9.日本産代表種・品種写真
●『SSRマーカー分析によるアジサイ品種の分子系統』概要…ページ1
「アジサイの品種間の系統関係」をDNAの分析で調べた論文がありました。
概要を紹介します(2010.9.)。
*元論文『Simple Sequence Repeat Marker Analysis of Genetic Relationships
within Hydrangea macrophylla』
SSRマーカー分析によるアジサイ品種の分子系統
Sandra M. Reed、Timothy A. Rinehart、2007年
品種間のような近い関係はDNAの塩基配列を分析しても差が小さく明らかにしにくいものです。この論文ではゲノムDNAのなかに多数散在するSSR(単純反復配列)を39ヶ所選び出し品種間の違いを調べています。さらに、品種間の差に基づいて系統樹が描かれています。系統樹の信頼度を示すブースストラップ値は上位の枝ではあまり高くなく信頼度を上げるには、さらに多くのSSRを分析する必要があるようです。
分析された品種は114品種で、材料収集時点ではガクアジサイ系品種87、ヤマアジサイ系品種20、ガク×ヤマ系雑種品種7となっています。半テマリ咲という区分は欧米にはなく額ブチ咲とされています。
研究はアメリカで行われたのでアメリカで流通している品種が分析に使われています。日本、ヨーロッパと品種名が一致しないものもあるようです。アメリカでも品種名の乱れがあり正確な品種名の確定は難しいことが論文の中でも述べられています。
*知らない品種が多く分析結果を充分つかめない部分もあります、川島流に解釈しました(文責は川島)。
**系統樹の枝長(左右の長さ)は元の論文では品種間の遺伝的距離を示していますが、川島の図では枝長は任意に書いてあり、枝長に意味はありません。
***SSR(単純反復配列)=マイクロサテライト
間違え、勘違いも多いと思います、原著論文をぜひ見て下さい。
≪結果の概要紹介の項目立て≫
1.全体 2.ヤマアジサイ系品種群…p1
3.テマリ咲1・ヒメアジサイ系品種群…p2
4.テマリ咲2+テラ系(額ブチ咲)品種群+黒軸アジサイなど…p2
5.ガクアジサイ基本品種群…p3
6.白テマリ咲品種群+ガク×ヤマ雑種品種群…p3
7.日本産古品種の系統樹(抜粋)…附録…p4
8.材料表…エクセルの表 9.日本産代表種・品種写真
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≪結果の概要紹介≫
1.全体
私(川島)の気が付いたことや論文紹介の方法などを示します。
分析された品種は下図の5群に大別しました(下図は川島作成、論文に品種群名ありません)。この研究で分析された品種の構成はアメリカで流通しているものでありアジサイ品種全体を代表しているわけではありません。例えば、伊豆諸島産と思われる品種は取り上げられていません。したがってアジサイ品種全体が5群に分かれる保証もテマリ咲品種が集まる保証もありません。
この品種群名はこの論文紹介の中だけで使う便宜的なものです。
ここでは、1品種群ずつ紹介し系統樹もそれに合わせて分割しました。

ヒメアジサイ系(30品種)はガクアジサイ系の内に含まれてしまいました。
エゾアジサイ系品種はこの研究では分析されていませんが、別の研究でエゾアジサイはヤマアジサイよりガクアジサイに近縁という結果が出ています。ヒメアジサイがエゾアジサイと近縁としても今回の論文の結果と矛盾しないと思います。
テマリ咲2の品種はヒメアジサイ系とガクアジサイ系の交雑の後代とも考えられます。
テラTeller・シリーズ品種は、1952〜1987年にスイスで作出され、一重額ブチ咲き、濃色、装飾花大輪、弁厚く3倍体品種も多い、という特徴があります。11品種分析され、3倍体8品種、2倍体3品種となっています。詳しい育種経過は明らかでなく、部分的に次の2品種が交配親として使われたことが知られています。
Enziandom、エンジアンダム、テマリ咲、3倍体。=テマリ咲1・ヒメアジサイ系品種群
Todi、テマリ咲。=テマリ咲2+テラ系額ブチ咲品種群
欧米ではテマリ咲で花色が濃い品種が好まれてきたので、ヒメアジサイ系品種が交配親として多く使われたようです。また大輪で花持ちの良い花が好まれ、自然発生した3倍体個体の選抜も進んだように思います。日本でもデータはありませんが、今では同様な傾向があると思います。なぜか、4倍体品種という情報はありません。
テマリ咲は額ブチ咲きの中にも散見されます。額ブチ咲からテマリ咲への突然変異は何回も起きたことを示しています。しかし多くのテマリ咲品種が2つの品種群(テマリ咲1・ヒメアジサイ系品種群、テマリ咲2+テラ系(額ブチ咲)品種群)に集まっています。
おそらく欧米では日本などから導入した少数のテマリ咲品種を元に、繰り返し交配を重ねて多くの品種を生み出したために遺伝的なばらつきが少ないのでしょう。この研究でもテマリ咲品種群の中にオタクサ、日光ブルー、ロゼアなどの日本から導入された品種が含まれています。
ガクアジサイ基本品種群にはあまり人の手が加わっていない品種が集まっています。特徴は額ブチ咲、テマリ咲、八重咲、斑入り葉と様々ですが古くから知られている品種や近年になって野性の集団から選抜された品種などです。
白テマリ咲品種群+ガク×ヤマ雑種品種群。
この2つの品種群はガクアジサイとヤマアジサイの間に位置づけられた小さな品種群です。それぞれ、白テマリ咲の3品種、プレジオサなど5品種が含まれます。
ヤマアジサイ系品種群の品種間の遺伝的差(遺伝的距離)はガクアジサイ系の品種間よりはるかに大きいという結果が出ています(このサイトでは省略)。
ヤマアジサイが変異性に富むこと、ヤマアジサイ系品種が広い分布域から選抜されていることなどが原因と思われます。育種材料としての高い可能性を秘めていると言えます。ヤマアジサイは小型、暑さや乾燥に弱いなど不利な性質もありますが、日本、欧米とも近年多くの交配が試みられているようです。
この論文でヤマアジサイはガクアジサイの亜種と位置づけています。
遺伝的な差と共に花粉稔性の高さがあげられるられています。一般に種間雑種は減数分裂が異常になり、正常な花粉の割合が低くなります。しかし、ガクサジサイとヤマアジサイの雑種と考えられるTokyo
DelghtとPreziosaは高い花粉稔性を持っています。
2.ヤマアジサイ系品種群
ヤマアジサイ系品種群には22品種が含まれた。
ヤマアジサイは東日本型、西日本型、韓国型を含め、1つのグループにまとまるが、内部は3つの下位グループになった。産地別にはならない。しかし、下位グループの信頼度(ブースストラップ値)は低いので今後の研究で変わる可能性がある。近縁とされる関係で信頼度(ブースストラップ値)が比較的高いのは次の4ヶ所だけである。ブースストラップ値と共に示す。
Blue BillowとWoodlanderの74、Iyo Shibori 伊予絞りとKomachiの55、Benigaku
紅額とRosalba ロサルバの100、OamachaオオアマチャとThobyの59。
第1グループ・・・韓国、西日本産からなる。
第2グループ・・・東日本、西日本産からなる。
第3グループ・・・山野からの選抜品種でなく、栽培・作出品種からなる。
「ヤマアジサイ系品種群の品種間の遺伝的差(遺伝的距離)はガクアジサイ系の品種間よりはるかに大きい…」と少し前に書いた。この研究で取り上げられている、ヤマアジサイの品種間の遺伝的距離の多くはガクアジサイ系の品種群間の遺伝的距離より大きいか、同等くらいの大きさがある。ヤマアジサイはきわめて変異に富んだ種のようだ。
韓国産3品種は第1グループに属するが日本産品種との遺伝的距離は非常に大きく離れている。
・材料表でヤマ×ガク雑種品種とされる7品種の内、下記3品種はヤマアジサイ品種群に含まれた。
Blue Billowは韓国野性種子から育成したとされる。
Coerulea は来歴不明品種、西日本産?
Mirandaミランダはヤマアジサイの交配種か?
・材料表でヤマアジサイ品種とされる下記1品種はヤマアジサイ品種群に含まれなかった。ヤマ×ガク雑種品種に位置づけられた。
Blue Deckle イギリスで作出。
Benigaku 紅額とRosalba ロサルバの差は1遺伝子であり差も非常に小さく、論文では同一品種と結論付けている。差は古い品種なので突然変異も考えられるとする。
●ちょっと一言
紅額は大変実生の出来やすい品種で国内でも紛らわしい品種が多数流通しているといわれる。Benigaku 紅額とRosalba
ロサルバの関係もさらに分析する遺伝子数をふやし検証する必要があるように思う。
ヤマアジサイ品種の分析数は、ヤマアジサイの分布域の広さや変異の幅の広さから見てまだ充分ではない。また、この論文で分析されたSSRだけでは充分に分析しきれていない可能性がある。産地が遠く離れた品種が同じグループに属するなど不自然さが目立つ。
清澄サワアジサイはヤマアジサイ東日本型に属するが、白花紅覆輪、新芽が銅葉(紫褐色)、植物体は節間が長く背が高いなど特異な性質を持つ大変興味深い品種である。
しかし、この論文の分析結果はキヨスミサワアジサイがアマギアマチャなど他の品種と大きくかけ離れることなく、共にヤマアジサイグループに属することを示している。
房総半島清澄山の群落には、この形質を持つ個体がよく見られたというが、現在は採集により絶えたといわれる。
房総半島東海岸は野生のガクアジサイも分布することから、清澄ヤマアジサイはその影響を受けているとする見方もあるがこの論文の分析では、このこの考え方はほぼ否定される。
