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業間 宇宙ハローワークにようこそ

 

 どこの世界に行っても気になることは共通だ。
 仕事だ。


 ここは、中立な立場でい続ける星ワァク星。通称、宇宙ハローワーク。
 この民族の総力をあげてやっている仕事がある。
 ワケ有の宇宙人に仕事の斡旋、労災の手続き、健康保険などの業務をやっている。どんな悪な宇宙人でも、自分の家族が心配、明日の生活が不安なのは万国共通。なんも省みない人は数が少ない。
 なおワァク星域での戦闘、乱闘、内戦事情もちこみは厳禁である。ワァク星人は武力はまったく持っていないが、積み立て保険金という莫大な富と保障を握っているので、下手に逆らったり危害を加えると、全く関係のない別勢力から無言(武力もついてくる)の重圧を食らうはめになるので、いくら星を食らう悪党でも無碍にあつかってはいけない黒いルールが存在する。

 

「ガルダ帝国って知ってるか?」
「弟のカイザーハデスが、封印されてたってマジ?」
「あれ『銀河フォーカス』でガセネタ扱いだったような気が……最近カイザーハデスがテレビに顔出ていないとおもったら、なに封印? まじヤバイよなぁ。いつの話だよ」
「標準時450年前ちょっと」
「なんだ、留置所送り程度じゃん。でどこのチャレンジャー。あのハデス封印したの」
「ライザー星人」
「……ライザー星人ってそんなこともできちゃうんだ、知らなかった」
「正直、あの星ってなにやってるか今一わからんよね、科学力あるけど」
「それってアケロン星とどっこい程度?」
「さぁ」
 いかんせ、永世中立のワァク星。話も他の星域でしていたら銃殺は避けて通れないような話があちこちで交わされている。おのおの書類だの、データの入ったチップだのを持って順番を待っている。
あるものは職探し(善良な仕事から悪の手先まで情勢無視してスマートにサポート)あるものは保険の受け取りに、あるものは職業訓練にここの施設に訪れている。
 受付付近の客がどよめいた。宇宙ハローワークには色々な宇宙人が来ているが、とびきりな意味で目立つのが案内板のところでとまっていた。
「い、インパクター星人?」
「インパクターだ。しかも黒マント」
「なんで、インパクターなんかが、こんなハキダメ星にくるんだよ」
「あのなぁ。宇宙ハローワークは日雇い募集オンリーじゃないんだぞ」
「お前だっていつもきてんじゃねーかっっ」
「乱闘禁止。ホントに仕事もらえなくなるぜ」
「でも、インパクターの黒マントが何の用事で……」

 


『番号札をお取りになりお待ちください』
 機械音はそう伝えた。周囲の目をものともせず、インパクター星人はどっかりとソファに腰かけた。
「……」
 正直、不快だった。
 これから任務で辺境宇宙にある『地球』にいくことになった。この星の住民は、自分の住んでいる惑星からも旅立つことが出来ない下等な文明の星だ。どんなばい菌が生息してるか分からない。インパクター軍事務局からの達しで予防接種と定期健診だのをいわれた。星が丸ごと軍事国家(軍人商売)で成り立っているゆえ、自国のみの保険・衛生制度では後々やっかいなことになりかねない。
 大昔、辺境軍事国家の異星人がどっか田舎の星に「征服だー」と行ったら、その星土着の細菌でイチコロだったなんて話もあったぐらいだ。
 インパクター星の住人のほとんどが、他星域に派遣されている状態である。
 ヘタに外部から入ってくる雑菌を甘く見ると、インパクター星内で雑菌同士の雑種化が起こり、とんでもない細菌が出来上がってしまう。インパクター星が軍事産業一本やりになった黎明期、そんなマヌケな出来事で、星が滅亡の危機に陥りそうになった経緯がある。
 それを助けて(?)くれたのが、ウオフ・ナマフだった。それ以降、ウオフ・マナフとの関係がいまでも継続されている。「私は、ばい菌に負けない。戦闘行為を行ったらまず手を洗おう」そんな恥ずかしいような標語がいまだに、軍の教育教本に載っている。
ピンポーン♪
『35番でお待ちの、インパクター・ロギア様。三番窓口へどうぞ』
 いかにもレトロな造形のロボットからアナウンスが発せられた。
 壁にもたれていた順番待ちがざわめいた。
「あれが噂の……」
「どうりで、黒マントなわけだ」
「……で、その黒マントのロギアが……混合ワクチンの予防接種?」
「噂に名高いインパクター星人の潔癖ぶり」
 笑いをこらえるのに精一杯な壁の連中の様子に気がついてかロギアは、なにも言わずじっと見ながら腰の後ろに手を回した。
 悲鳴を上げながら、彼の噂だけはよく知る者どもは消え去った。
 この星では武装解除が大前提なのだ。この約束を破るともれなく一生仕事がもらえなくなる。ついでに保険などにも入れない。
 むろん有名人でも例外ではない。ただの冗談のつもりだったのに、どうも本気で受け取られてしまったようだ。
「つまらんやつらだ」
 ワクチン接種の予約券と説明書を受け取ったロギアは、ふーっと息をつきながら座る。 隣には、珍しいヒューマンタイプの男が座っていた。
「……インパクターは相変わらず細菌には、敏感なようなんだな」
「なにがいいたい」
「なにも」
 細い視野の目に、明るい茶色の髪。黒い上下。服装はいたって普通だが漂う空気はやたらと物騒な匂いのする男が、口と鼻だけ動かして笑っている。

 

ピンポーン♪
『107番でお待ちのデモンナイト様、四番窓口へどうぞ』
 ロギアは、三秒だけ脳細胞をかき回した。ああ、カイザーハデス軍に関する書類でそんな名前をみたことがあるような記憶があった。

 

「こんにちは、デモンナイトさん。履歴書を提出してください」
 ワァク星の職員が普通にいった。どんな相手にも明るくニコやかに窓口対応をするのがこの星の住人のポリシーである。
 ロギアは、立ち上がり書類を覗き込んだ。
「えーっと、デモンナイトさんは……。経歴不明、本籍不明、住所不明、所属カイザーハデス軍……」
 職員が少し困った顔をした。
 履歴書には、名前と顔写真と現在の所属先の住所しかのっていない。ほぼ白紙だ。
「……これでは書類とは呼べんな」
 ロギアは聞こえる大きさの声でいった。
「備考欄に、記憶障害とありますね……記憶喪失なんですね。職業上よくあることですから気になさらないでくださいね」
 さすが百戦錬磨の接客の達人ワァク星、動じない。
「紹介状はありますね、あ。ダンハウザーさんの紹介状ですね。すごいですね、お弟子さんですか」
 ダンハウザー。武道の達人。弟子はあまり取らないことで有名だ。ロギアの顔色も多少変わった。
 男が振り返ってロギアを見た。顔には、なにか言いたいことあるか? と書いてある。
「はい、これで書類審査のほうはOKです。お疲れ様です。労災にはちゃんと入っておいてくださいね。カイザーハデス軍さんは任意制なんで」
 目の細い男はよりもっと細くさせて、
「任意ってことは……知らないと万が一の場合労災おりないのか」
「はい、そうです。よくあるお話ですから。こちらにいらしてよかったですね」
「……ああ」
 だから師匠はしつこいぐらいに『デモンナイトよ、宇宙ハローワークに行くのだ』と騒いでいたわけだ。 デモンナイトはひどく落ち込んだ。
「……なんだそれは、なにかの冗談か」
 ロギアは呟く。
 ウオフ・マナフ、いいやインパクター星がきっちりしすぎているだけかもしれないが。ほぼ白紙状態の書類を提出しても保険は降りるわけで、給料明細から鬼のような天引きを食らっている。安心をとるか、金をとるかと。ここの軍隊では、選べる制度なだけだ。いや、単に面倒だから社員(兵隊)には伝えていないだけかもしれないが。
 知らないうちに勝手に架空で給料からネコババされている恐れもあるが。
「もしも不安なことがありましたら『働くことに関する悩み相談』もしていますからお気軽に相談してください。お話することが解決への第一歩ですよ」
 さすがワァク星人。ある意味ぶっ飛んでいる。
 ロギアはそっと自分の給料明細書を外套の内側で読んだ
「貴様はとっとと予防接種でもしていろ」
 男は、潔癖症のインパクターめ。給料明細が不安かとせせら笑う。
「……そんなお前は、意味不明の天引きされて赤い貧困にでも落ちるんだな。ちなみにウオフ・マナフは金払いはいい」
 男の額に明らかに定規で測れる高さの血管が浮いた。
「貴様、カイザーハデス軍を愚弄するのか」
「事実だろ。労災保険は任意だというのは。ウオフ・マナフ的にはどうなるかは知ったことではないが、インパクター星人としては、カイザー・ハデス軍という不透明な給料を出すところに労働力を提供する気はない……まあせいぜい、頑張ってあがくんだな」

 

 後に、インパクター・ロギアは星山という名前で地球に潜伏し、それとほぼ同時期にデモンナイトが地球に降り立った。二人がであったかどうかは、知る者はいない。



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