ラベルの品種名は正しいか?

マイクロサテライトの分析

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  アジサイ科とアジサイ属日本産の主な野生種アジサイ分類の新しい試み

●マイクロサテライトの分析による
  〜〜品種の検定〜〜

品種名の確認のために、遺伝子DNAに含まれるマイクロサテライトと呼ばれる特殊な領域を分析しすることが行われています。この技術を使って多くの動物・植物で品種の検定が試みられ、一部は実用的な方法として行われています。

DNAの塩基配列を解析することにより、科・属・種の系統関係を明らかにする研究は大きな成果を上げてきました。しかし、さらに下位の種・亜種・変種・品種の関係を、解き明かすには無理がありました。

同じDNAでもマイクロサテライトの部分を分析すれば、品種のちがいを明らかに出来ることがわかりました。身近なアジサイ品種のマイクロサテライトの分析を見てみたいと思います。。


     「クレナイ」左と「乙姫」右。差があるのかないのか論争が絶えない。

しかし、私は素人なので原著論文を読む機会もなく、ネット上にもアジサイ類のマイクロサテライトに関する研究はあまり見かけません。あっても簡単な英文の要約だけです。特に日本の研究はほとんど無く寂しい限りです。

アジサイ類のマイクロサテライトは主にアメリカで研究されていて、日本では本格的な研究をしている人はいないようです。

イネやトウモロコシ、イチゴといった植物のマイクロサテライトは日本でも研究されているのに、日本原産の植物であるアジサイ類のマイクロサテライトが研究されないのは残念なことです。

内容は2009年1月現在のものです。

マイクロサテライトの説明は後にして、アメリカの研究*を1つを紹介しましょう。日本も似たような状態では?


     「プレジオサ」左と「ベニガク」右

1.ラベルの品種名は正しいか?

この研究は、3つの業者から購入した株の分析をしています。正しい品種名で売られていたでしょうか?ラベルの名前が異なれば別品種のはずですが・・・はたして?

下の図を見て下さい。


図1 SSR分析による購入株の系統関係*

 図の品種名の前の垂直線は、分析結果の完全一致を示します。つまり別の業者から購入した株が遺伝的に同一であることを示します。

品種名が同じで遺伝的にも同じだった苗は ’Oregon Pride’ ’Blaumeise’ ’Nikko Blue**’ ’Endless Summer’ ’Veitchii’ ’Preziosa’ ’Pink Beauty’ の7つでした。これらはそれぞれ同一品と考えられます。

現在アジサイでは、品種ごとのデーターが登録されていないので、この結果から品種名が正しいとは言えませんが。。

’Preziosa プレジオサ’ と ’Pink Beauty’は別品種として売られているそうですが遺伝的には同一でした。品種名を統一する必要があるのでしょう。

このことは大変重要な意味を持ちます。SSRの分析結果(遺伝的フィンガープリント)を品種登録の時に、同時に登録しておけば品種の混乱が防げるばかりでなく、品種に対する権利の主張もしやすくなります。

アジサイは栽培条件の差で、花の色や葉の形が大きく変わりますが、SSRの分析結果(遺伝的フィンガープリント)は変わりません。また小さな苗でも分析でき、変わることはありません。

ピンクに咲かせて「城ヶ崎」、ブルーに咲かせて「城ヶ崎の雨」という品種がありますが、この場合もSSRの分析結果(遺伝的フィンガープリント)は同一になります。

品種名をわざと替える業者がいる!

’Libelle’ と ’Libelle White’ もSSRの分析結果(遺伝的フィンガープリント)は同一です。この論文の研究者は花の白さを強調するために業者が ’White 白’ を品種名に加えたと考えています。悪気はなくても混乱の元になりそうです。

’Charm’ と’Glory Blue’も遺伝的には同一ですが事情はやや複雑なようです。 この論文は、’Glory Blue’の品種名をやめるよう主張する人がいることを紹介しています。

日本でも「藍姫」と「七変化」、「マイコ」と「サクマテマリ」、「クレナイ」と「乙姫」などいくつかの品種で、同一品ではないかという話が出ては消え、出ては消えしています。

日本でもSSRの分析が出来れば解決は早まるし、消費者は安心して買えることになるのですが。


     「城ヶ崎の雨」左と「城ヶ崎」右、実は同じ品種の咲かせ方の差

ベニガクのこと

 

’Beni Gaku 1’ と ’Beni Gaku 2’はラベルの品種名が同じで、SSRの分析結果(遺伝的フィンガープリント)が異なるという結果が出ています。この研究者は初めての経験だといっています。遺伝的に異なるものが同一品として売られている例です。

’serrata’***はヤマアジサイの学名の種小名です。日本ならヤマアジサイとラベルに書くところでしょう。1と2のどちらが正しいベニガクか、この研究だけではわかりません。過去に登録されていればわかったのですが。

面白いことに、 ’Beni Gaku 2’ と ’serrata’は同じ業者から購入した株です。この研究者は最も簡単な原因はラベルの挿しまちがえを挙げています。圃場では’Beni Gaku 1’ と ’serrata’は同じように見えるとも記しています。

私には 2系統以上の’Beni Gaku ’がアメリカにあるような気がします。証拠はありませんが、日本でもベニガクにはタイプの異なるものがあると聞きます。また実生が育ちやすいことも原因かもしれません。

「ベニガク」という品種はヤマアジサイの品種で、江戸時代から知られています。装飾花のガク片は先が尖り、縁に粗い鋸歯があり、咲き始めは白で後に赤く色づく性質があり、条件がよいと夏の終わりに真紅になる。栽培しやすく永く栽培され続けてきた品種です。

図には示されていない’Penny Mac’という品種でも購入株によって、SSRの分析結果(遺伝的フィンガープリント)が異なっていたそうです。幸いこの品種は最初の木(原木)が保存されていたので、枝を入手してSSRの分析をして、比較する予定だと書かれています。

エンドレスサマー

 

エンドレスサマーは新しい品種ですが日本でも人気急上昇と聞きます。名前のように初夏から秋遅くまで次々に蕾を出し咲き続けるといいます。

エンドレスサマーとニッコウブルー(ヒメアジサイ)は、良く似ているので分析した、とこの論文に記されています。分析の結果は2つの品種は同じものではないが、近い関係にあることが示されました。

ヒメアジサイには、四季咲きヒメアジサイという品種があります。ヒメアジサイは、エゾアジサイに近いというデーターもどこかで見た気がします。エゾアジサイは、根元から伸びたその年の枝に花をつける性質があります。そんな遺伝子が、エンドレスサマー作出にかかわっているのかもしれません。


     「ヒメアジサイ」左と「四季咲きヒメアジサイ」右


     「エゾアジサイ」の新梢開花、黒姫高原2008.9.28.撮影

・・

* 「Using DNA Fingerprinting to Identify Mislabeled Plants in the Trade: An Example from Hydrangea」Timothy A. Rinehart and Sandra M. Reedにある図を川島改変

** ’Nikko Blue’ヒメアジサイと同一であると山本武臣はいっています。

*** ヤマアジサイの学名は Hydrangea serrata です。


   

       

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