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〜〜 カンアオイのこと 〜〜


〜〜カンアオイの目次〜〜

1.まえがき 2.カンアオイってなに! 3.どんな種類があるのだろう

4.どこに注目したらいいのかな 5.種どうしの関係はどうなっているの

5−a,DNAによる系統分類 5−b,カンアオイ誕生まで
5−c,節の系統関係・主にケリー 5−d,他の研究・節の系統

5.種どうしの関係はどうなっているの= 続き

5−e,Asarum 節フタバアオイ 5−f,Heterotropa 節カンアオイ 
5−g,おまけ

5.種どうしの関係はどうなっているのかな
〜進化・系統関係〜

今まで述べてきた「花の構造を主に形態を基準にした」分類とは別に、「遺伝子(DNA)の構造の差異を基準にした」分類が重要な位置を占めるようになってきました。APG分類体系といいます。遺伝子は目に見えないので、遺伝子による分類はわかりにくいことは確かですが、基本的な理屈は案外単純です。形態による分類では、どの形態形質がより重要かという重み付けに主観が入りがちですが、遺伝子(DNA)の比較では主観が入りにくいという利点があります。

遺伝子(DNA)は原則として変化することなく子供に伝えられていきます。しかし、希に突然変異が起こり、これが子供に伝えられます。突然変異の起きた位置の比較と突然変異の数の比較から、種相互の枝分かれ(分岐・進化)の順序と時間の経過がわかります。

突然変異の起こる割合はほぼ一定と考えられます。したがって、2つの種の遺伝子を比較したとき、遺伝子の差が大きければ(突然変異の回数が多ければ)2つの種ができてから永い時間が経っており、遺伝子の差が小さければ種が分かれてからあまり時間が経っていないと判断できます。いくつかの種を比較たとき、2つの種が同じ遺伝子の同じ位置に同じ変異を持つなら、この2つの種は共通の先祖を持つと考えられます。

上の図には時間の経過と共に起きた変化がすべて描かれていますが、現実には過去に起きたことはわかりません。進化の道筋は、種a、b、c のDNAの分析結果から過去に起きたことを推測することになります。試しに、この図の種a、b、c の塩基配列から過去に起きた分岐を推測すると、図とは異なった分岐も可能です。信頼度の高い推測をするにはたくさんのデータが必要です。

生物がどんな枝分かれをし、どんな順序で現れてきたか(進化)を明らかにする分類が「系統分類」と呼ばれる分類です。遺伝子の比較でも、形態の比較でも、系統分類が今は分類の主流です。

日本には正式に記載されて学名がつけられたカンアオイの仲間が50種類位あります。カンアオイの仲間は普通、花の構造のちがいををもとに3つの属または節に分けられています。

1.フタバアオイの仲間

2.ウスバサイシンの仲間

3.カンアオイ(狭い意味)の仲間、

の3つで、属または節に位置づけられます。

日本のカンアオイ(広い意味)50種の内、46種・92%はカンアオイ(狭い意味)に属します。前川文夫は日本産のカンアオイ(狭い意味)の多くの種が日本で進化した(分化した)という説を発表しました。また、なぜこれほど多くの種に分化したかと言うことを考察しています。

ちなみに、カンアオイ(広い意味)の3つの属または節の進化・分化は中国大陸で起きたと考えられているようです。

* ”進化”と言う言葉の意味・・・
”進化”イコール”進歩”と考える人がいますがこれは間違いです。”進化”という言葉には”進歩”という意味はまったく含まれません。進化によって進歩することも、退歩することもあるわけです。もっとも、自然は進歩だとか退歩だとか評価はしませんから、進歩も退歩も人間の都合でしかなく、自然界では何の意味もありません。

”進化”を分かりやすい言葉で言い換えれば”進化”イコール”変化”だと思います。また、進化に近い言葉として分化(ぶんか)、分岐(ぶんき)なども使われます。

カンアオイの進化・分化は前川以後も、学問の進歩に伴いくり返し研究されてきました。形態や生態・分布・地史、染色体や揮発成分、遺伝子の塩基配列などさまざまな視点からカンアオイの進化・分化は研究されてきました。日本だけでなく多くの種が分布する中国やアメリカでも研究されています。したがってその全体像をつかむのは私のような素人にはたいへん難しいことです。ここでは私が目にした研究の一部を紹介したいと思います。

中国大陸がカンアオイ類の発祥の地であり、第一次の分化中心地と考えられている。中国大陸で分化したいくつかの系統が、周辺地域に分布を広げた。なかでも、日本、北米大陸では種の分化がさらに進んだとされている。中国大陸から周辺地域への進出は1回ではなく、何回かあったと思われる。世界に分布する種相互の系統関係は未解明な部分が多い。

従来、分布域、花の構造、染色体数、核型、常緑か落葉かなど生態的な異同を考慮して多くの分類や分化の解析が試みられてきた。しかし分布域が広く地域によってはまだ分布する種の全容がつかめないこと、種数が多く正確な種名の個体が入手しにくいこと、形態が単純で比較できる形質が少ないことなどから世界のカンアオイを網羅した分類は完成していない。

何しろ素人なので勘違いや間違えがあると思います。ご指摘いただけたらありがたいです。

* 分類について・・・
分類はさまざまな目的で行われます。園芸や農業では、わかりやすく栽培や利用に便利な分類がよいでしょう。現在は進化の道筋を跡づける系統分類が主流です。生物の学問的な分類は完成することがありません。常に研究の途上です。何を分類の基準に取るかで結果が異なることもあります。

植物では花の構造が主要な分類の基準として永く使われてきました。現在もそれは重要な基準ですが、さらに遺伝子(DNA)の構造が重要な基準として加えられました。ある分野で研究が進めばその成果を取り入れて、分類の再検討が行われることは、よくあることです。

1つの種から枝分かれし新たな種が形成されるには、少なくとも50万年かかるという考えがあります。長い年月の経過する中で絶滅してしまった種もたくさんあります。進化の後付をする、系統分類を完成するのはたいへん困難です。多くのデータを集め進化の道筋の失われた枝や失われた幹の部分を推測することになります。

分類には異なる物差し(データ)が必要です。種同士の関係を測る”物差し”と属や科の関係を測る”物差し”が必要になります。1g単位を測る秤と100kg単位を量る秤が別なようにです。種同士の関係を探るには突然変異の蓄積しやすい遺伝子(DNA)のデータが使われ、属や科の関係を探るには突然変異の蓄積しにくい遺伝子(DNA)のデータが使われます。



5−a、遺伝子DNAの構造に基づく系統分類

1990年代から盛んになった遺伝子の塩基配列を比較することで、植物の進化の道筋:系統関係を明らかにする研究は10年以上の蓄積により陸上植物全体の系統関係を示せるまでになった。従来の分類では結論の出せなかった系統関係が明らかになり被子植物の分類はエングラー、クロンキストの形態の比較を主とした分類体系から遺伝子解析に基づく系統分類(APG分類体系)へと変わりつつある。

* 系統は3つの遺伝子、葉緑体のDNAに含まれるrbcLとatpB、核のDNAに含まれる18S rDNAの塩基配列から推定されれる。

カンアオイ類についてもその例外ではない。DNAの分析ベータにより、カンアオイ属の系統的位置づけや、カンアオイ属内部の種の系統関係が発表されている。
DNAの解析データによれば、カンアオイ類はモクレン類のウマノスズクサ科に属する。またウマノスズクサ科なかでもカンアオイ類はモクレン類の根元に近い分岐で、双子葉植物の中でも単子葉植物と近い関係にあり注目されている。

*カンアオイ類のDNA塩基配列の解析例・・・
豊橋ボタニスト倶楽部の会報に載った、われもこうさんによる分析です。会報の図では1番目の塩基から325番目の塩基までが図示されています。

5−b、カンアオイの誕生まで

少し煩雑になりますが、カンアオイ誕生までの進化の道筋をざっとたどってみましょう。陸上植物は、胞子で殖えるシダ植物から種子で殖える種子植物へ進化しました。最初の種子植物は裸子植物ですが、やがてその中からさらに子供(胚)をしっかり守ることのできる被子植物が進化しました。下の図はDNAの塩基配列の解析による被子植物の系統関係を示したものです。

双子葉植物という1つのグループは成り立たなくなり、少なくとも3つのグループ分かれることを示しています。原始的被子植物とモクレン類は古いタイプの双子葉植物と考えることができます。単子葉植物は双子葉植物と対立するグループではなく、古いタイプの双子葉植物であるモクレン類からいくつかの突然変異を重ねて分化してきたと考えられます。

DNAの塩基配の列解析は、このモクレン類からカンアオイの属するウマノスズクサ科も分化してきたことを明らかにしました。下の図はそんな関係を示しています。

ウマノスズクサ科は約1億3千万年前の白亜紀初期にコショウ科などと分岐して成立しました。カンアオイ類とウマノスズクサ類の分岐は約1億1千万年前の白亜紀中期に成立したと計算されるそうです。ただし、この時代のカンアオイ類がツルなのか草なのか、どんな姿をしていたのかはまったくわかりません。サルマ属とカンアオイ属の分岐はずっと下って約3千数百万年前の新生代第三期になるそうです。

白亜紀中期といえば恐竜の全盛期です。そのころ多かった?と言われる、裸子植物の林にカンアオイの先祖は生えていたのでしょうか。それとも、増えつつあった被子植物の林の下草としてスタートしたのでしょうか。どちらにしてもカンアオイの先祖は6500万年前の恐竜大絶滅の時を生き延び、その後多くの種を分化して北半球に広くその子孫を分布させたのです。

今手元にある種がどんな進化の道をたどってきたのか興味は尽きません。ヒトの先祖が大型類人猿から分岐し、猿人としてアフリカに現れたのが約500万年前といわれています。カンアオイの進化を解き明かすということは、ヒトの進化の7倍もの長い時間を解き明かすことなのです。

ウマノスズクサ科の内部は、DNAの解析に基づいて次のような系統樹が提示されています(2002年。この図の枝長は正確でない)。ウマノスズクサ科はウマノスズクサ類とカンアオイ類に二分されています。
DNAの分析データによればSaruma属(1属1種、サルマ・ヘンリーのみを含む属)はカンアオイ類の最初の分岐となっています。サルマ・ヘンリーは単子葉植物の分岐に最も近いとして注目されています。サルマ・ヘンリーは中国に分布する夏緑性の種で、ウマノスズクサ科でただ1種、はっきりとした3枚の花弁を持ちます。

* サルマ・ヘンリーは、”タカアシサイシン”の和名をつけて日本でも植物園などで栽培されています。また、ギフチョウの食草として栽培している人もいるようです。


5−c、カンアオイ属の節の系統関係

系統関係は種から節、属、科と見ていくのが本当なのでしょうが都合で属・節・種の順になってしまいました。
カンアオイ類についても、DNAの分析データによる系統分類が試みられるようになって、新たな展開が見られます。カンアオイではITS 1 および ITS 2と名付けられたDNA の約510塩基対が系統解析に用いられることが多いです。しかし、世界のカンアオイを高い信頼度のデータで解析した系統分類は完成していないようです。また、このようなデータに基づく世界のカンアオイ類の総説といったものも見あたりません。

* 核にある3種類のリボソームRNAをつくる遺伝子はスペーサー領域を挟んで連続して並んでいます。この2つのスペーサー領域がITS1 と ITS2 です。
並び順はこんな感じです。−−18S−ITS1−5.8S−ITS2−26S−−。この配列がさらに数100回繰り返し並んでいます。18S,5.8S,26S はリボソームRNA遺伝子です。
ITS1およびITS2の塩基数はそれぞれ約250。

属や節の系統を解析するためには、突然変異率の高い領域であるITS1およびITS2が使われます。

カンアオイの系統関係をITS領域(ITS1+ITS2)の塩基配列のデータ等で研究した論文はあまり多くないようです。私が目にした、多くの種を解析している研究は、「Kellyによる1998年の論文」と「菅原敬による2005年の論文」の2つです。他に笹本彰彦による2004年の一般講演がありますが論文として公表されていないようです。

従来の5属が統合された、広義のカンアオイ属(Asarum属)内部の系統関係もまだ一致した系統樹が描かれるまでには達していません。従来の5属は属の下位グループである節として位置づけることが多いです。しかし、Kelly98論文ではアメリカカンアオイ節Hexastylisを、カンアオイ節Heterotropaに含まれるとする結果を出しています。Kelly98論文で取り上げられている種は、従来の5属すべてにわたっています。それで、しばらくこの論文に沿って話を進めていきます。

<<復習をちょこっと・・・
従来、カンアオイ類は”フタバアオイ属 Asarum,サイシン属 Asiasarum,アメリカカンアオイ属 Hexastylis,カンアオイ属 Heterotropa,タカサゴサイシン属 Geotaenium”の5属に分類されることが多かったが、属間の形質や遺伝的な差が小さいことからすべてを広義の Asarum属に統合する考えが主流となった。従来の5属は節として位置づけられることが多い。

カンアオイ類には3種類の染色体基本数 X=6、X=12、X=13(体細胞染色体数では2n=12、24、26)が知られている。この3種類の染色体数がどのように分化してきたかという解説も見かけない。

* 2n=26から最小の染色体1対2本を失い、2n=24の種が成立したという見方はある:前川、ケリーなど。しかし、タカサゴサイシン節2n=24が古い系統として位置ける研究があるので、2n=12→染色体の倍加2n=24→1対の染色体の切断2n=26ということもありそうな気がします。核型を比較したわけではないので単なる想像ですが。。>>

Asarum属(統合後)内部の系統関係

Kelly98論文はIST1,2と形態のデータを総合して、カンアオイ属Asarum(統合後)がどのように進化してきたかを示しています。以下は同論文の川島的理解です。。

下図は同論文にあるIST1,2のデータだけによる系統樹を簡略にしたものです。この研究では、従来の5属(節)の内、アメリカカンアオイ節Hexastylis(米国東岸の種)の種をカンアオイ節Heterotropaに含めることが示されています。また、タカサゴサイシン節Geotaeniumが最初の分岐となっています。

アメリカカンアオイ節 Hexastylis を立てなかったのは、米国東岸の種が2つのグループに分かれた(単系統にならない)ためのです。下のHeterotropa節の詳細図参照してください。

この結果から米国産の種を2つの節にすることもできます。しかし、そのようにせずこの図の範囲をカンアオイ節Heterotropaとしています。

 

・ ・ ・

この結果に基づき広義のAsarum属を、2亜属、4節に分類する事を提案しています。

Asarum属

 Asarum亜属
  Geotaenium節タカサゴサイシン節:中国、台湾に3種が知られている。
               すべて2n=12。

  Asarum節フタバアオイ節:多くの種が、日本、中国、欧州、米国西岸、カナダなど
               に分布する。2n=26まれに2n=24。

 Heterotropa亜属
  Asiasarum節ウスバサイシン節:日本、中国、サハリン、朝鮮半島に分布。
               4〜5種が知られている、2n=26。

  Heterotropa節カンアオイ節:日本、中国、北米東岸に分布する。日本では非常に多
                くの種に分化した。日本の種は2n=24、北米東岸の種は
                2n=26、中国の種は未調査。         

* アメリカ大陸に分布するAsarum属(広義)の種は、系統的に見るとAsarum節に1つ、Heterotropa節に2つ合計3つのグループ(分岐)をつくる。その原因としてAsarum属(広義)は中国大陸である程度分化した後、アメリカ大陸に分布を拡大したためではないかとしている。

系統解析に使われた種・32種
. 属名  節・種 名  和 名  産 地
. . Asarum節 . .
1 Asarum canadense カナダサイシン  カナダ、北米東岸
2 A. europaeum オウシュウサイシン  欧州 
3 A. lemmonii −  北米西岸
4 A. marmoratum 北米西岸
5 A. caudatum セイガンサイシン  北米西岸
6 A. caudigerum オナガサイシン  中国、台湾、日本
7 A. hartwegii −  北米西岸
8 A. caulescens フタバアオイ  中国、日本
9 A. pulchellum 長毛サイシン  中国
10 A. caudigerellum   −  中国
11 A. debile      −  中国
12 A. himalaicum   −  中国、印度
. . Geotaenium節 . .
13 A. epigynum タカサゴサイシン  台湾
. . Asiasarum節 . .
14 A. sieboldii     ウスバサイシン  中国、朝鮮、日本
. . Heterotropa節 . .
15 A. blumei ランヨウアオイ 日本
16 A. forbesii 中国
17 A. fudsinoi フジノカンアオイ 日本
18 A. gelasinum エクボカンアオイ 日本
19 A. hatsushimae ハツシマカンアオイ 日本
20 A. savatieri オトメカンアオイ 日本
21 A. takaoi ヒメカンアオイ 日本
22 A. yakusimense ヤクシマカンアオイ 日本
23 A. asaroides タイリンアオイ 日本
24 A. satsumense サツマカンアオイ 日本
25 A. asperum ミヤコアオイ 日本
26 A. crassum ナンゴクアオイ 日本
27 A. minamitanianum オナガカンアオイ 日本
. . Hexastylis節 . .
28 A. arifolium 北米東岸
29 A. shuttleworthii 北米東岸
30 A. speciosum スペシオスム 北米東岸
31 A. virginicum 北米東岸
32 A. minor 北米東岸

* 節は従来の区分。和名、産地は川島の判断。

・ ・ ・

5−d、他の2つの研究における節(群)の系統関係

1.笹本彰彦2004年一般講演(日本植物分類学会)の要旨

要旨は要旨集にあるが、図を含め1人1ページなのでほんとの要点のみです。論文としても公表されていません。要旨によれば「約70種を対象に・・・ITS領域を用いた分子系統学的解析を行った。」となっています。これだけ多くの種を同一の基準で分子系統学的解析をした例を知りません。論文が公表されていないのはたいへん残念です。

下図は要旨に添えられた図から群の系統関係を抜き出したもの。図中で”群”は”節”の上位のカテゴリーとして用いられています。

群を節と読み替えれば、従来の5節に分ける考え方が分子系統的に成り立つことを示しています。

ただし、この研究は日本産の種の系統解析が目的なのでケリー98論文におけるアメリカカンアオイの位置づけを否定するものではありません。分析したアメリカカンアオイの種数が少ないとこうなることもあります。フタバアオイ亜属の区切りはこの系統樹から見て不自然だとおもいますが、なぜこのようにしたのかは不明です。

2.菅原敬他2005年の論文

この研究は、主にフタバアオイ節に属する種の系統分析が目的です。
ウスバサイシン節1種、タカサゴサイシン節2種、フタバアオイ節14種、計17種をITS1,2を用いて系統分析しています。カンアオイ節の種は、この研究に含まれていません。
結果はウスバサイシン節、タカサゴサイシン節、フタバアオイ節の3節がそれぞれ単系統で成立しています。

他の研究を参考にカンアオイ節を加えてみました(川島)。分岐点で回転させても表示内容は変わらないので、他の図と比べやすい位置に回転しました。

菅原2005論文で分析された種・17種
節・属 種名 和名 染色体数 産地
Sect. Asiasarum . . . .
 Asarum sieboldii ウスバサイシン 2n = 26 中国、朝鮮、日本
Sect. Geotaenium . . . .
 A. yunnanense ユンナネンセ 2n = 12 中国
 A. epigynum タカサゴサイシン 2n = 12 台湾
Sect. Asarum . . . .
 A. cordifolium - 2n = 24 ミャンマー
 A. caudigerum オナガサイシン 2n = 24 中国、台湾、日本
 A. cardiophyllum 2n = 24 中国
 A. caulescens フタバアオイ 2n = 26 中国、日本
 A. himalaicum ヒマライクム 中国、印度
 A. caudigerellum 中国
 A. debile 中国
 A. europaeum オウシュウサイシン 2n = 26 欧州
 A. canadense カナダサイシン 2n = 26 カナダ、北米東岸
 A. hartwegii 2n = 26 北米西岸
 A. caudatum セイガンサイシン 2n = 26 北米西岸
 A. lemmonii 2n = 26 北米西岸
 A. marmoratum 北米西岸
 A. pulchellum チョウモウサイシン 2n = 24 中国

* 川島の作成です。

 まとめ

1.タカサゴサイシン節、フタバアオイ節、ウスバサイシン節、カンアオイ節は分子系統解析でも成立する。
2.アメリカカンアオイ節は2つに分かれ単系統ではないとする結果がある。
3.節の系統関係は3つの研究結果で少しずつ異なる。

北米東部の種は9種あり、その内5種を系統分析したケリーの研究結果を重視すれば、アメリカカンアオイ節(群)Hexastylis 節として区別されてきた北米東部産の種はカンアオイ節Heterotropa 節に加えてよいのかもしれません。

遺伝子の解析はカンアオイ属 Asarum属(広義)が少なくとも4つの節(あるいは群)に分ける事を支持しています。しかし分岐の順序は今後の課題です。

* ほとんど同じ様なIST1,2の塩基配列データーの解析から、微妙に異なった結論が出されています。この程度の塩基配列に蓄積されるデーター量は少なく、解析のための前提条件の取り方が結果の差になるようです。

IST1,2だけでは属内部の相互の関係を高い信頼度で追求するのに不十分なようです。ITSの塩基配列から得られる情報は属相互の比較には有効だが、種相互の関係を解析するにはやや不足ともいわれているとか。でも、ここが一番興味のあるところ、どんな結果が出ているのか追っていきます。

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参考にした論文など

* 「Phylogenetic relationships in Asarum(Aristolochiaceae) based on morphology and ITSsequences 」、 Lawrence M. Kelly 1998

* 「ウマノスズグサ科カンアオイ属 (Asarum)の分子系統解析と分類学的考察 」 笹本彰彦他・日本植物分類学会第3回大会2004年・一般講演

* 「ミャンマ−産カンアオイAsarum cordifoliumの形態的特徴 とその系統的位置」 菅原敬,藤井紀行(2005)、本文英文


おまけ:核型分析による類縁性の研究

菅原敬等1992年は中国産の種にはx=13(2n=26)の種とx=12(2n=24)の種があることに着目して、中国産11種の核型分析とすでに研究済みの1種を加え12種の考察をしています。

中国産のx=13(2n=26)の種は、最も小さい染色体3対が次中部動原体型であり内1対に付随体を持つが、この特徴はアメリカカンアオイ節の種と共通といいます。

中国産で2n=26の種はアメリカカンアオイ節Hexastylis 節の種と深い関連があり、中国産で2n=24の種は日本産のHeterotropa節の種と関連が深いと分析しています。

* 核型分析・・・種は特有の一組の染色体を卵細胞・精細胞に持つ。1組の染色体の形、大きさ、数、染色性などを調べ生物の類縁性を解析するのが核型分析。受精によって作られる体細胞は2組の染色体を持つ。核型分析には観察しやすい体細胞を使うことが多い。

** 菅原敬等1992年、「台湾及び中国産カンアオイ属植物11種の核型分析」、英文

分析された種と研究の概要は以下の通りです。なお、Subg. Sect. などの区分は研究当時のものです。

核型分析された種と概要・川島作成
亜属・節・種 和 名 産 地 染色体数2n 備  考
I. Subg. Asarum亜属 . . . .
1. sect.Asarum節 . . . 日本産フタバアオイは2n=26。この節には12,13の2つの基本数がある
  Asarum
   leptophyllum
- 台湾 24 オナガサイシンと同種とする見方有り
  A. caudigerum
  var.caudigerum
オナガサイシン 中国、台湾、日本 24 .
. . . . .
II. Subg. Heterotropa亜属 . . . .
1. sect.Heterotropa節 . . . この節の日本産種はすべて2n=24
a. x = 12 の4種 . . . 核型は日本産の種に近い
  A. hayatanum - 台湾 24 Asarum hypogynum のシノニムとする考え有り
  A. ichangense - 中国 24 .
  A. macranthum - 台湾 24 .
  A. taitonense タイトンカンアオイ 台湾 24 A.macranthumのシノニムとする考え有り
b. x = 13 の5種 . . . 核型は北米東岸の種2n=26に近い
  A. chinense カワキタサイシン 中国 26 .
  A. maximum パンダカンアオイ、オオカンアオイ 中国 26 .
  A. sagittarioides - 中国 26 .
  A. delavayi - 中国 26 研究済みだった種
  A. splendens セイジョウカンアオイ 中国 39 異質3倍体*
. . . . .
2. sect.Longiflora節 . . . .
a. x = 13 の1種 . . . 核型は北米東岸の種2n=26に近い
  A. petelotii - 中国、ベトナム 26 .

*異質3倍体・・・2つの種が交雑してこの種・セイジョウカンアオイができたとする考え。最小の染色体3本の形が異なる(1本がちがう形のようだ)のでこの種は、異質3倍体の可能性が高いとしている。例えば染色体不分離で2倍体の卵ができて、この卵が正常の受精をして子供ができると3倍体になる。同質3倍体という。2倍体の卵に他の種の花粉がかかると異質3倍体の子ができる。

4倍体の種と2倍体の種が交雑しても異質3倍体の子ができる。今のところ4倍体種2n=52の報告を目にしていない。論文ではセイジョウカンアオイの産地をSichuan, Mt. Qingcheng 四川省青城山としているので、この付近で4倍体種が見つかるかもしれない。

− − 続 く − −

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