
「おいらはずーっと、ずーっとここにいるんだ。もう何処にも行かない、外に行くことなんか
考えない。今度黒い仔が来ても、遊んであげない。おいらは、おいらは、、ずっとここにいるんだ!」
目頭が熱くなってくる。。。。。「おいらに惚れるなよ!おいらは一人で生きていくんだから。。。」
シャーッ!
寝てる振りして叫んだ、泣いた、丸まった。