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業間 雑誌の折り目


 ユカが雑誌を放置していった。表紙もタイトルもどれも似通っていて区別が全く付かないもの。ユカからいわせれば、バイク雑誌や、真也の持ち込むパソコン雑誌も区別がつかない、なにが楽しいのか理解不能といわれた。
 いつだったか、麗香さん、澪さんと一緒にワイワイどっかのページひらいて騒いでいったけ。気恥ずかしさが先にたったが、都合のいいことにココには誰もいないので、雑誌をペラペラめくってみた。
 ……やばい、どれもこれも一緒に見えてくる。モデルの女の子、洋服、カバン。なにがどう違うんだろう。そもそもどこからが記事でどこからが広告なのかも不明状態。
 いくつか、雑誌に折り目が入っている。ページを開いても通販雑誌のチェックではないので、丸印とかは入っていないからどれが目的の品物なのかは分からないが。
「どういう感覚なんだよ、ったく」
 シャツ一枚でなんで1万円以上も出さないといけないんだ。横に載っているポーチなんか携帯とポケットティッシュが一緒に入ってやっと程度のスペースで平気で2万とかほざいている。ユカの財布事情を考えると絶対に買えない気がする。別に無駄使いが激しいほうでもない。どちらかというと、堅実派、むしろケチ(翔太内解釈)。必要以外のお金は全部貯金。いまどき珍しいのかもしれない。
 中古、新古でバイクの部品を買いあさる自分とか、日ごろからのネット通販およびオークションで宅配業者からの連絡が携帯にガンガン入り、ヒマがあれば自らリュック背負って涼しい顔してアキバにいっちゃうシン様とか、クルマとかポーンと買ってしまう澪さんとか、どこにしまっているのか分からないけど、凄く衣装持ちの麗香さんとか(たぶんものすごくお金持っているのに、ケンさんにシュークリームをタカるのはどーかと思うよ、麗香さん……だからかケンさん。最初は麗香さん狙いだったのに、澪さんにのりかえたのは)
 浪費家天国か……わが家は。
 なんかそう考えると、ユカ一人、マトモに見えてきた。
 たぶん、こう雑誌をチェックし満足して微笑む彼女が不憫に思えてきた。
 この間は、ついアイツがいたからムカついてリップのケース持ってたユカに「色気づきやがって」んていっちまったが……。ユカの周りが単に体育会系で地味な装いな女の子が多いだけで、決して学校全体がみんなああではない。だから余計、飾らず凛としているユカが学校のなかで際立って見えてしまうんだ。
「なにやってんの、翔太」
 真後ろからユカの声。びびっと嫌な音でページが破けた。慌てて胸ポケットにねじ込んだ。
「人の本みてなにやってんのよー」
「なな、なんでもないって」
 むーっと唸って雑誌を奪い取る。
「あー破けてるーーー。ちょっと翔太ぁぁ」
「やっべぇ」
 走って逃げるほかなかった。ユカは正直、麗香さんと同じぐらいに怖い。


「はぁ〜〜平和だねぇ。やっぱコーヒーはオープンカフェに限る」
 今日は湿度も少なくカラッとして、ほんのりぬくい。金と茶が混ざった前髪が風でそよそよ。絶好のまったり日和。
 いつも頼んでいるブレンドも一段と美味しく感じる。
「これで、締め切りがなきゃもっといいんだけどねぇ」
 漂白かけられたみたいな紙面にむかって後ろ髪を掻いた。
「うぇぇ……」
 泣きながら、とりあえずコーヒーに手をつける。
「あーあ」
 コーヒーの吐息をゆっくりと肺でためている瞬間、目の前で突然爆発が起こった。
「ななな、なんなんだょぉ」
 なにもかくにも、コーヒーと、スケッチブックは確保した。
 カフェのお客店員、道の往来の人たちは、ワーワーいいながら走って逃げていく。
 二秒後、思った。 
 よくあったじゃん、前にもこーいう爆発と展開。
 そう思い出したら、三口目のコーヒーがすんまり喉に通った。
 50メートル先に、なんというか、紺色の怪しい人物。
 それと対峙する赤いの。
「……ふーん。ああいうのって、よくあるんだー。あーあ大変だねぇまったく」
 それに向かってなんか、同情した。


「神野、またてめーかっ」
「グレン、貴様の相手はこの俺だ」


 状況は読めないが、きっとあの紺色がワルモノにちがいない。
「……濃い青色って……ろくなヤツがいないとみたねぇ。まぁ、頑張ればー。たぶんオレのほうが強いけどね」
 そう呟いた。
 むこうのほうで、チャンチャンバラバラ。ギンギンギン。
 あの頃は必死だったけど、こうハタで見ると無責任になれて結構楽しい。……最近の隕石襲来やらなんやらで世の中物騒で大変不謹慎であるが。
 赤いのが吹っ飛んだ。くそーとか叫んで、剣を振りかざす。巻き上がる爆炎。温度で周囲の窓ガラスやら、街灯やらが弾け飛ぶ。
 さすがにそれには、びびった。前髪と眉毛まで熱く感じたぐらいだ。
「ったく、近所迷惑なんだよ」
 にしても、あの紺色は、あの赤いのに因縁でもつけにきたのか。技モロ食らいだったのにも関わらず、シャーシャーとした空気残して消えた。……ふと、とっても嫌なやつを思い出した。
「くっそー、ったくいきなしかよ。いててて」
 誰もいなくなっちまった道に赤い光が集まって、携帯みたいなものを手にした少年が転がっていた。


「おーい、もしもし。大丈夫かーぁ。ヒーロー君」
 なにかに突付かれた。。
 手にはコーヒーカップ持って「ウリウリ」とかいいながら、もうかたっぽで持っているスケッチブックの端っこで、こっちを突付いてくるのだ。
「うぉっ。ななな、なんなんのアンタも、もしかして見てた」
「みてたもなにも……街中はやばいとおもうよぉ、やっぱさぁ」
 んだけ元気あるんだったら、郊外で乱闘しなさいなといいながら、この惨状の最中ヤンキー座りしてコーヒー飲んでいる。
 なんとも奇妙な男だ。翔太的には、真っ先に嫌いになるタイプ丸出しである。
 光沢のある上下に柄の入ったシャツをボタンダウンで着こなし、指にはシルバーのリング。耳にはピアス。髪の毛は茶髪と金のツートンカラー。くっきりとした二重のたれ目かげんの目がこっちみてニコニコ笑っている。新宿付近に出没しそうな兄ちゃんがなにこの惨状で余裕ぶっこいているのか翔太には、まったく理解が出来なかった。
「あのねぇ、ここでされると迷惑なの。モノなんか壊れちゃってさ、ねっ分かった?」
「なに、なんんなの。なんでそんなに落ち着いているんだっ……もしかして国防省?」
「……知り合いはいるよぉ、二名ほど。暑苦しいのが」
「わー拉致られるぅぅ」
「だかーら、知り合いだって。関係者じゃないもんオレ。第一、んなマッスル王国に進んで志願したり、他人を推薦しねぇよ……あー考えただけでかったるい」
 ブツブツいいながら、残りのコーヒーを啜っている。
「ところで、アンタ何者」
「んー元ヒーローにして、デザイナー」
 さも普通にいってきた。
 翔太の表情が曇る。電波系? なのかこの兄ちゃん。
「どっちにしても……ひどいなぁ。考えろよ色々。……ま、そっちもボロボロだけど。怪我だったら知り合いに医者いるから、紹介してやるよー」
 電波系兄ちゃんからの医者を紹介。考えただけで恐ろしい。
「っいです、けっこうです」
「まま、遠慮すんなよ」
 こっちから願い下げだ。そそくさと帰ろうとしたら、男が翔太の手首を掴んできた。
「ちょっとまて、その格好で帰るつもりかヒーロー君」
 指摘されて始めて気がつく。喧嘩でもして市中引き回しになったような散々な格好だ。これでこのまま帰ったら、道すがらジロジロみられること間違いなし。学校関係者に見つかったらもしかしたら勘違いされて退学にでもなってしまいそうだ。
「しかたねぇなぁ」
 男はカップをテーブルに置くと、近くの道路に横付けされているオープンカーのトランクをあけた。この格好で、オープンカーしかも真っ赤をコロがしている。マジホストかなんかのなか……しかも電波系ぷらす古典なやつ。
「ほれ、男にプレゼントなんて不本意だけど。大サービスだコレでも着てろ」
 ぽいっと放ってきたビニール袋に入れられた服。
「傷物だけど」
 袋を破ると二箇所に丸いシールが貼ってあったが、どういうキズなのかすら分からない新品のシャツだ。ただし、翔太の趣味に反する服ではあるが。帰ってオヤジが見たらなんていいだすことやら。
「あ、ありがとう」
「いのいの」
 破けたシャツのポケットから、男は何かを取り出した。さっき破ってしまい込んだユカの読んでいた雑誌の切れッぱしだ。
「ふーんキミこういう趣味あるんだー」
「それは……ユカの読んでいた雑誌の……って折り目がついてて……やぶって……ああ違うッ。なにいってんだ。こんちくしょー」
「ユカ? もしかしてキミの彼女さん?」
「ちっちがう。あんなの友だちっ」
「ふぅーん」
「ユカは大事な仲間だ」
「彼女も……もしかして。なの」
 急に目の前のチャラチャラ男が真面目な顔をした。
 なにもいわずじっとしている翔太に、呟くように「こりゃ大変そうだ」といってトランクから袋を鷲づかみにして、翔太の両手にのっけた。
「彼女可愛い?」
「それって重要なのかよ」
「もちろん。ヒロインって強可愛いものなんだよぉ。大事にしなよ」
「……そーなんだ。くれんの? ありがとう……」
 分かるような、分からないような。複雑な心境で銀色の分厚いビニール袋を渡された。困惑して固まる翔太をよそに、そのチャラチャラ兄ちゃんは、頑張れよーヒーロー君と手をふりながらオープンカーに乗って走り去ってしまった。



「翔太が雑誌破ったぁ」
「ひどーい翔太」
「読みかけだったのに」
「あの〜ユカさん。その翔太君帰ってきましたよ」
「バカ翔太っボコボコにしてあげるっ」
「がんばってユカちゃん。ついでに私も仲間に入れて」
「麗香さんは、関係ないじゃない」
「あの〜翔太君。ずいぶんおしゃれになっているんですけど……」
 ユカは「はぁ?」と。麗香は「わっもしかしてデート?」とか恐ろしいことをいっている。
「どうしたんだ……翔太、その格好」
 あきれ返っています、という感じの発音の真也の声が店からした。フラフラっとしていて危なっかしい澪にかわって、しかたなく店番をしているのだ。
「さっきそこで神野に襲われて、服破けて……変なチャラチャラ男から服もらった」
「翔太っ雑誌ぃ」
「へーへー。あとでテープではっといてやるから」
 丸まった雑誌の切れッパシを、机に置いた。
「そーいう問題ちがうでしょ、バカ翔太っ」
「バカとはなんだバカとはっ。あーあと、コレやるっ」
 無造作にユカに突きつけた。
「なによ、これ」
「わー。翔太が貢いでる〜」
「「麗香さん変なこといわないでよっ」」
「しらない。チャラチャラ男から貰った。見た目の割には親切なやつだった」
「ちゃんとお礼いいました? 翔太君」
「あたりまえじゃん」
「ならいいんですけどー。麗香さん、翔太君の着ている服これって」
「ハカリヤですよ」
「えっ、なんでっ。なんで翔太がそんなもの着ているのよ」
 女の子たちは、ぐいっと翔太の襟の後ろを引っ張ってひっくり返してタグのロゴを見合っている、しきりに、なんで、どうして、うそ、の合唱。
「しっ、真也。ハカリヤってなに?」
「しるか」
 三人が口をそろえて(若干最後が異なるが)
「有名ブランド(です)」
と叫んだ。
「たっ高いの?」
「当たり前じゃない、パリコレに出てるぐらいなんだから」
「し、真也。パリコレってなに?」
「パリコレクションだ」
「どっどーせ、あんな見た目が怪しい男だし……ニセモノじゃないの。タダでくれたんだしさぁ」
「だって、これ新作……本物よ」
 ユカは自分の手に握っているビニール袋の銀字に黒いロゴを確認。
「……ハカリヤの新作バッグ」
 袋から出てきたものは、傷物のチェックが入っているが間違いなく新品のハカリヤの新作バッグだった。翔太の目では、麗香さん、澪さん、ユカ。誰が持っても違和感を感じさせないうまいところを付いた、デザインである。
「アウトレットかもしれませんね、ほらシール」
「麗香さんは、黙る。十分OKよ」
 女は怖い。目の色が変わっている。
 まぁ、好きなものをタダでもらったら皆ああいう顔にもなるか。
「マジ、タダだったから。ホントっニセモノだ。だってくれたヤツ、すんごくチャランポランでフニャフニャしてたぜ」
「どんな人よぉ」
「あーっとなぁ、髪の毛が茶髪に金のメッシュが入ってて……服装がどーみても新宿ホスト系。男なのにピアスとか指輪とかしてるヤツっ。しかも真っ赤なオープンカー乗っちゃうんだぜ。なっなっおかしいだろ? しかもオレがグレンに装着して神野とやりあってるのをみて平気なン顔してコーヒー飲んでいやがった。いよいよ怪しい」
「みっ見られたのか、俺たち以外の人間にっ」
 真也はバカとか、なにやってんだ貴様と罵りながら、翔太をぐいぐい締め上げている。
「……翔太。アンタのいったフニャフニャちゃらんぽらん男ってもしかして……こんな人?」
 もちゃくちゃになった雑誌の切れ端を引き伸ばし、ユカは翔太に突きつけた。
「そっ、そいつそいつっ。間違えようのないその髪、そのたれ目っ」
「……アンタが会ったの……ファッション・デザイナーの秤谷仁、本人よっ」
「だれ、それっ」
「その翔太の着てる服をデザインした人、有名人っ知らないのは、アンタと真也さんぐらいっ」
「えーーーーー、なんなんだよーそれ。国防省に知り合いいるとかってマジ話ぃ?」
「なんだと翔太、国防省にバレたのか、俺たちのこと」
「ちがーうっつか、国防省に近いのお前の父ちゃんと母ちゃんだろーーー」
 男同士の大型の喧嘩の空気漂うなか、一人ユカはぽんやりとカバンを見ていた。
「新作バッグー」
「いいなぁ。ユカちゃん」
「麗香さんになんか、貸さないわよ。アウトレットってバカにしたー」
「むー」
「良かったですねユカさん。翔太君からのプレゼントですよ」
「違うもん、秤谷仁からのプレゼントだもん翔太はシャツ……あ。ハカリヤだし。……シャツもほしいかも。翔太、私が新しいシャツ買ってあげるから、それちょうだい。今すぐ脱ぐっ」
「なんなんだよーそれぇぇ。やーんユカのえっちっ」
「翔太、ユカ。話をそらすなっバレたんだぞ、分かっているのか」
「んなのどうでもいいじゃない、わたしがあとで1000円で買ってあげるから、それちょーだいっ」
「ぐっぐるじいぃぃ、ユガ引っ張るなっっ死ぬーーー」
「さっきの国防省は一体なんなんだっ翔太、吐けっ」
「……やっべぇ。まじ、リバースしそう」
「ユカちゃん、真也。はいってる入ってる」
 麗香さんが、自分の首元をポンポン叩いて、ニカニカ笑っていた。
 色々な意味で伸びきった翔太がユカと真也の間でブランとしている。

「ユカいいなぁ、ハカリヤのシャツー」
「へへへ」
 出所はどうあれ、小さく自慢したいお年頃な真田ユカであった。


「みっ澪さん」
「はい? なんですか真也さん」
「ハカリヤって好きですか?」
「はい、ハカリヤも好きですよ」



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