「・・・・・」
暗闇のなかで何人かの男女が火を囲んでいた。どうやら森の中のようだ。
小声で話しているので上手く聞き取れない―
「・・・・!!」
「・・・・・・・・。」
何か口論をしているようにも聞こえる。
実際は話し合っているだけなのだろうが・・・
小声での議論が終わりそうな気配がした。そして―いきなり深く低い声が森中に響き渡った。
「次は・・・コーネルの村―だ。」
「使うのか」
「まあいいだろう」
「すぐやるのか?」
「ああ。明日、決行だ―」

「ミリエルー!早くしないと祭りが始まるよー!!」

郊外の小さな村(郊外と言うより辺境であるが。)―コーネルの村―という。
祭りと言うのは毎年一日だけある感謝祭のような祭りのことである。
言ってしまえば踊って食べる大宴会のようなものであるが―
小規模な村にしては毎年なかなかの賑わいを見せている。

言ったのは15歳前後の少年だった。まだ幼さを残していて、
茶色の服で布のベルトをしめている。いかにも村の子供―といった格好。
だが容姿は格好に似合わず茶色の髪と青みがかった緑の瞳で端整な顔立ちをしている。が、
かっこいい、と言うよりかわいいのほうが適切だ、ともいえそうだ。
そしてミリエル―と少年が呼んだ娘が返事をした。
ミリエル「もぉ!そんなに急がなくても大丈夫よフィニス!」
こちらも14,5歳程度で村娘然とした格好だが、どちらかと言えば都会的な雰囲気を醸し出している。
金色の髪に深緑の瞳だ。
フィニス「だってさぁ・・・あと一時間しかないんだよお?」
ミリエル「一時間しかって・・・広場まで行くのに10分もかかんないでしょーが?」
彼女は多少この少年のせっかちさにあきれているようだ。
フィニス「むー・・・まあそうだけどさあ・・・」
何かすねたような表情を見せてフィニスはつぶやいた。
ミリエル「はいはい!!早く広場に行きたいんなら洗濯手伝って!!」
フィニス「げ・・・・」
フィニスは心底いやそうな顔をした。
なぜならミリエルがかかえている服の山は11人と大家族のミリエルの家全員分の洗濯物なのだ。
まともにやっていたら2人でやっても何十分とかかってしまう。
フィニス「さ・・・さよなら・・・ぐ!」
フィニスがきびすをかえしたのを見てミリエルは後ろからフィニスの襟を『ぐっ』とつかんだ。
ミリエル「手伝ってもらうわよ♪」
ミリエルはにこにことしながら言った。
フィニス「ぃいやぁだああああ〜〜〜〜〜!!」
その小さな村にフィニスの悲痛な叫び声が木霊した―

フィニス「あーっもお!!やっぱり早くいっときゃよかったんだ!!もう祭りの5分前だよ!?」
ミリエル「・・・わかってるわよぉ・・・」
ミリエルは多少すまなさそうに言った。彼女も祭りはそこそこ楽しみにしていたのだ。
あの後洗濯をしていたらミリエルの飼っている猫がせっかく洗濯した服を踏んで
二回目を洗い終わったらこの時間、というわけだ。
フィニス「あ!広場だ!!―やっぱりもう始まってるじゃないかぁ!!」
そう。その広場ではすでに祭りが始まり、皆踊っていた。
いや―踊っていない者が一人いた。ミリエルの父である。
その父の外見は―どこぞの野盗に間違えられることがある、といった風貌だ。口髭を僅かに動かしながら、言う。
ミリエルの父「おお。ミリエル遅かったな。」
ミリエル「父さんなんで踊らないの?みんな踊ってるのに・・・」
ミリエルの父「ん〜踊るのより酒飲んでるほうがよくってなぁ。」
豪快な外見にまけず劣らずな内容の言葉である。
ミリエル「・・よく急性アル中にならないわね・・・」
ミリエルの父「はっはっはもういくらも飲んでるから免疫がついてるのだよ。」
アル中に免疫があるはずがないしそれはそれで慢性アル中になる気がするが・・・父は全然気づいていないようだ。
ミリエルの父「あ、そうだ。」
ミリエルの父はなにかを思い出したような―実際そうだろうが―声を出した。
ミリエルの父「あのなあ、酒の肴の茸がないんだ。そこの丘にはえてるから取ってきてくれ。」
ミリエル「え〜!!やだよぉ、私も祭り楽しみにしてたのにぃ!!」
ミリエルの父「大丈夫だ。遅くっても祭りは逃げやせん。」
時がたてば逃げると思う―と反論したかったのだが、何を言っても意味のないような気がしてやめた。
ミリエル「もおー茸なんか肴にすんぢゃないわよ・・・」
少女は頬を膨らませてぶつぶつとつぶやく。
フィニス「ミリエル、僕も一緒に行くから・・」
ミリエル「ありがとうフィニス・・・」
ミリエルの父「じゃあ茸は『いつものやつ』だからな。」
フィニス「『いつものやつ』?」
ミリエル「私はわかるから。」
フィニス「ふーん。」

そして村の裏の小高い丘へ行って、ミリエルは『いつものやつ』を採った。
フィニス「・・・・・・・・それって・・・・毒茸じゃ・・・・」
彼は信じられない、という眼差しでこちらを見ながらつぶやく。
ミリエル「これでいいのよ。一時間で効果が現れるはずなのに
何も知らずに食べた父さんは一ヶ月たっても大丈夫だったんだから。けっこうおいしいらしいわよ。」
フィニス「・・・・・・・・・・・・・」
なぜかフィニスは頭を抱えてうずくまった。

そして丘をおりる途中―

ごぉぉおおおおん!!

ミリエル「・・・え!?」
フィニス「村のほうだ!!」
言ってフィニスは駆け出して、
ミリエルもいつのまにか後を追っていた―

そして村について―
ミリエル「・・・何があったんだ!?」
丘をおり、最初にミリエルとフィニスの目に飛び込んできたのは―
―村。火の海で、その中になにか黒いものが見える―
それは―村人達だった。だがもう人ではなくなっていた。抜け殻だけになっていた・・・つまり・・・皆死んでいた―
その時フィニスは建物の影の人影を見た。
フィニス「誰だ!?」
「・・・生き残りがいたか・・・」
その声は暗かった。夜の闇のように。
見ると一人の男がいた。若いとはいえない、40代前半程度の男。
黒い防護服に身を包み、黒い髪と氷の刃のように細い黒き目で、建物の影にいる、ということもあるが
闇に溶け込むように立っていた。そして細い杖を持っている。そこまでミリエルが確認したところで
男は影から手を突き出して何かつぶやくように口を小さく動かした。

きゅおぉぉおおお

男のこちらに向けた手で空気が渦巻いている。

ごうっ

男の手から光の矢が飛び出してくる。ミリエルに向かって。
フィニス「・・・!!ミリエル!!」
フィニスはミリエルの前に立ち―その矢を受けた。
ミリエル「フィ―・・・!!」
フィニス「ミ・・リエ・・ル・・・・」
まだ辛うじて生きてはいるようだ。―だがその声もかろうじて、という声で、彼の声が聞けなくなるのももうすぐだろう。
フィニス「逃げ・・ろ・・・・こいつが・・村の・・皆を殺したん・・だ・・・!!
これは魔・・法・・ミリエルも殺・・・される・・・!!」
次の瞬間フィニスのつぶやきは止まり―フィニスの鼓動も止まっていた。
「・・・余計なことを・・・まあ・・・死ぬ順番が変わっただけだな・・・」
淡々と無表情に。だがどこか楽しむように男は言った。
ミリエル「わかったよぉ・・・フィニス・・・・」
言ったところでミリエルは立ち上がった。既に男の手では光の矢が放たれようとしている。
「これで終わりだな―」
ゲームで王手(チェック・メイト)とでも言うように男は言葉を出した。
「光熱矢(ヒート・ランス)!」
先ほどは聞こえなかったが同じ呪文を唱えていたのだろう。
さきほどと同じ光の矢がこちらに地を裂いて突っ込んでくる。
ミリエル「え・・・!?エ・・大気盾(エアー・シールド)!!」
ミリ得るがあわてて手を突き出し、その言葉
を発すると―

ばぢっ

二人の魔法、光の矢と空気の盾がぶつかりあう。
「・・・なに・・・!?」
男は予期せぬ事態を目の当たりにし、驚愕に顔を染めた。
「小娘・・・魔法が使えるのか・・・・
・・・・!?『魔法杖』(ルーンワンド)は・・・持っていないのか・・・!?」
―普通魔道士は『魔法杖』を持っていて、魔法とは精霊―『風の精霊ジン』、、
『火の精霊サラマンダ―』、『水の精霊セイレーン』、『土の精霊ノーム』のいずれかに呼びかけ、力を貸してもらい
それを杖の力で受け取り術者が増幅し放つ、というシステムなのだが、
ミリエルが魔法杖を持っていない、ことに男は驚いたのだ。
ミリエル「え―?あ、うん。小さい頃にお母さんに教えてもらってたんだけど・・・魔法杖なんて使わなかったよ?」
普通に知り合いと話すような口調だが警戒は怠らない。
「・・・馬鹿な・・・・魔法杖も持たずに魔法を使える人間がこの世にいるはずがない!!!」
最初は落ち着き払っていたこの男が今はこんなにも取り乱していることがミリエルには少し以外だった。
まあそれ相応のおかしなことがおこっているからだろうが。
ミリエル「そんなこと言ったってさあ・・・」
なにか困るようにミリエルが首をかしげていると、
「・・・そんなことが出来た人間・・は歴史上に数人いたかいなかったか、だ・・・・」
ミリエル「・・・そおなの?」
ミリエルはすっとんきょうな声をだし、訝しげに顔をしかめた。
「貴様は、我らの『計画』に邪魔だ!!!!」
男が唐突に声を張り上げる。
「『風矢』(ウィンドゥ・ランス)!!!」
風の矢が音をたててこちらにすごいスピードで迫ってくる。
ミリエル「っつ・・・!!『爆風壁』(バースト・ウオール)!!」
ミリエルの起こした壁は風の矢にあたり大きく揺れ動き、ほどなく消え去った。
矢はこない。壁が吸収してくれたらしい。
「何故だ・・・何故こんな力を持った者が・・・こんな村に・・・・!?」
男はもうほとんど戦意を喪失している。―何か、壊れたように、同じ言葉を繰り返した。
「何故、何故、何故、な・・ぜ―」
ミリエル「私はずっとこの村にいたわ。そしてあなたに村を焼かれて皆殺された・・・!!」
何故も何もあったもんじゃないってのよ!!」
ミリエルは段々と口調を強くしていく。
ミリエル「計画・・・!?なんなのよそれ!!それがみんなを殺した理由!!?」
「そうだ。それがこの村を焼き払った理由―」
ミリエル「・・・!!!!」
「我が名はアーカンス・クイル。聞いたことはあるか?」
ミリエル「・・アーカンス・・・あの・・・」

―アーカンス・クイル。
2〜30年に一度生まれるか生まれないかというほどの魔法の腕を持った
者で、王都ラードランの専属魔道士にもよばれ、何年か王宮にいたがここ数年姿をくらましているとのことであったが。

ミリエル「なんで、あなたほどの人がこんな―」
「こんなことをしているか、だと?すべては『計画』のためだ!!」
ミリエル「だから、『計画』ってなんなのよ!!」
「話せる訳がなかろう―?こんな小娘に。・・・く・・くははははははは!!」
ミリエル「!?」
男の突然の哄笑にミリエルは2,3歩後ずさった。
「は、は・・・貴様は・・邪魔、だな・・・だが俺では・・・俺も老いたな・・・『風牙』(ファング・ウィン)!!」
ミリエル「え・・・!?」
途切れ途切れに言葉をつぶやいていた男の放った
突然の魔力の牙(どちらかと言えばナイフか剣が男の手から放たれたように見えたが)を避けるため、
しゃがむと牙はさけられたが牙と共につれてこられた風にバランスをくずされ、なすすべもなくすっころぶ。
多分それを狙っていたのだろう。その時視界の片すみにいた男が起きたときにはもういなかった。
ミリエル「・・・逃げた、の・・・・?」
なかば信じられないといった感じでミリエルはつぶやいた。あの男が。村を焼いて村の皆を殺したあの男が。
ミリエル「・・・計画・・・」
小さくつぶやく。辛うじて聞き取れる程度の声で。
ミリエル「他の・・・街でも・・こんなことをやるかも・・・!!」
ミリエルははっとして思わず大声で叫んでいた。自分自身でもその声量に驚いたくらいだ。
ミリエル「・・・・行かなきゃ・・・他の街に・・計画ってのを阻止できなくても、
街の人にそのこと教えなきゃ・・・。」

その日、ミリエルは少ない(大体焼かれてしまった)身の回りの品を整え、村の人の墓をたて、
村を出て行った―