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チーズバーガー!
数ヶ月におなじみのハンバーガー、チーズバーガー半額セール。変なものに心待ちをしていた伊達翔太、高校生。味覚も懐具合も「並盛り高校生」である。テイクアウトで紙袋にチーズバーガー二つをぶら下げたまに行くゲームセンターに入ってみる。ココも最近ゲームが半額だったりする。地下にあるゲーセンはゲームの品揃えはいいのだがいまいち店の内装がぱっとしない。
というか通り越してヤバイ。水道管なのか下水管なのかなんかの配管はむき出し。壁はコンクリート打ちっぱなし。店内の照明は暗い。静電気防止のためにジョウロで水撒きされているので何時も湿っぽい。よく心根の悪い輩の巣窟にならないのかが不思議でならない。ついでに繁盛の度合いは微妙である。飲食禁止と張り紙をしているので紙袋を筺体の端に置いてコインを投入。ゲームを始めた。
ゲームに心の八割が持っていかれそうになったとき、真後ろに気配を感じる。このゲームは個人台でてっきり順番待ちなのかと思って振り返ると、リュックを肩にかけた平賀真也が突っ立っていた。
「びっくりするじゃねーか」
「よそ見していると、やられるぞ‥‥ああ、いまのコンボかけるには絶好の」
「ぐちゃぐちゃ外野からいうなよ」
「戦略が甘い。普通カウンター入れる」
「くそぉ」
返事を返すたびに無情にもHPゲージは確実に下がる。で力いっぱいゲーム機からKO宣告を下される。後からため息が聞こえた。
「で、何の様」
「翔太には用事はない」
「だったら背後に立つな、気が散る」
「俺の用事は、このゲームの筺体だ」
新たにコインを投入しようとした翔太が振り返ると、ゲームの筺体のカギ束をジャラジャラいわせた真也がいた。
「どゆこと?」
平賀真也のコネクションは広いのやらなんなのやら。
ここのゲーセンに来るとたまに、メンテの手伝いをしているとのこと。一般人の機械マニアにそのような大事を任せていいのだろうかと翔太の脳内に不安がよぎる。一応倫理的には問題は少ない真也なので、鬼畜マニアの阿呆な所業はしないとはおもうのだけれど。「ここは飲食禁止だ」
「食べてないって」
「筺体の端のチーズバーガーの食いかけは、だったらなんなんだ」
「食ってないって」
置いた場所に手を伸ばす。ん? と疑問系吐息で目をやるとなにかがおかしい。
袋に入れてあるはずのチーズバーガーが外に出て、明らかに食べた形跡がある。
「変わっているな。包み紙ごと食べるのか翔太は」
「お前、頭いいのに観察力の足りないなぁ。どーみても人間じゃないぞこりゃ」
細かい咀嚼跡。背筋に悪寒が走る。
「ねっねっネズ‥‥ふがっ」
真也の手が翔太の口をふさいだ。
「ここは店だ。言ってはいけない単語がある」
真也も翔太が言いたい言葉が分かったらしい。知り合いの店の手前『ぎゃーネズミ』とかって物騒な単語は言うにいえない。
「ちっチーズバーガー。俺のぉぉぉまだ食ってないのに。あと一個まだあるし、まっいっかー」
ぺちんと真也が、まだ無事なチーズバーガーに手を伸ばす翔太の手を叩く。
「なにするんですか、アンタ」
「常識を考えろ。あくまで推測とはいえ『ヤツ』が出入した紙袋に残っている食べ物だぞ『アレ』がどういう副産物を付着させてウロウロしているのか、考えろ。普通は食したりはしない」
「うっぐぅぅぅ」
包み紙の上から突付くとまで15分以内のチーズバーガーは、ぬくぬくのフカフカ。鼻に残る独特の脂の匂いが、きゅーっと翔太の胃の底を震わせる。
「とっととソレをゴミ箱に捨てろ。で筺体からどけ。ここの機体の調子が悪いから見てくれと店長にいわれたんだ」
ずるずると翔太は、丸椅子を引きずり筺体から離れる。真也は疲れた顔をして膝を折りカギを回して蓋をあけた。
ばたーん。
速攻閉じた。
「いっいまの、ワサワサの真っ黒くろクロスケは‥‥」
「何も言うな」
二人して顔面蒼白。ゲームのBGMが寒く聞こえる。
「調子が悪いわけだ‥‥あれじゃ‥‥」
翔太がブツブツいっていると、店長が近づいてきて、どぉ? と聞いてきた。
「メーカー行きです。コントローラーとボタンが絶望的です」
「古いから仕方ないね」
カギ束を預かり去っていく店長の背中に、
「すまん、嘘だ‥‥」と呟く真也。
「もっと頭を使った言い訳考えろよ、ありゃ、やっべぇだろどー考えても」
「あ」
「ん?」
「チーズバーガー、どこやった翔太」
「へ? 筺体の上‥‥」
紙袋の尻の部分がびりびりに破けている。どうやら誘拐されたらしい。
「かっ帰ろう」
「‥‥ああ」
その後。翔太と真也がそのゲーセンに足を向けることはなくなった。
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