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リボン
とある国、とあるルート、とあるパソコンのメール。
ある一つの事件がきっかけで、数年音信普通だった家族が、メールの形で交流していた。
「真也にどうやら、彼女が出来たらしい」
平賀博士は嬉しいんだか苦しいのか区別が付かないような息を吐いた。
「そうなんですか」
「そうらしい」
いかんせ、家族揃って食事も満足にしたことがないので良くわからない。が、どうやら友だちが出来たとの内容のメール。それにくっついて写真つきのメール送ってきた。
一般的ご家庭の事情がよく分からない平賀家。夫婦そろって送られてきた二枚の写真をじっと見る。
一枚は、以前一度だけ見たことがある真也の友だちたちとの集合写真。元気だけがとりえそうな少年と背の高い少女、気が強そうな女性と、みるからにおっとり気な女性。
一枚は、そのおっとり気な女性と微妙な間をとっての写真。
「これは、どう捉えるべきなのだろうか」
研究で脳の内側にひらめきを待っているよりも深刻に脳内が萎縮する平賀博士。
肩を叩いた妻の言葉は意外なものだった。
「会いに行きましょう」
父からのメール講義の最中に受け取って、平賀真也は椅子から転げ落ちた。
「どうした平賀」
教壇に立つ教授が不思議そうにこっちを見ている、周囲の学生たちも席を離して座っている秀才の珍事をなんだろうと話している。それぐらい見事に脈絡もなく落ちたのだ。小学生が、起立、礼、着席。で後ろの生徒が椅子を引いた並のコケかた。
「ななななな、なんでもありません」
講義に集中とかレポートの論点を考えるとかに使っていた脳の電子配線が一度に吹き飛んだ。
午後の講義を受けることは全く考えず、ポケットの車のキーを握って、早く授業が終わらないかと時計に早く進めと念を送り続けた。
「み、澪さん。麗香さんと一緒に、にっ逃げてくれ」
「なんなんですか真也さん突然」
こういうときに限って、神野も麗香も翔太もユカも澪も全員揃っている。高校生の二人は試験休みだとのこと。
「ダルガの襲撃か、受けて立つぞ」
「ちっちがう」
「じゃ、なに。友だちから借金してるとか」
「真也さんはそんなことするわけないでしょう、バカ翔太」
「どーっちかっていうと、真也は借りパクされるほうかもねー」
麗香が追い討ちをかけた。
「それ、超いえてるかも……」
ユカが納得してしまった。
「ああ、なんで分かってくれないんだ」
「説明しなきゃわかんないだろうが、なぁ」
翔太のいうことに、神野を含めて全員が頷いた。
「説明できるんだったら、慌てる必要があるかっ」
吼える真也に神野が、
「どうした真也。お前おかしいぞ」
とトドメをさした。
店の源さんが楽屋のドアを開けて、電話に手でフタをした格好で子供たちにいった。
「おーい、真也。もうすぐ、父ちゃんと母ちゃんくるぞーよかったなぁ」
原因は、コレかと麗香とユカはおもった。
真也は今現在、父と母が一体どこで生活をしているのか機密上のことなので知らない。 が、どういう手段をとってかは分からないが、ものすごくここに早く到着は出来る距離なのだと改めて知った。もしかしたら、昔から実は近いところにいたのかもしれないが、色々な壁があってこれなかっただけなのかもしれない。
あの電話から30分とかからず、黒いスモークを貼った外車と物騒なSPがぞろぞろと伊達電器を取り囲む。最近の飛び込みで来る国防省の幹部の制服といい、ご近所からどう思われているのだろうかと、店長は少しだけ隣人たちの目を気にした。
「こんにちは、ご無沙汰しています」
澪が真也の母にぺっこりとお辞儀をしてにっこり笑った。
「いつも真也がお世話になっています。先日は失礼しました」
「いえいえ、お元気そうでなによりです」
「今後とも真也を宜しくお願いします」
「こちらこそ」
突然の来訪者に戸惑うことなく普通に対応する澪の後姿に、真也は少しだけ眩暈がした。なにか話の順序が間違っているような気がする。
「……真也の守りたいものが来た。親か。当然だな」
神野が少し困った顔をした。ちょっと前の暗い過去がよぎっただけのことで、大きな見るからに幸せが詰まっていますの香りがする、真也の父が持つ大きなきれいな包み紙を見て、「お前はよく思われているようだな」と呟く。
「皆さんには、いつもお世話になっていますので、お礼にご挨拶にきました」
「いやー、大したことはしてねぇーし、コッチは店番までやってもらったりやら、このバカ息子の勉強の世話までしてもらってるし、ありがたいぐらいですよ」
「わたしも、真也さんからパソコン教えてもらってるし」
「俺は真也に頼んでクルマ出してもらってるし」
「この間、美味しいゴハン作ってもらいました。真也さん、お料理上手ですよ」
「んー、行列のできるシュークリーム店の列に並んでくれてますね。いい人です」
「真也は、俺の友だちだ」
なにか言う言葉が違うだろうと、後ろからツッコミを入れたい気分だったが、両親のニコニコした顔をみたらなにを口にしたらいいのか分からなくなって気分が凹んだ。
「迷惑なんかかけていませんか? 真也は人付き合いがあまり上手ではないので心配なんです」
「お母さんっっ」
二十歳過ぎて選挙権も、ついでに結婚することも出来る息子捕まえといて、小学生か幼稚園で始めて友だちを家に呼んでの第一声みたいな発言を。
「めーわくねぇ……。グチっぽいよなぁ」
なっと翔太。
「屁理屈ね」
とユカ。
「路駐だな」
と源さん。
「ネクラのパソヲタ+アキバ君、フットサルやっていやければ、アウト。いろいろ」
麗香が指を曲げながら数える。
「問答無用の後頭部攻撃」
きっぱりと、神野。
「みなさん、言いすぎです。真也さんはいい人です。口数は少ないしたまに、突然怒り出してどっかいっちゃったり、食事に誘うと逃げちゃいますけど、いい人です」
真也は壁の中に入りたい心境に陥った。
「真也、ちょっときなさい」
真也の父が、コッチに来いとよんだ。
「はい、お父さん」
「みんなのお話きいて、友だちを大事にしなきゃだめだぞ。一人で生きているんじゃないんだからな」
「……お父さん……。ちっょと待ってください、僕はもう大人です」
「私たちにとっては、いつでも私たちの子供だよ、真也」
そうかも知れないが……。
「だから子ども扱いしないでくださいっ」
「お母さん、どうしよう。真也が反抗期だ」
「やっぱり、そばにいてあげなかったから、悪かったのでしょうか」
二人は、絵に描いたかのようにしょんぼりとする。
「……なぁオヤジ、親にとって、子供はいつ大人になるの?」
「さぁな、子供を大人になるまで育てたことないから、わからねぇなぁ〜」
「なんじゃ、そりゃ」
そそと、澪が平賀夫妻に近寄って、
「真也さんは、いい人です。安心してください」
という。
「ほっとしました、ありがとう澪さん」
「いえいえ」
「真也、お父さんからのお土産だぞ、開けてごらん」
渡されたラッピングされた箱は、まるでクリスマスの季節が今にワープしてきたみたいな感じで、すごくこの場にはマッチしていなかったし、この歳になって、このような姿のもらい物をするとは思ってもみなかった。
乗り気じゃないと顔に書いてありますのが見え見えでラッピング用紙をびりびり破く。
「ロビーロボットのオリジナル!!! しかも箱つきだ。パパ、ありがとうっ」
真也は、ものを見るなり大喜びで父に抱きついた。
「欲しかったんだろ真也」
「うんっ」
どうみても、すごくレトロなブリキのロボットオモチャだった。あんまり貰って嬉しい物体には見えなかった。
「……ガキじゃん真也。パパからロボット貰って大ハシャギ。シン様の追っかけに教えてやろうかな」
「……パパねぇ……なんかみたことあるんだけど、あのロボット」
ユカが、えーっととかいっている。
「あーーーっ」
麗香が、悲鳴に近い声あげた。
「鑑定団!!!!」
ユカが、それだーと叫んだ。
「クルマ買えちゃうよ、あのオモチャで……」
「えーーーーー」
「ゼロいっぱいつくわよ」
「真也さん嬉しそうですね」
「真也、楽しそうだな貸せ」
「やだっ」
神野の手がにっょきり伸びるのを思いっきり蹴飛ばして、
「パパ、ありがとう」
を連呼する平賀真也。
「真也、みんなと仲良く遊ぶんだぞ」
満足げに微笑む平賀夫妻。息子は、自分の知っている息子のままだった。
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