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〜〜 カンアオイのこと 〜〜


〜〜カンアオイ目次〜〜

1.まえがき 2.カンアオイってなに! 3.どんな種類があるのだろう

4.どこに注目したらいいのかな 5.種どうしの関係はどうなっているの

3.どんな種類があるのだろう

「カンアオイ」という名が必ずしも1種類の植物を意味しないことは”2.カンアオイってなに!”で述べたとおりです。

ほんとうの「カンアオイ」とは

最も狭い意味の「カンアオイ」という名は何をさすのでしょう?

最も狭い意味の標準和名「カンアオイ」は学名を Asarum nipponicum 、別名をカントウカンアオイという植物のことです。この「カンアオイ」の学名は少し前まで Heterotropa nipponica でした。

今では研究が進み Heterotropa 属は、 Asarum 属に統合されこの学名を使うことが多くなりました。

写真上:カンアオイ(カントウカンアオイ)の葉と花・蕾、葉模様は多種ある。

写真下左:ガク片1枚分を切り取ったもの。口輪、ガク筒内壁の隆起線などの特徴。
下右:雌しべと雄しべ、丸くふくらむのが柱頭。雄しべは雌しべの外側に二重に並ぶ。

開花時期は秋9〜10月、3枚位の鱗片に包まれた芽から蕾が伸び出し開花する。花は受粉後も、翌春まで長く形が変わらないので開花時期を誤認しやすい。花は口輪が白くガク片がやや反り返る。分布は関東地方南部から静岡県。

江戸時代に園芸植物化された「細辛」の原種は、このカンアオイ(カントウカンアオイ)が多いと言われています。

カンアオイという名は 今でも、Heterotropa 属だった植物をさすのによく使われます。

カンアオイの全体像は

”広い意味のカンアオイの仲間”は統合された Asarum 属の植物をさします。従来は形態や分布の違いで世界中の種類を、5つの属(フタバアオイ属、ウスバサイシン属、オドリコサイシン属、カンアオイ属、アメリカカンアオイ属)に分けていました。

しかし現在は属を分けるほどの差がないとして、1つの属にまとめる考え方が主流です。すなわち全ての種類をAsarum 属・アサルム属に含めています。

従来の5つの属は、属より下の区分である節などとして残されています。これらの”広い意味のカンアオイの仲間”は北半球のヨーロッパ大陸、アジア大陸、北アメリカ大陸にまたがって分布しています。

なお、Asarum 属には近縁な属として中国産の Saruma 属・サルマ属があります。 Saruma 属はサルマ・ヘンリー(タカアシサイシン)ただ1種を含む属です。この植物は黄色い、3枚の目立つ花弁のある花を咲かせます。

Asarum属とSaruma属はDNAの比較でも近縁で、2つの属をまとめてサルマ連とされます。サルマ連が最も広く捕らえたカンアオイと言えるかもしれません。

”広い意味のカンアオイの仲間”の全体像をつかむには、従来の5属の区分がわかりやすいので、その特徴、主な種、分布、体細胞染色体数などをまとめてみます。この5つの”属”は”節”と読み替えても良いかもしれません。

1,フタバアオイ属 Asarum ・・・

落葉性または常緑性、茎は地上を横に這う、春一対の葉を出す、ガク片の後半部はガク筒をつくるが合着しない、ガク筒内面に隆起はない。フタバアオイ、オウシュウサイシン、カナダサイシン、セイガンサイシン、日本・中国・欧州・カナダ、アメリカ西岸、2n=26まれに2n=24。

2,サイシン(ウスバサイシン)属 Asiasarum ・・・

落葉性、茎は株立ち状から横に這う、春一対の葉を出す、ガク片の後半部はガク筒をつくるが、ガク筒の前半は合着せずガク筒後半のみ合着する。ガク筒入り口に口輪(環)がなく、ガク筒内壁に縦の隆起がある。、ウスバサイシン、オクエゾサイシン、アツバサイシン、ケイリンサイシン、日本・サハリン・中国・朝鮮半島、2n=26。

3,アメリカカンアオイ属 Hexastylis ・・・

落葉性または常緑性、茎は浅く地中をはう、節間が短く株立ち状。ガク片の後半分が合着してガク筒をつくる。花の構造が単純、ガク筒入り口に口輪(環)がなく、ガク筒内壁に網状隆起がない。ガク筒入り口から内部にかけて、目立つ模様を持つものがある。スペシオサム、アリホリウムなど北米大陸で約10種に分化。アメリカ東岸、2n=26。

4,カンアオイ属 Heterotropa ・・・

常緑性。茎は浅く地中をはい、節間が短く株立ち状に見えることもある、横に長く這うものもある。ガク片の後半分が合着してガク筒をつくる。花の構造が最も複雑、ガク筒入り口に口輪(環)があり、ガク筒内壁に縦横の網状隆起がある。

日本列島、南西諸島で多くの種に分化。中国にも多くの種があり日本のもの以上に変化がある。タイリンアオイ、カントウカンアオイ、サカワサイシン。日本、中国、台湾に分布する。日本・台湾の種は2n=24、中国の種は2n=24と26。

5,タカサゴサイシン属 Geotaenium ・・・

常緑性、ガク片の後半分が合着してガク筒をつくる。ガク筒入り口に口輪(環)は無く、内壁は網状隆起が無く平坦。タカサゴサイシン・台湾、オドリコサイシン・中国、中国に2種、・台湾に1種分布する。染色体数は他の属に比べて少なく2n=12。

5つの属の分布範囲の概略を地図の上に示してみました。

・フタバアオイ属は、たいへん広い範囲に分布します。また1つの種が広い範囲に分布する傾向があります。

フタバアオイは、日本の新潟・福島以南四国・九州、中国大陸にも分布します。
オウシュウサイシンは、ヨーロッパからシベリア南部にかけて広く分布しています。
カナダサイシンは北アメリカ大陸の東側に広く分布します。
他に中国、台湾、ベトナム、チベット、インド、ネパール、ミャンマー等にかけて8種ほどが、北アメリカ大陸西海岸側に5種が知られている。

・サイシン(ウスバサイシン)属は、日本海を取り巻くように、日本、韓国、中国、サハリンに分布しています。この属は比較的変異の幅が狭く、2〜3の種と変種が知られています。

・カンアオイ属は、日本の本州以南、佐渡、四国、九州、南西諸島、中国大陸、台湾、ベトナムに分布する。

この属は変異の幅が広く、日本で約46種1亜種11変種、中国・台湾で約24種が知られている。
日本と台湾に分布する種は、すべて染色体基本数n=12だが、中国にはn=12と13の種が分布する。中国産のn=13の種とアメリカカンアオイ属(すべてn=13)との類縁性の指摘もある。
原始のカンアオイはアジア大陸起源なのかアメリカ大陸起源なのかも興味深い課題です。

・アメリカカンアオイ属は、アメリカの東海岸側に約10種が分布する。

・タカサゴサイシン属は、中国大陸に2種、台湾・海南島に1種が分布し、計3種が知られているだけです。

・サルマ属の分布もついでに示してみましょう。

サルマ属にはただ1種サルマ・ヘンリー(タカアシサイシン)だけが含まれます。サルマ・ヘンリーは中国の甘粛、貴州、湖北、江西、陝西、四川の各省に分布します。

カンアオイの仲間の中でサルマ属は他の5属より古いタイプの植物と考えられています。そのことを重視すればアジア大陸がカンアオイの生まれ故郷と言えそうですがどうでしょう。
染色体数は2n=26が最新の報告(1994年)で信頼できるかもしれませんが、染色体数2n=24、26、52などが報告されています。産地によって染色体数がちがうのかもしれません。

*日本にギフチョウという蝶がいます。近縁種は日本と中国に全部で4種います。日本にはギフチョウとヒメギフチョウの2種が分布して、中国にはヒメギフチョウとシナギフチョウ、オナガギフチョウの3種が分布しています。

ギフチョウ、ヒメギフチョウ、シナギフチョウの幼虫はカンアオイやウスバサイシンの仲間の葉を食べて育ちます。オナガギフチョウの幼虫はタカアシサイシン(サルマ・ヘンリー)の葉を食べて育ちます。おもしろいことに、オナガギフチョウの幼虫はカンアオイやウスバサイシンの仲間の葉だけを与えても正常に生育します。

カンアオイの仲間は北半球の亜熱帯から冷帯の落葉樹林の下草として分布していることが多いようです。落葉樹林の分布とカンアオイの仲間の分布が、一致するという指摘があります(日浦勇)。

同じウマノスズクサ科でもウマノスズクサの仲間は、熱帯にも分布を広げ、大型になる多くの種を分化しています。また一部の種はアフリカやオーストラリアなどカンアオイの仲間が分布しないところにも分布を広げています。

ウマノスズクサの仲間は、つる性のものが多く、日当たりの良いところを好むものが多いことも、カンアオイの仲間とは、性質がだいぶ異なるようです。ただし、カンアオイの仲間にも例外的に、日当たりの良い畦道などを好むヒメカンアオイの個体群があるといいます。

ウマノスズクサ科の花には、サルマ・ヘンリーを除き、花びらがありません。カンアオイの仲間も、ウマノスズクサの仲間も、ガク片の変化した特異な筒状の花形と腐肉臭・腐臭で虫を呼び花粉を運ばせているのは、共通しているようです。ただし、ウマノスズクサの仲間の花の方が形、虫との関わり方ともより高度に特殊化しています。

日本のカンアオイ

ここで、代表的な種を紹介できると良いのですが、私にはそんな力がないので、それは詳しいウェブ・サイトなどにお任せしたいと思います。

〜ウェブ サイト〜

・「寒葵分類一覧表」・・・充実した写真付き一覧表。
   http://www.hpmix.com/home/ssc/ssc02/

・「葵の御前会議帳」・・・写真付き掲示板です。質問に答えてくれます。
   http://www2.ezbbs.net/13/sscbbsn1/

・「野の花賛花・・自生の姿を追って」・・・多くの種を自生地で捉えているのはすばらし。
   http://hanamist.sakura.ne.jp/index.html

〜多くの野生種が紹介されている趣味の本〜

「史の花:ときのはな」寒葵・細辛写真集・・・比較的安価なのでお薦めです。

〜専門的な本〜

日本産Asarum属全般に関する最新の報告は、
「Flora of Japan II a (2006) ・講談社発行」の中の Asarum属・菅原敬担当、だと思います。

この本には検索表と1種ごとの解説があります。図はありません。取り上げられている種の総数は、私が数えたら50種1亜種12変種でした。ずいぶん細かく分類されていることがわかります。これでも、多くの種類が漏れているという指摘もあります。この本はすべて英文で書かれ、高価なので、興味のある方は、図書館で探してみてください。

この本の菅原敬による検索表は日本産 Asarum属を2亜属3節に分類しています。

Asarum 属

 I. Asarum 亜属
  1. Asarum 節・・・フタバアオイなど2種

 II. Heterotropa 亜属
  2. Asiasarum 節・・・ウスバサイシンなど2種、1変種
  3. Heterotropa節・・・カンアオイなど46種、1亜種、11変種


これだけでは味気ないので、たまたま出会ったいくつかの種の写真を載せてみます。カンアオイの仲間は、葉で種を区別することがほとんど不可能なので葉はあまり意味はないかもしれません。それでも写真には、言葉で表現しにくい、種による葉の雰囲気の違いがそれとなく出ているように思います。

種を決定するには、花の構造を詳しく調べること、根茎上の鱗片葉、葉、花の順序を調べること、開花時期を知ること、葉や花の表面の毛を顕微鏡で調べることなどが必要なようです。特に花の細かい特徴が重視されています。花をいくつか並べてみました。


 いくつかの種の紹介:葉(普通葉)

   上段左から、カントウカンアオイ、オトメアオイ、ヒメカンアオイ秋咲き、
   下段左から、ランヨウアオイ、タマノカンアオイ、ミヤコアオイ、

   左から、タマノカンアオイの葉脈、ヒメカンアオイ春咲き、

 葉の形は変化しやすく、葉模様は同一種でもちがいがある。葉の厚さはタマノ>カントウ>オトメ>ランヨウの順に薄くなる。ヒメはやや小形で葉の先が尖らないことが多い。ランヨウは艶があり、葉の基部が広く開き、耳状に左右に飛び出す。ランヨウでも株によって、葉の大きさによって、そのような形にならないことも多い。タマノは細い葉脈までくぼむ。

 花

   上段左から、カントウカンアオイ、オトメアオイ、ヒメカンアオイ秋咲き、
   下段左から、カントウカンアオイ、イズミカンアオイ、イズミカンアオイ、

花びらのように見えるのはすべてガク片です。花びらは退化してありません。カントウのガク片はやや反り返る、開花直後のガク片表面に毛がある、口輪が白いなどの特徴がある。イズミはガク筒の口が広く、ガク筒が太く短い。ヒメは花も小さい。

 

  

上、下とも左から、オトメアオイ、ヒメカンアオイ(秋咲き)、カントウカンアオイです。上の写真でカントウカンアオイのガク筒の口の周り(つば、口輪)が白い、下の写真でオトメアオイのガク筒の上部がわずかにくびれている、等の特徴が見られます。ほんとうの大きさは、カントウ>オトメ>ヒメの順です。

  

これも、オトメアオイ?花が大きく、ガク筒が長く、くびれがない。ズソウカンアオイかもしれない。ガク筒の口が三角形、ガク片の境目がくぼむなどの特徴がありますが、ほんとうは何という種なのでしょう。

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もっと詳しく見てみましょう。

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