―暗い―
・・・なにも見えない・・・
「!!・・・成功だ!!」
・・・声が聞こえる・・・
「・・・クライ・・・」
喉から搾り出すように、なんとかその訴えを声にする。
「・・・暗い・・・だって?
ああ・・・それはお前がまだ体を動かすことを忘れているだけだ。
そのうち見えるようになる。」
その声は自分の言ったことを繰り返してなにか説明・・・したようだ。
だが、意味はわからない。体を動かすことを忘れているだって・・・?
・・・自分の体を動かすことに?・・・馬鹿げてる・・・
そう考えているとその声の言う通りに、だんだんまわりが見えてきた・・・
自分はどうやらベッドに寝かされているようだ。
周りには何かわからない機器がごちゃごちゃに置いてある。
「・・・お前は誰だ・・・」
言って、目の前の人間をよく見てみる。
無精髭をはやした青年―20代前半程度だろうが―が立っていた。
あまり美青年だと言えるものではないがどこか魅力的な感じもする。医者か科学者が着るような白い服を着ている。
中途半端に長い茶色の髪はもう何日も洗っていないようにぼさぼさで、緑の瞳―といったところだ。
・・・そこまで観察したところで相手がさっきの質問に答えた。
「俺はキルディー=F=ヴァイス・・・キルでいい。お前は何も覚えていないだろう?
お前の名前はアディル=フィージス。分かるか?」
言われて初めて気が付いた・・・何も思い出せない。何も分からない。
アディル「・・・覚えのない名だ・・」
キル「やはりな。・・・お前は、20年前事故にあってな・・・」
20年前?おかしい。どう見ても自分の体は16歳前後だ。
キル「20年前、魔法―か何かの爆発があってな。
・・・お前の住んでいた街の半分は消滅したよ。
お前は他の所へ散歩かなにかに行っててな。
魔法の余波の真っ只中にいた家にいたお前の家族は・・・皆死んだよ。
お前も家ほどじゃないが爆発の余波にあたってな。それから20年意識不明だった。」
アディル「20年・・・なら何故俺はこの体はなんだ?何故こんなにも若い?」
キル「冷凍睡眠(コールドスリープ)といったかな?
氷の魔法の応用で血や体液を抜いて零下20度まで体温を下げ、何十年も眠るんだ。
そしてその何十年後に、その怪我や病気を治す手立てがあることを祈るのさ。
ここはその冷凍睡眠の経過などを見る医療施設
―研究所、の方が正しいか?ここの患者は肉体的には死んでるからな。
で、俺はお前の病気を治す医者だ。やっと治療に成功した。
現にお前は目を覚ましているからな。」
講義をする教師のような口調でキルはアディルに言った。
アディル「・・・そう・・か・・・」
変な感じがする。何か違う生き物の体を動かしているようで―
アディル「鏡はないか?」
キル「・・・鏡・・・?あるが・・・」
言ってキルは訝しげに棚の上から小さな手鏡を持ってきた。
アディル「自分の顔を見てみたくてな・・・」
鏡を覗いてみると―やはりそこには16歳程度の少年がいた。
まだ少しばかり幼さを残している・・・だがその眼には幼さなど少しもなかった。
まるで何百年と生きている仙人のような・・・
髪はキルより少しばかり濃い茶色で、瞳は濁りのない緑だ。
キル「なにか思い出したか?」
アディル「いいや・・・何も思い出せない・・」
キル「やっぱりなあ・・・記憶を取り戻すのも医者の仕事なんだぜえ?」
キルは医者にしてはガラの悪い言葉を吐いて軽く嘆息した。
アディル「そういわれても、な・・・・」
キル「・・・お前はな、生前けっこうな剣士だったんだ。」
アディル「・・・剣士・・・?」
キル「ああん?覚えてねぇのか?」
アディル「・・・わからない・・・」
キル「しょうがねえなあ・・・お前はいろんなところに腕試しってななかんじで行ってたからな。
俺がみたとこじゃ、記憶を取り戻すには、いろんなところ旅していくしかねえぞ。」
アディル「旅・・・・か。いいじゃないか。」
旅をするのは好きだった気がする。まあ特に理由はないが直感的に・・・
キル「・・・まあいくしかないか・・・じゃあ明後日出発だ。」
アディル「ああ。」
そして、次の日二人は研究所の外へでた―