即席ライザー小説。 戻る

カバンの中身

 


 翔太はしばらくの間ぼーぜんと自分のバイクとにらめっこをしている。
 自販で飲み物を買っている1分程度の時間停車していたバイクに引っかけていたカバンがなくなっていたのだ。貴重品類(インローダー含む)はポケットに突っ込んであったし、カバンもそろそろ買い替えようと考えていたボロのやつだ。入っていたものといったらアレだ、考えただけでも頭痛がする。いろんな意味でヤバイ。

 


「昨日クラスでね、お弁当盗まれたの」
 ユカがいっていた。
「まあ、大変」
 澪は、盗まれた方はお腹が減ってしまう、と心配している。
「それがちょっと……変わっているの」
「?」
 澪と麗香の頭に謎マークが点灯する。
「たとえば、いつもおかずとご飯を別に持ってくる人っているじゃない」
「お弁当の中身が寄っちゃうの嫌なので、私は別々派です」
 と麗香。ユカは、
「そーいうコからは、おかずのタッパーだけ持っていっちゃう。でオニギリ派の人からオニギリだけ。コンビニで毎日サラダ買ってくるコからはサラダ。ペットボトルのお茶、それに、カットフルーツ。休み時間に食べるお菓子……そんな具合に……一人から全部取らないで微妙に持っていくの」
「素晴らしく豪華なお昼ご飯になりますね……犯罪ですけど」
「ひどいです」
「ホント学食のパンとかが売れ残ってなかったり、お金なかったりすればもう、放課後までずーっと……はぁーあ。お腹ぺこぺこ」
 シオシオとユカは机に頬をつけた。
「もしかして、ユカさんのお弁当が?」
「ううん、友だちがご飯だけ持っていかれて、私のオニギリ半分あげたの。盗んだ人、最悪」
 少ないエネルギーでラクロスで大暴れして今日はたまたま、例の連中の襲来がなかったからいいようなものの、ダイエットと気合が入っているのであればガマンは効くが、突然だ。気持ちと身体の天秤がつりあわない。腹立たしいことが普通のカロリー消費よりも効率よく燃えるらしい。
 今日に限って、いつも食べ物を隠し持っている建さんはいないし、ついでに源さんも配達で出ている。店番は、澪と麗香。冷蔵庫もすぐにお腹を満たしてくれそうなものはなにも入っていない。生のゴーヤーがゴロンと3本野菜室に転がっているだけ。基本的に伊達家では買い置きはあまりしていないようで、ほぼ毎日翔太が買出しにいっている。……源さんの「まー食べてけ」といわれてしまうと、ユカもはい、と返事してしまう。でいつもの夕食の時間となるわけだ。部活とか塾とかで晩ご飯を自宅で食べることがあまりないユカにとってここはもう一つの家みたいなものだ。
 澪はとりあえずと、ココア(牛乳もなかったので、お湯で作ったもの)を差し出した。
「なんか、寂しい気分になってきた」
「ごめんなさい」
「ううん、澪さんが悪いとかじゃないからね」
 店の自動ドアが開いた。
「いらっしゃいませー……翔太君。グッドタイミングです」
 両手にスーパーのビニール袋を下げた翔太は頭に人魂1つ2つ漂わせていた。
「……なに」
「どうかしたの?」
「まじ凹む。ちがう凹んでる。カバン盗まれた」
「えっ、お金は……インローダー平気?」
「その辺は大丈夫なんだけど……気分最悪」
「また、泥棒さんですか。今日はそのお話多いですね」
 見るからにしおれているユカに翔太は、
「また、お前のクラス弁当泥棒出たんだってな」
「そーよ。見つけたらぁ。もぉボォコボコにしてあげるわよ」
「食い物の恨みは恐ろしいなぁ。わかるけど」
 まあ、コレ食って。と翔太はいつも食べている店の焼きそばパンをユカに差し出した。ありがとうと受け取ったけど50%オフのシールが微妙に気になる。ほぼ3口で完食、その様子を見て麗香はぽつっと、
「よっぽどお腹が減っていたのね。かわいそうに」
と呟く。
「やっぱり、毒舌系〜」
 まあまあと翔太は間に割ってはいるが、いつもの元気がない。ショックだったようだ。「なに入っていたの、カバンって」
「いや〜大したもんじゃないんだけど……微妙なものが、みられて困る……」
「と……いいますと、やっぱりアレでしょ『いけない御本』でしょ」
「翔太最悪」
「あら、まぁ」
 翔太は真っ赤になって顔じゅうの皮膚の穴から汗かいた。
「ちがうっ勝手に脚色しないでくれ、麗香さん」
 自動ドアが開いて、愛想良く麗香が挨拶して途中で、いらっしゃい真也さん、になった。
 真也は見覚えのあるカバンを差し出して、
「カバン道に落ちてたぞ」という。
「俺のカバンっ」
 翔太はボロのカバンに抱きついた。
「あ〜。気分がよくなってきた。盗んだヤツなにも入っていないから、捨てたんだなきっと」
 ほっと胸をなでおろす翔太に、真也は一言。
「17点」
 といった。
「なんで知ってんだよ」
「見覚えのあるカバンだと思って中身確認したらテストが出てきた。それで翔太の持ち物だと分かった」
 翔太がアワアワしてカバンを開けた途端にユカの手が伸びてテストを持ち去った。
「わー。すんごい微妙な点数……なにこれ」
 無感情にいわれた。
「……」
 翔太の目では真也は確実に、お前こんな問題できないのかと語っている風にしか見えなかった。口元が笑っているから絶対そう思ったのに違いない。
「赤点っていいませんでしたっけ?」
「わー源さんに早速報告っ♪」
 麗香が小躍りして持ち去っていった。オヤジの目に入る。多少の頭が悪いは認めてもらっているが、今回はハタキで一発程度ではすまない。定規、竹刀、それとも木刀。考えただけでも恐ろしい。ヘタをしたら「真也に勉強見てもらえ」なんて話になったら今後どーすりゃいいんだ、俺。凹み具合にターボがかかってしまった。



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