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一粒の感動
平賀真也。特技、機械全般ハードからソフトまで、サッカー(集まるメンバーの都合以上フットサル)、趣味。実は温泉大好き、本人はあまり語らないが相当好きらしい。
「限定の入浴剤、真也さんから貰いました」
澪が嬉しいと声を上げた。
ユカと麗香は、またかと1.5秒だけ思った。さすがに好きとはいえ(真也本人はあれでも隠しているつもりだが、バレバレ。それはあえて周りは言わないことにしている)この時期に澪を温泉旅行に引き回すわけにもいかない。いや、有事でなくても本宮麗香が許すはずもない。だからなのか、もともとなのか、入浴剤をちょくちょく買ってくる。で、分けるといって配って歩く。多分彼なりに、他人とのコミュニケートとりたいとのサインなんだろうと、麗香とユカは思っていた。
「入浴剤?」
神野は、食料か? と包装された入浴剤の錠剤を摘んで首をかしげた。
「お風呂にいれるといい香りがして気持ちいいんです」
「……ここの風呂は黒い棒キレが入っていた……あれもそうなのか? いい匂いなんてしないぞ」
「それは源さんの趣味の備長炭だと思います」
「源さん、健康番組大好きだもんねー」
「すぅーぐ、テレビに感化されるから困るんだよなー、肉食わせろって」
「最近の食料は、苦いものばかり出るな」
「あー源さん、またゴーヤに凝りだしたんだ……」
「商店街の人が露地栽培しているのを分けてもらっているんだって……正直、家庭菜園産だから苦さ半端ないぜ」
「うはぁ。翔太、晩ゴハン呼ぶときは絶対メニュー教えてねっ」
「しらねーって……貰ってくるの親父なんだから」
興味深そうに、じっと入浴剤を見つめ、鼻を近づけて匂いをかいでいる。で、うーんと唸っている。理解するまで時間がかかりそうだ。たぶんライザー星には入浴剤とかはなさそうだし、ハデス軍が保養施設が充実していたなんて考えられない。
「神野さん、よかったらどうぞ」
「いいのか、澪」
「ええ、なんかご興味がありそうだったですし……」
「真也に悪い」
「真也さんには、神野さんに差し上げましたって私からいっておきます」
ユカは、正直不安になった。真也が聞いたらどう思うか想像しただけで頭痛がしてきた。
「……ありがとう、風呂のときに使ってみる……どう使うんだこれは」
「まず源さんにいって、備長炭とってもらってから、袋から出してコレをぽちゃんと入れて混ぜてくださいな」
「わかった、やってみる」
神野は、感動していた。
澪がいうとおり、家長である翔太の父親の了解を得て、炭化した棒切れを風呂桶から引き上げ、沸かしたての湯に貰った錠剤を落とした。静かに発泡しながら鮮やかで透明感のある緑色に変化し始める。浴室にたちこめる花の香りよりも、湯の色を見て涙がこみ上げそうになった。
「これは、ライザー星の……海の色だ……」
触るとお湯なので熱い、独特の花の匂いもあるが、手にしっとりと染み入る感触は、懐かしい故郷の海と酷似していた。星は滅びてしまったが、生まれ育った場所の海は小さいながら風呂として再生した。
神野は、風呂場から飛び出して翔太を探した。
「翔太、来い、大変だ」
「……お前のほうが大変だぞ、なにパンツ一枚で走ってるんだ」
ボカリと背後からやってきた源さんからゲンコツ食らう。
「飛び込みで最近じゃ、女の子来るんだぞ、なんつー格好してんだっ」
「大変なんだ、とにかく来い」
神野は、服装はともかくとしてなんだかとても嬉しそうな顔をしていた。
伊達親子の手を引き浴槽に連れて行くと、こういった。
「ライザー星……故郷の海の色だ」
二人には、普通の入浴剤の色にしか見えない。ただ、はぁと答えるのみ。
「地球の風呂は素晴らしいな、ライザー星の海を再現できる」
「翔太……世界はひれぇーなぁ」
「だなぁ……オヤジ」
「風邪ぇ引く前に、とっとと入れよ風呂ぉ」
「ああ……」
神野はしばらくの間、入浴剤の色で満たされた水を見て思いに浸っていた。
「澪」
神野はしっかりと澪の両手を握って、
「……ありがとう」
といった。
「あれほど感動と喜びにあふれたもらい物をしたのは、初めてだ。感謝の言葉が見つからない」
「それは、よかったですね」
感動的にものを言う神野を離れた場所で見ているユカは、漫画読んでいる翔太にそっと話しかけた。
「なんなの、あれ」
「ああ、昨日さ澪さんが神野に真也から貰った入浴剤あげたんだ」
「ふーん。すごい入浴剤だったの?」
「色は普通だよ。THE入浴剤、みたいな色」
「で、なんであんな感動してんのよ」
「ライザー星の海の色と一緒だったんだって」
「……ふぅん」
宇宙って不思議ねとユカ。パンツ一枚で走り回って感動してたぞと、余計なことまでユカに報告する翔太。
重たいモーター音がした。真也がリュック背負って店に入ってきた。
つかつかと、神野は真也に歩み寄り、その手をがっしりと握った。
「真也、ありがとう」
「……なんの話だ」
「お前が仲間でよかった」
「……話が読めないのだが」
「あのー。昨日……真也さんから頂いた入浴剤、神野さんに少し分けてあげました」
「分けた?」
ユカは、心の中でほらキタと呟いた。
「感動した。お前から貰ったのは、ライザー星の海の元だったんだ」
「……は?」
「真也、なんでも入浴剤の色がライザー星の海の色にそっくりだったんだと」
「はぁ……」
「今度お前のいっていた『温泉』とやらに一緒に行こう、きっとライザー星とそっくりな水がそこにはあるはずだ」
真也は、どこから突っ込んでいいのか分からなくなった。
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