1.H.ニゲル†
本来”クリスマスローズ”という名称は、この種H.ニゲルのことです。早く低温の時期が来るヨーロッパでは、早咲きのニゲルがクリスマスの頃咲くのでこの名が付いたと云われます。
日本では、早咲きのものは12月に開花しますが、本格的な開花は2月からです。。やや小型で鉢植えでの栽培が基本。暑さに弱いので暖地での夏越は注意が必要です。*
日本での栽培はオリエンタリス ハイブリッドにくらべると多くありません。最近この種の品種改良が進み、多くの系統を見かけるようになりました。
大輪〜巨大輪、咲進むと赤花になるもの、ダブル、セミダブル、7弁平咲き、多くの花が一度に咲くタイプ、花茎がまっすぐに立つものなどを見かけますが、オリエンタリスハイブリッドにくらべると変化の幅はわずかです。
ニゲルの赤花系(サンセット、サンライズ)は普通のニゲル以上に暑さに弱いと云われています。
* 横浜での夏越しは、朝日だけしか当たらない建物の東側の軒下で乾燥気味に管理するのが良いようです。大鉢にせず小型の鉢で管理するのが安全。
† 学名の発音は、指定されていないので国により人により異なることがあります。ニゲル H.nigerについてもノイガーと発音する人がいます。
2.H.オリエンタリス ハイブリッド
H.オリエンタリスはクリスマスローズではなく、”レンテンローズ”と呼ぶのが正しいとされています。名の由来は、キリスト教の暦のレントの期間頃に咲くからです。しかし日本ではこの名をほとんど使いません。
「クリスマスローズ」の名で売られているものは、大部分H.オリエンタリス・ハイブリッドです。この植物は、オリエンタリス種など無茎種の数多くの原種を交雑して作り出した園芸種です。
品種改良が盛んに行われていて、毎年たくさんの新品種が発表されています。花色も青を除きそろってきました、シングル、ダブル、セミダブルなど花型も変化に富み、年々華やかな花に変身していくように感じます。
早咲きのものでも2月の開花となります。花屋さんでは12月に開花株が並ぶようになりましたが、これは特殊な栽培で咲かせたもので自然の開花ではありません。
育ててみると、早咲きの株と遅咲きの株があります。早咲きはとても魅力的な性質ですが、お店で見分ける方法がなく残念です。
H.オリエンタリス・ハイブリッドは、交雑により多くの原種から様々な性質が導入され、花色や花形も豊富になり、その上丈夫で庭植えでも充分育てられ、人気のある冬の花になりました。
ただし株が大きくなると、突然根腐れを起こし枯れることがあります。大事な株は、数年に1度は、掘り上げ株分けをした方がよいようです。
地植のものを掘り上げるのは、大変な労力なので、弱った株は新品種に入れ替えていくのも一つの方法です。
種子も良く付き、こぼれ種からも良く発芽します。ただし、親と同じ花を期待することは出来ません。3年で開花すると云われています。
H.オリエンタリスとその近縁種はヨーロッパに広く分布し、細かく分類されていますが、自然交雑も見られ種を統合する意見も出されているそうです。
* 「H.オリエンタリス ハイブリッド」という名称は好ましくないという考えもあるようです。多くの原種との交雑が進みH.オリエンタリスだけを特別視するのはおかしいということのようです。
ここでは、無茎種全体を「オリエンタリス系統の種群」ととらえ、無茎種間の交雑品種群を「H.オリエンタリス ハイブリッド」と呼ぶことにします。
最近「ガーデンハイブリッド」「ハイブリダス」などの呼び名も使われています。しかしこれでは何をさすのか意味不明です。園芸植物はほとんど全て該当してしまいます。
クリスマスローズのカタログでは使えても花屋さんの店先では使いにくい名前です。
「ヘレボラス ガーデンハイブリッド」「ヘレボラス ハイブリダス」とするところなのでしょうが、これでは有茎種の雑種を除きに難くなってしまいます。
しかし、種子繁殖のため形質が固定しにくく、くらべてみると1株ごとに花が少しずつちがっています。 最近は育種家やナーセリーに優れた親株がそろってきたので、実生でもばらつきがだいぶ少なくなってきました。
そのため品種名やシリーズ名をつけて販売されるものが出てきましたが、実生であり株による差があります。花を見て買う時は問題ありませんが苗を買う時は注意が必要です。
クリスマスローズは群植するのではなく、1株ずつ花を観賞することが多いので、根気よく花屋さんを見て歩き、気に入った花を見つけて楽しむのがよいように思います。
最近、メリクロンで品種名付きの苗や開花株がずいぶん増えてきました。メリクロンは優れた親株の成長点を切り出し、組織培養によって増殖した苗です。品種名が同じなら、どの株も同じ花を咲かせます。品種名を確認して、苗で購入しても、カタログ通りの花が咲くはずです。**
品種改良の盛んな、ヨーロッパから種子を輸入したり、国内でも優れた親株を使い品種改良に取り組むところもあり、魅力的な新しい花が毎年でてきています。***
優れた親株を使い「色別種子や色別苗」、「八重の出現率を表示した苗」等の販売も見られます。しかし、苗を何10株も育て良いものを選ぶのでなければ、花を見て買う方が安全です。
下の写真はクリスマスローズで初めて、品種登録出願された花だそうです。品種名は”クリスマス・ワイン”、赤のダブル咲きです。池袋サンシャインに2株展示されていました。もし、メリクロンとして販売されるなら誰が栽培してもこの花が見られるはずです。
若泉ヘレボラスファームホームページによると、育種目標の世界的な傾向は次の4つだそうです。
T、澄んだ花色
U、丸弁
V、カップ咲き
W、アップライト・・・上向き咲き?
この4つにプラス、八重化(ダブル花化)、大輪化の2つを加えると現代の花の品種改良の定番です。どんな花が出てくるか楽しみでもあり、行き着いた先がラナンキュラスやアネモネのようなクリスマスローズだったら恐ろしい。
もう1つ、長期的な育種目標には、青花クリスマスローズの作出があると思います。どう思いますか?
* 八重咲き・ダブル咲きは、ガク片の枚数が多く何重にも作られる変異。ガク片なので咲進んでも散ることはない。
セミダブル咲きは、通常縮小して「蜜腺」になっている花弁が再び花弁状に発達した変異。発達の程度は株によって大きく花びら状になるもの、筒状の小さな花びらになるものなど変化があっておもしろい。
花弁は咲進むとおしべと共に散ってシングルの花になる。将来、散らないセミダブルへの改良が進む可能性は充分にある。
** メリクロンの例 (株)ミヨシオリジナルから「ウインタードリーム」のブランド名で販売されている品種群。ルーセピンク、ルーセホワイト、ルーセローズの3品種に続いてどこまで増えるか楽しみです。
メリクロンのものは、ラベルなどにメリクロンと書いてある苗もあります。(株)ミヨシのラベルにはメリクロンの記載は無いようです。
複数の会社でメリクロンが作られています。同名異種や類似名品種があるかも知れません。”ブラック”という品種は、最も黒い花と云われるパンジーの黒に負けない黒で、小輪ですが丸弁で見応えがありました。どこのメリクロンでしょう。
*** 高杉種苗、若泉ヘレボラスファームなど
2,H.ニゲル ハイブリッドの品種改良
ニゲルと有茎種との種間雑種など、ニゲルを一方の親とした種間雑種の作成が盛んに行われ、新品種として売り出されています。
オリエンタリス ハイブリッドとは明らかに異なる品種群が成立しそうです。「ニゲル ハイブリッド」は私の勝手な呼び方ですがそのように呼ばれる時が来るかもしれません。
ニゲルタイプで暑さに強い品種や、有茎種タイプで耐寒性があるコンパクトな地植可能な品種の作出がヨーロッパでは期待されていること。また、花の色の幅を広げることも期待されているようです。
日本でも暑さに強いニゲルタイプの品種は、歓迎されるかもしれません。有茎種との雑種は有茎種似で鉢植えでは何か落ち着かない感じでした。
しかし、オリエンタリス系との雑種はオリエンタリス似で白い大きな花が釣り下がります。また、ヴェシカリウスとの雑種は写真でニゲル似に見えます。花は白に刷毛で掃いたような紅が入っています。どちらもニゲルの交雑種としては、新しいタイプに見えます。
ニゲル ハイブリッドの品種改良は、オリエンタリス ハイブリッドに比べるとごく最近始まったばかりなので、交雑一代目ばかりです。今後、雑種後代からどんな品種が発表されるか大いに注目したいところです。
すでに、ニゲルクロスから選抜品種バレンタイングリーンがでていますが、エリックスミシスでも優れた花の株や矮性株のメリクロンが販売されています。また複二倍体ではないかと思われるような大型のエリックスミス:ミーシャピンクビューティーやニゲルコルス:ミーシャホワイトビューティーが販売されています。選別が始まっているようです。
私が見た範囲では、ニゲルとの交雑品種に共通した特徴の一つは苞(ほう)が小さな楕円形になることです。オリエンタリス ハイブリッド系では苞(ほう)が大きくじゃまに感じる時さえあります。この特徴は花をすっきりと見せるたいへん魅力的な性質です。
販売されている種間雑種
1.ニゲル×リヴィダス(有茎)・・・品種名バラーディア
2.ニゲル×ステルニー*(有茎雑種)・・・品種名エリックスミス
選抜品種にメリクロンと矮性がある
選抜品種ミーシャピンクビューティー
* リヴィダス(有茎)×アーグティフォリウス(有茎)
・・・品種名ステルニー
3.ニゲル×アーグティフォリウス(有茎)・・・品種名ニゲルクロス
選抜品種バレンタイングリーン
選抜品種ミーシャホワイトビューティー
4.ニゲル×チベタヌス(無茎)・・・品種名ピンクアイス
花は薄いピンク色でチベタヌスのような赤い筋は入らないようです。オリエンタリス ハイブリッドには、まだチベタヌスの血が入った品種は無いようなので興味ある交雑です。
5.ニゲル×ヴェシカリウス(その他)・・・品種名ブライヤーローズ花は白いガク片の左右に、きれいな赤い色が刷毛で掃いたように入り、人気が出るかもしれません。
6.ニゲル×オリエンタリス系(無茎)・・・品種名スノーホワイト
株はオリエンタリスタイプ。1花茎に数個の花が吊り下げられたように咲く。咲き始めは白、時間がたつうちにピンクに染まってきます。ガク片に斑点はない。メリクロンのものが販売されている。
3,H.ニゲルの品種改良
雑種ではありませんが、ニゲルにも八重咲き(ダブル、セミダブル)が発見され、苗の販売が行われています。また、サンライズ、サンセットなど赤花系のニゲルが発見され、一部で販売も始まったようですが鑑賞に堪えるようなものは国内ではまだ少ないように思います。
ニゲルも実生ですが品種名付きのものが販売されるようになってきました。ジョセフ レンパー、ジョーセレクト、ジョーハイブリッドなどの品種。また八重のメリクロンとしてダブル
ファンタジーが(株)ミヨシから出ています。
現在のオリエンタリス ハイブリッドの成立過程は、多くの原種との交雑の歴史です。これは、おもに各原種が持つ独特の花の色をオリエンタリス ハイブリッドに導入するために行われてきました。
また、トルコータスで発見されたダブルの遺伝子を導入して、パーティードレス系の八重品種が作られたことはよく知られています。
オリエンタリス ハイブリッドの成立に関わったのはすべて無茎種で次の10種およびその変種だと云われています。
1.オリエンタリス
2.アトロルーベンス
3.クロアチクス
4.シクロフィルス
5.デュメトラム
6.ムルチフィダス
7.プルプラスセンス
8.オドルス
9.トルコータス
10.ヴィリディス
ニゲル、チベタヌス、ヴェシカリウス、および有茎の3種が加わっていないのが特徴です。
ニゲルとオリエンタリスハイブリッド(スノーホワイト)、ニゲルとチベタヌス(ピンクアイス)、ニゲルとヴェシカリウス(ブライヤーローズ)の交配が成功したので、これらの雑種が今後、オリエンタリスハイブリッドの品種改良にどのように関わってくるのか興味深いことです。
ニゲル種間雑種の主な目的は、ニゲルの栽培しにくさを改良し、庭植や大鉢植をしやすくすることだと思います。ニゲル×オリエンタリス系交雑もオリエンタリス系の栽培しやすさとあわせて、豊富な花の色をニゲルに導入することが目的なのかも知れません。