「なあにいちゃん?有り金全部置いてきゃ命だけは助けてやるっつってんだよ。」
そこには典型的な野盗―言ってみれば人気のない街道などで
金を盗っていく連中のことである―が、4〜5人18才程度の青年の前に立っていた。
あまり高級とは言えないが質素とも言えない飾り気のない
青と黒を基調とした服を着ていて、細長い杖を持っている。
容姿はまあまあの美男子でこれまたまあまあの長身と体格だ。
茶色がかった赤色の髪のかかった切れ長なブルーの瞳でその野盗達を見やる。
青年「・・・んん?野盗か?・・・久しぶりだなあ・・・・」
その青年は特に表情を変えずに言った。
野盗A「金置いてくのか置いてかねえのかはっきりしやがれ!」
ずいぶんと気の短い男である。すでに手元には山刀(マチェット)まで持っている。
青年「・・・聞こえなかったか?久しぶりだ・・・と俺はいったんだ。」
大分押し殺した声で青年はつぶやいた。・・顔は野盗達には死角になっていて見えないが、
見えていたら間違いなく逃げているだろう狂気的な笑みを浮かべている。
野盗B「それがなんだってんだ!」 
青年「つまりそれはなあ・・・しばらくストレス解消ができなかったってことなんだよ・・・・」
野盗「・・・ぁんだってえ?」
青年「ふ・・・ふふふふふ・・・・」
野盗C「こ・・・こいつ目がイってるぞ・・・!?」
すでに野盗達は引きはじめている。顔面も蒼白だ。
そしてその場に火の精霊―サラマンダーの姿が一瞬見え―
野盗D「!!?」
青年「もう逃げても遅いぜぇ・・・!!『舞火炎』(ダンシング・ボム)!!」

ごうっ

青年がその呪文を発した瞬間炎が舞い、野盗達はみっともなく宙を舞った。
青年「はっはぁ!!よく飛ぶなあ!!」
言って青年は軽く哄笑した。その間に野盗達は落ちてきている。
青年「むう・・・さすがにこのままで地面に叩きつけるのは俺の繊っ細な神経が傷つけられるな。」
彼は臆面もなくつぶやいて高々と手をあげた。
青年「『吹上風』(ブロウ・エアー)!」
刹那。その場にすさまじい勢いの風が現れ、野盗達の体を優しく包み込み、ゆっくりと地面に降りさせた。
青年「ここらにこいつらのテントがあるはずだが・・・」
野盗達は普通『アジト』などというものはもたない。
色々な街道を転々とするからだ。なので街道の近くにテントを張る、ということを野盗はやっている。
青年「お、あった!!」
青年の出した訝しげに顔をしかめ、目を細める怒っているような表情は一瞬にして消え去り、
次には明るい顔になり、口からは歓声をもらした。
青年「ふふふん♪・・・あーっこれはこの連中が今まで盗っていたお宝を持ち主に返すために俺が一時、
拝借しておくだけでだんじてネコババなどではないのだよ。うん。」
自分に言い聞かせるように多少大きな声をだして、青年は言って、辺りを見回してテントに向かって走っていった。
青年(・・・返したことは一度もないけどな。)
外面は笑いながら、内面は苦笑しながら、青年はすごいスピードで走っていった。

青年「ちわー!」
青年の大きな声が、小さい店内に響き渡る。
まあ店、と言っても普通の店のように物を売っているわけではない。
ここは冒険者ギルド。冒険者を売る店、だ。―冒険者、というのは依頼を受けてなんでもするいわば何でも屋だ。
そして依頼者の依頼を受けて、冒険者に依頼を教えるのがここ、冒険者ギルドである。―
「・・・・もーちょっと静かに出来ないか・・?ファーナス。」
ギルドの受け付けにいる男がそういった。20代前後で、後ろ髪をうなじあたりでしばってメガネをかけて、
安物のイスにもたれかかっている。
青年とはそこそこ親しいような口ぶりである。
そして青年の名は、どうやらファーナスと言うらしい。
「まあ依頼はこなすからいいんだけどよお・・・お前より好みしすぎるからなあ・・・
お前にあう依頼探すのって苦労するんだぜ?体を動かせて、スリルがあって、報酬がよくて、
なんとなくミステリアスな感じの、やつ―ってなあ。迷子探しだと報酬がよくないだろ?
護衛だと報酬はよくてもミステリアスってのがなあ。他にも色々あるがお前の条件にあうのなんて
一ヶ月にあるかないかだよ。」
男はぶつぶつと苦情を言って、青年―ファーナスのほうに目を向けた。
背は175、といったところだろう。体格は中肉中背より多少筋肉のある程度。
歳は確か―18だったと思うが。
ファーナス「んなこと言ったってなあ。そーじゃなきゃつまんねーじゃねえか。」
ファーナスもとりあえずすわりながら言う。
「・・・つまんねえ・・・ってあのなあ・・・」
ファーナス「ま、一ヶ月に一回あれば上等だろ!」
ファーナスは男を見やって大声で言った。
「一ヶ月にあるかないか、だぞ。」
男は半眼でにらみ返し、密かに嘆息し、
ファーナスの頬にひとすじの汗が流れるのを見逃さなかった。
ファーナス「んでも前にここにきてから一ヵ月半以上はかかってるんだから
一個ぐらい該当する依頼があるだろうが。」
多少慌てながらファーナスは男相手にうめいた。
「・・・残念ながら、ない。」
ファーナス「・・・マジ?」
ファーナスが驚愕の眼差しで男を見る。男は深くため息をついて、
「・・・と言いたいところなんだがな・・・残念ながら、あるんだよ・・・」
本気で残念そうに男がつぶやく。
ファーナス「人が悪いぞ!リーク!!」
多少なりともほっとして男―リークと言ったが―を見ながら言った。
リーク「・・・本当に残念だ・・・・・・・・で、依頼の内容だが。」
だらけていたリークが突然真顔に戻る。ファーナスはいつものことながらその素早さに圧倒されていた。
リークは依頼を受けたり伝えたりする時はこの顔なのだ。まあ特に意味はなさそうなので
あまり気にしてはいないが。
リーク「このところな、小さな村がどんどん―消滅しているんだ。」
リークが凄みをきかせた声で言う。
消滅―というのはこの場合村人が全滅、村は焼かれた―というような状態を指しているんだろう。
ファーナス「・・・ほう。」
出来るだけ声のトーンを下げて言う。ここで馬鹿みたいに明るい声を出したらこの場の雰囲気が壊れるからだ。
リーク「依頼者は、その消滅した村の一つの生き残り、ラークスの村のヴィドルさんで、
その犯人を捕まえてくれって依頼だ。まあ捕まえた後にどうするのかは知らんがな。」
彼は言ってわずかに肩をすくめた。
ファーナス「ラークスの村?あんなにでかい村が消滅ってか?どーゆーことだよ。」
―ラークスの村は特に特産物などはないのだが昔からあるので観光名所として有名で、
村と言っても実質は街程の規模だったはずだ。
リーク「―ああ。しかも一時間程―でな。」
リークが目をきらりとさせる。
ファーナス「・・・その、ヴィドルさんとやらに会わせてくれ。リーク。」
リーク「そこにいるよ―ヴィドルさん!」
「・・・はい・・・」
奥のドアから、いかつい20代程の男が出てきた。目を下に落とし、妙にやつれているのでそれより老けて見えるが。その男―ヴィドルさんだろう―は、手近にあったイスをこちらに向け、とりあえずそのイスに身をあずけた。
ファーナス「ヴィドルさん―だな?その時のことを詳しく教えてもらいたい。」
ヴィドル「・・魔法・・です。」
ファーナス「・・・魔法?」
ファーナスは言って訝しげに眉を吊り上げた。
ファーナス「・・・魔法で一時間たらずであの村を?どんな魔道士だってんだ。」
ヴィドル「・・・わかりません!!」
突然の大声にわずかにこけながらファーナスは言う。
ファーナス「わからないっつったってなあ・・・」
ヴィドル「私は・・・他の街に行ってたんです・・・
それで、帰り道に村が見えてきたら村から火柱があがったんですよ!?どうしろって言うんですか!?」
なかば叫ぶように―実際叫んでいるようだったが―ヴィドルは言った。
ファーナス「ん〜・・・まあそれもそうだな・・・」
あっけらかんとしてファーナスが答える。
リーク「・・・『それもそうだな』じゃねえよ。結局ヒントもなにも得られねえんだぜ?」
ファーナス「ぉお!!それは困る!!なんか分かるだろーが!!なんか!!」
ファーナスはヴィドルの肩をつかみながら言うが、
ヴィドル「・・・わかりませんよ・・・」
そういう答えを返し、やや憮然としながらヴィドルは肩の手をはらった。
ファーナス「・・どうしろってんだよ・・・」
リークのほうに向き直りながら、言う。
リーク「・・・頑張れ。」
ファーナス「てめえそれでも友達か?!」
驚きながら、すっとんきょうな声をだす。
リーク「・・・貴様は友達だったのか?『腐れ縁』や『知り合い』の類だったと思うんだが・・」
リークは半眼で言葉を返した。
ファーナス「・・・でもなあ・・・これ以上なんか聞けそうなことねえぜ?」
ヴィドル「・・・そうだ!!」
ファーナス「ぉお!?なんだ!?」
何も発しなかったヴィドルの口から突然の大声がでて、ファーナスは驚いたようだ。
ヴィドル「ラークスの村の位置は知っていますか?」
ファーナス「まあいちおうな。この街の南東だ。」
ヴィドル「ラークスの村の近くの村から消滅していっているんですよ!早くラークスの村の周辺の村に行かないと―」
ファーナス「・・・なあ・・・それはもしや俺の役目、か・・・?」
多少の絶望感を身に纏い、リークを見やる。そして、リークは首を縦に振り、
ファーナスの悲痛な叫びが店に響いた―

ファーナス「ああ・・・なんでこの俺が・・」
次の日、急遽いかなくてはならないとのことで、少ない身支度を整えファーナスが街をでるところだった。
リーク「安心しろ。もし巻き込まれて死んでも香典は・・・」
一瞬考え込んでから、
リーク「だしてやらん。」
ファーナス「なんなんだそれ!?」
リークの言葉を聞いて、もっともな反論を彼は言った。
リーク「・・・じゃあな。」
先ほどの反論は全く聞いていなかったようで―リークは小さく手を振り、
ファーナスはいやそうな顔で手を振り返して、この街を出て行った―