即席ライザー小説。 戻る

そんな疑問にお答えします。



 ドアを開けたら最初に目に入ったのは、危なっかしいスカートの翻り加減に上がったユカの右足が翔太の背中にクリーンヒットしている現場だった。
「……?」
 真也が状況が読めないまま固まっている目の前でスポーツバックでの殴打のコンボが決まっていた。
「もう、翔太のばかーーー」
 ……いつもの言葉を隣三軒両隣、ついでに地下鉄に乗っている乗客にまで聞こえんばかりの大声である。
「どうしたんだ」
「翔太がバカなんだもん」
「……なにをいまさら」
「バカいうなって」
「だってバカじゃないっ、あーんなに勉強してなんで出来ないのよっ」
 毎日牛乳を平気で2パック飲んでしまうユカの一日分のカルシウムが一気に蒸発してしまったかのような暴れようだ。
 麗香は片手で翔太のオツムを握りナデナデしてから、まるでスイカの良し悪しを調べるようにツムジにむかってノックしている。
「たしかに。澪さんの無料家庭教師も無駄なのかしら。翔太ぁー。ちゃんとお味噌はいってるー?」
「麗香さん、ひどすぎます。翔太君は翔太君なりに頑張っていると思います……たぶん私の教え方が悪いのかしら」
「違うっ澪さんは悪くない、翔太がバカなだけだっ」
「そーよ。澪さんの教え方と忍耐は立派だよ。バカなのは翔太よ」
「うん、バカだもんねー。翔太」
「それは、俺も知っている。翔太はバカだ」
「全員そろって、バカバカいうなっ」

 これらが一週間のうち二度ほど発生する言葉だ。完全にループしている。

 ココ最近のこと。翔太帰宅後、澪さんと部活からダッシュで帰ってきたユカが予習ついでに伊達電器の楽屋で二人ならんで教科書広げている。真也はテーブルの端で邪魔しない程度にリサイクル用に持ち込まれた家電をいじっていたり、自分のパソコンを広げて、その様子を観察しているのが、最近の日課だ。
 今日は神野はホワイトボードの後ろに椅子を置いて、ちゃんと読めて理解しているのか若干怪しいが、翔太の購読している雑誌を見ている。いくら多少落ち着いたとはいえ、神野は放置していると、どこかにフラフラ出かけてしまうので、麗香からの命令でGPSつきの携帯を持たせている。ついでにジャケットにも同様の装置をこっそりつけている。これも麗香からの命令。
 勉強には、麗香は関わっていない。もっぱら店番をしている。あとは、澪が動くよりも早く台所に入り、お茶の準備をするぐらい。で、たまに気が向いたときに……これはお互いになのだが、神野の相手をしている。
 正直、ずっとこの連中を観察しているのだが、真也には宇宙人である神野以上に本宮麗香なる人物が謎なのだ。
 澪さんの保護者でもあり、勇猛果敢な護衛でもあり、自分たちの姉のような存在。
 こちらが予想しない以上に色々な特技を持っている。格闘術や開錠やら。知れば知るほど分からなくなる人物、それが麗香である。
「どうかしたの、真也じーっと見て」
 怪訝な顔で真也の視線を察知した麗香はそういってきた。
「わー、真也……フゴ」
 ユカは、翔太の鼻と口を押さえテーブルの参考書に沈めた。大変手際のいい沈黙方法である。
「なんでもない」
「真也言いたいことがあれば、いえばいい」
 神野は一般生活を理解していないので、言葉にフィルターをかけるということが全く出来ない。
「どうかしたんですか、真也さん」
「なんでもない」
 きょとんとした澪の顔が真也を覗き込んだ。
「おい、麗香」
 神野が麗香を呼んだ。
「おい、ってなんですか」
 言葉遣いが悪いです、と麗香は一喝。
「……澪を守る役目は理解できるが、なぜお前は強いんだ」
 ……宇宙人・神野。なにかを受信するアンテナでも持っているのかと、真也は心臓を背中から鷲づかみにされたような痛みを覚えた。
「強くなる理由は一つ。天堂家当主たる天堂澪さんを守るためです」
「ノルンから……使命を託されたから、澪の一族を守っているのか」
「違います」
 麗香は、きっぱりといった。
「元々、天堂家を守るのが本宮の家に生まれた者の使命です」
「使命だなんて……そういう深い意味合いじゃないんですよ、皆さん」
 アワアワして澪が、違いますよと言ってきた。
「姉のせいではないのか?」
「違います、たしかに今は、ノルンの言葉を伝えるのが主になっていますが、日本有数の名家である天堂家は色々敵が多いのです。だから私たちは守るのです」
「名家だなんてそんな……。大昔は海賊さんだったんですよ、私のおうち」
「はぁ?」
「澪さん、海運業です、海運業っ。言葉間違っています」
「ユカ、海運業ってなに?」
「船でやる宅急便みたいなことよ」
「海賊ぅ??」
 真也まで、アッケにとられた。澪はカラカラと笑って。はい、海賊さんですよ。私のご先祖様。と答えている。
「我が家の歴史書によりますと、天堂家は最初は網元だったようです。で漁民たちを守るために海賊退治に……って親戚の本宮家と一緒に海賊討伐をしたり、ついでに海賊みたいなこともしたり。その後、天堂の財力と本宮の武力でその周囲の海域を支配して……その後、吸収した人材を使って海運業を始めて、結果的に一つのお城を持つぐらいに成長していったってお話です。だから元・海賊さんです。ああ……もっと昔は漁師さんですね。あと、お魚屋さんかも」
「海賊ではありません、澪さん、お魚屋でもないです」
「史実はちゃんと説明しなくてはいけませんよ、麗香さん」
「海賊だなんて、あんまりですー。本宮流古武術っていってくださいー」
「そうですね。もっと分かりやすくいうと、麗香さんのご先祖は、海賊さんから御武家さんになったり、忍者になったり、凄いんですよ。そのような経緯で麗香さん。厳密にいうと本宮の方々は皆強いんです。麗香さんの親戚の方には国防省にお勤めの方もいますし……あと、麗香さんのお父さん凄いんですよ。今でもよく素手でビールの栓抜いたりしますし。あと、焚き火の頃になると電話帳真っ二つにむしってオイモ焼いたりしてますよ。こんど見に来てくださいね。いらっしゃるのならお正月がオススメです。本宮の方たちの色々な特技が見られますよ。手裏剣投げとか、大脱出とか……あと、なんでしたっけ麗香さん?」
「……澪さーん……やーめーてーくださいーー」
 半べそ気味の麗香が、明るくおしゃべりする澪にのっしりともたれかかった。
「……なにその、柳生一族……いやむしろ、万国びっくりショーご家族」
「忍者かっけー」
「恐るべし本宮家」
「……麗香、なにかやってみせろ」
「犬が芸するみたいに言わないでよ神野っ」
 これ以上麗香をつつくとおっかないのでやめようとする四人に、澪は、
「皆さんおそろいで、お正月来て下さいね」
とにっこりと微笑んだ。


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