即席ライザー小説。 戻る

地球のあるきかた

 


 伊達電器はモロモロの意味で深刻な空気に包まれていた。
 元凶となっている人物、神野(正しい名前はライザー星人、ノルンの弟のリゲルってんだけど、誰も呼んだためしがない。あ、澪さんがタンカ切ったときに一回だけ使用)は、臭い、むかつく、なんだそれはという、額の真ん中にでかい縦線作って、一同をじーっと見ていた。顔からは、どうせ邪魔だろ、消えようか? て言葉がもくもく湧いている。
「宇宙人とは知っていたけど、ザリガニ食うのは予想外だぜ」
 とアッケラカンに翔太。……そういう次元じゃないといいたげなユカはヒザでなにも言わず翔太の尻に蹴りを入れていた。
「いやぁぁぁぁ。もういわないでぇ」
 麗香が耳に手を当てて自己逃避している。あの川一面を埋め尽くす真っ赤なザリガニ大行進がよほど効いたのか、間食で食べたサラダサンドのなかのカニかまぼこにまで過剰反応していた。
「あのー。麗香さんは、こう見えても結構ああいう虫さんとか嫌いなんです」
「虫じゃない、甲殻類だ」
「かわんないだろ、ゴソゴソガサガサしてんだもん、ゴキ……」
「いゃゃゃゃゃゃ」
「あのー麗香さん怖がってますので、言葉伏せていてください」
「ふーん。麗香さんの弱点はっけーん」
「ユカちゃん、恨むわよ」
「ふーんだっ、毒舌攻撃のお返しー。食らえ、ザリガニを掴んだ右手ぇでデコピーン♪」「……手洗ってねぇのかよ……ユカ」
「冗談にきまってんじゃない、バカ翔太っ」
 硬い音がした。たぶんユカのヒザはピンポイントで、翔太の尾てい骨を狙ったらしい。
「いて、なにすんだよこの、すっとことっこい」
「なんですってーーー」
「やめねぇか、二人とも。神野がこまってるじゃねーか」
 困っている? と澪と源さん以外の人間が首をひねった。さっきから神野は、もう帰るオーラ全開にしていた。……帰る場所はたぶんない。
「で、お前どうする?」
「……」
 返事がない。いかんせつい先日まで平気で攻撃するは、陰険なことするはで伊達電器の面々を困らせていた人物だ。神野も自覚がある。ライザー星の勇者うんぬんよりも、さっきまでやっていた悪事のほうがはるかに神野の気持ちのなかでは重かった。居ずらいのだ正直。神野の居場所の無さは話を聞く限り筋金入りだった。ただ本人の語る言葉は結果だけだが。あくまで、地球人側の勝手な想像。

 姉(ノルン)との立場と役目が異なり滅多に遭えない。戦士が元々ライザー星には少なかった。ついでに姉は超多忙。
 洗脳されてハデス軍に。出生不明、正体不明なため、タダでさえまとまりに欠けるハデス軍でも居場所が無い。師匠であるダンはウザーは滅多に面会してくれなかった。
 地球におりた。知り合いなんているはずがない。
 ハデス軍崩壊。その後ガルダ帝国軍からスカウトされるが、ライザー星人と分かり一変して追われる立場。
 記憶が戻る。ライザー星人どうやら滅亡。本当に一人になった。
 
「まあ、ここにいろ」
 源さんはどーんっと神野の背中を手のひらでひっぱたいた。伝説の勇者が一歩分吹っ飛んだ。
「えーーーーーー」
二人のぞいて全員が合唱。
 どこに寝泊りさせるんだよの翔太、ホントなの? のユカと麗香、嫌な意味で叫んだ真也。
「これから仲良くしましょうね、神野さん」
「澪……」
「澪言うなっ」
 麗香と真也が怒鳴る。二人の言葉は意味合いが全く異なる。
 ユカは、翔太の襟首掴んで部屋のすみまで持っていった。
「ねぇ、ちっょと大丈夫なの」
「んなの、オヤジが決めたんだから仕方ないじゃん。放っておけないしさ」
「じゃあ、聞くけど。アンタが学校行っている間、どうするの」
「オヤジかケンさんか、麗香さんか、澪さんが面倒みんじゃねーの」
「なんでアンタそう、脳みそ空っぽなの」
「はぁ?」
「よく考えなさいよ。ケンさん最近彼女できたでしょ」
「うん、やられたーって感じ」
「源さん配達に行っちゃうでしょ」
「仕事だしなぁ」
「あと誰が残るって思ってんのよ」
「麗香さんと澪さん」
「……黙っていると思う?」
 ユカがアゴで指し示したのは、他ならぬというか、そいつしかいない、平賀真也。
「げー、考えただけで地獄絵図」
「翔太にしては珍しく難しい言葉しってるじゃない」
「バカにするな」
 ことはある意味深刻だ。完全に澪に気が行っている真也、たぶん両思いだろうと思われるが本人がポヤンとしていて相手を半分生殺し状態にしている澪。最近やたらと神野神野と連呼する麗香。いろんな意味でやばい神野。
「いつからこの電器屋さんは昼メロ劇場になったのよ」
「どのアタリが昼メロなんだよ」
「翔太ばーか」
「バカとはなんだバカとはっ」
「バカにバカっていっちゃ悪い?」
「仲いいですね、ユカちゃん翔太くん」
「「いくない!!!」」
 コーンと源さんは一発翔太のアタマにゲンコツいれた。
「このバカ息子。人が困っていたら助けるのが、武士道だろ」
「わかってらー」
「お前もお前だ、あぁ、神野。いい歳してなに昔のとこでグジグジ悩んでるんだ。お前は戦士なんだろもっとシャキッっとしやがれ」
「いい歳か……」
 神野は目を細くした。
「てめー幾つだ。なんだったら、今日真也もまぜて晩酌するか?」
「……地球標準時間で450年以上……それ以上は記憶がなかったから分からない」
 日本海溝の底のような沈黙三秒。
「いっいっ意外と若く見えるな。翔太、ビール買って来い」
「発泡酒買ってくる」
「お客様だぞ、宇宙からきてんだぞ、ケチケチすんな」
「じゃ、私お料理しますね」
 一同(神野をのぞく)の血圧がぴんっと跳ね上がった。
「澪ちゃん、柿の種買ってきて、チョコレートがかかったやつ、源さんアレたべたいなぁ」
「あ、わたしロールケーキ買ってくる。商店街のパン屋さんで売ってるの一人限定1本なの。澪さん一緒行って付き合って」
「え、でもお料理が……」
「真也、ビールとかジュース重いからクルマで買ってきて」
「あっああ」
 翔太の目線の先に台所があった。
「麗香さんは、神野と買い物してきて、食べ物たりないぜ」
「なんで神野と!!!」
 となりの神野は、なにもいわずこの騒々しいのをボンヤリ見ていた。
「荷物持ちにはなるだろうよ。一応男なんだし。女の子の役に立つ、それも男ってもんだぜ神野」
「荷物持ち……」
「んだよ、不服かよ。家族なんだから家族の仕事をするのがルールってもんだろ」
 神野は黙って頷いた。

 

 鍋らしい。この季節なのに。四捨五入で十人近いのだ仕方がない。
 二人はスーパーに入った。
 翔太から渡された、えらく乱雑なメモの字を見て麗香は判断した。
「どんな食べ物なんだ」
「鍋よ」
「地球では、調理器具まで食材にするのか、面白いな」
「……」
 真也の話では、地球最初の手料理が澪さんの弁当だったから、先が思いやられる。
「真也は、澪の作る料理が変わっているといっていた。食べた料理も甘かった」
「澪さんは特別よ。澪さんのお母さんが、すばらしくお料理が下手だったの、愛情はたっぷりだったけど。その辺が似ちゃったみたいで」
「……遺伝というやつか」
「違うわよ、生活習慣よ」
 神野は鮮魚売り場で立ち止まった。
「……」
「どうしたの」
「食料だ」
 指差したものは、ザリガニではなく魚だった。
「魚ね、よく食べるわよ」
「変なものがあるぞ麗香」
「お刺身ね」
「あれはどうやって食べるんだ」
「え、おしょう油かけてわさび乗っけて、そのまま頂くの」
「甘いのか、赤いぞ」
「甘くありません」
「あれは、あのまま水を泳いでいるのか」
「幼稚園児みたいなことを言わないでよ」
 神野は標準的な地球言語はマスターしている(方法は不明)意味が分かったらしく、少し落ち込んだ。
「仕方ないわよ、文化が違うのだから。そうよね外国から来たと思えばいいのよね」
「外国人? ああ、違う国から来たことか。たしかにそうだな」
 神野が笑った。あまり爽やかな笑顔ではなかったが。
 買い物の間ずっと神野の質問にキレることもなく麗香は付き合った。

 


「真也、のめーって……ウソだぞ。飲酒運転厳禁だ」
「だったら煽るなよ親父」
 円卓で具材の半分投下された鍋がグラグラゆだっている。
「麗香、あれが鍋か」
「そうよ」
 じっとみている。
「一人では食べきれない」
「……すげーこというな」
「そうきたのね」
「鍋自体は食料じゃないぞ」
「それはさっき麗香から教えてもらった」
「ふーん麗香さん優しいのねぇ」
「おだまり」
 コップをむりぐり神野に持たせ状況の分からない神野を放置して源さんは勝手にビールを注いだ。
「まあ飲め」
 でまた背中叩く。伝説の騎士の身体に震度四程度の揺れが生じた。
 いわれるがまま飲んで一言、
「にがい」
と呟く。
「苦くて当然だ、それが大人の味ってもんたぜ」
「そうなのか」
 見るからに適当に盛りましたって感じの小鉢を指しだし、
「まあ食え、腹へってんだろ」
 ぐー。大変分かりやすい体内構造をしている。
 見よう見まねと明らかに分かる箸捌きで豆腐を口に運ぶ。
「……うまい」
「やった」
 翔太は普通に喜んだ。ユカも安心した顔をしている。
「そうか……真也がいっていた『それを基準にしない方がいい』というのはそういうことか」
 ぴくりと真也の肩が震えた
「神野さんそれは、なんですか?」
「ああ、さっき真也が……」
「まー神野、とにかく飲め、一気だっ一気」
「うわっやだ、大学生って」
 テンションに煽られて、神野がきゅーっとコップになみなみ入っていたビールを吸い込んだ。
「あら」
 ぽかんと澪は見ていた。

 

 ガツン。

 

 神野は前触れもなくテーブルに額から倒れこんで、そのまま動かない。
「きっ急性アルコール中毒???」
 慌てて麗香がテーブルから神野の身体を剥ぎ取った。
 ぐー。大変分かりやすい体内構造をしている。
「寝ていますね」
「熟睡だ」
「コップ二杯でたぁ〜安上がりな兄ちゃんだ」
「宇宙人にそもそもお酒飲ませていいの?」
「しるかよっ」
「たいへん、お布団の用意しなくてはいけませんね。風邪引いちゃいます」

 


 翌日、伊達家のオヤジにたたき起こされた神野は最初にこういわれた。
「澪ちゃんの前で、料理の話はすんじゃねぇぞ」
「なぜだ」
「……地球が嫌いになるかもしんねぇ」
「理由はよく分からないが、わかった」
「澪ちゃんから差し出された料理は黙って食え、文句は許されない」
「なぜだ」
「澪ちゃんから嫌われる」
「わかった」
 裏口から澪が小鍋をもってにこやかに登場した。
「おはようございます神野さん」
「……ああ」
 二人の表情にかげりがかかる。明らかに部屋の空気がおかしい。
「神野さんが二日酔いかと思いまして、お粥炊きました」
 嬉々としてふたを開けると、明らかに知っているどの粥とも思えない色、艶、香りが津波のように鼻孔になだれ込む。
「元気つけなきゃって思いまして、私なりにアレンジしてみました」
 どこをどう、元気印にアレンジすると、掘りたてそのままで硬い表皮につつまれたのタマネギとかニンニクが放り込まれ、ぐるぐるとかき混ぜられた、ひき割り納豆に塩辛、とろろ芋、生卵。そのうえどうしてか、ぬっくりと暖められたカフェイン・シロップの香りがする。
「いってきま……」
 翔太の声がした途端にドアが高速でしめられ、力強い革靴の足音の残骸が残った。
「オイラはちっと配達に……、澪ちゃんケンイチが来るまでお店頼んだよー」
「はい、源さん行ってらっしゃい」


 さっき翔太の父からいわれた言葉をようやく理解した神野は、自分が逃げられない危機的状況に陥っていることに気がついた。



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