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番外 ××と水着。
じゅくじゅくじゅくじーーーーー。数年間のお喋りをたった数週間で語りつくすセミさんが、完全に堀口研究所の周りを取り囲んで大合唱している。あたまがボーっとして、セミたちにツッコミをいれる元気すらない。
真夏にクーラーのない自分のアパートにゃ寄り付かず、暑い日はもっぱらココに来て涼をとる天馬。
今日は、絶対厄日だ。
クーラーが壊れたのだ。最初はリモコンの電池が切れたと思ったが、どうも違う。一度電源抜いてやってみても、だんまりをきめている。で暑さでイラついた獅堂未加がつい、やってしまった‥‥らしい。弟の談話。とっくに保障期間は過ぎているので電気屋にできることといえば、数千円を客からせしめて廃棄するぐらい。
律儀で有能な獅堂剣が機械を取り外し、大学の一部屋を借りて分解して中身を見ている真っ最中。まあ、素人が(違うな単なるアレ)分解して中身をみてどれだけがんばれるかは謎である。
熱いなぁ‥‥。どういう訳かは知らないが、辰平が部屋の隅っこの床にジカに転がり(真夏のペット状態)誠は頭にタオルを巻いて、なにやらせっせと調べ物。仁はあいもかわらずソファーのひじ掛けに腰掛け、足を水の入ったバケツにつけている。で遠くで見たら頭に毛の生えた辰平状態の天馬が、バタバタとうちわで扇いでいる。
「うわぁ、世紀末の様相だなぁ、暑苦しいぃよ」
シャツをバタバタさせて、消滅寸前のアイスみたいにとろけている仁が呻いた。
「だったら、事務所にもどればいいだろぉがよっ」
天馬が、金持ちはとっとと消えろと一撃。
「だってさぁ、オレ。剣に用事頼んでいるんだもん、うちのパソコン調子悪くて。出来る範囲で治してもらおうかと」
「以下同文」
と誠も続ける。仁は、ゲっという顔をして、
「‥‥マックもどーにかできるのか、剣は」
「らしい。今の高校生は違うな」
「そゆの、違うと思うけどなぁ」
あいつが特別だと仁。
「おい辰平、生きてるかぁ」
返事はない。寝ているのかもしれない。
「辰平はなんのために来てんの」
「なんでも、パソコンのファンを使って、水槽用の扇風機を作るとの話をしていた」
「ふーん」
機械系はみんな剣に丸投げ。パソコンまでは理解がつくが、家電までどうにかできるあたり将来どこの会社でも、普通に生きていけるような気がしてしまう。というか初っ端から高給取りになりそうな雰囲気プンプンだ。
「そういえば、今この学校に直人が来ているらしいが」
「たまにくるじゃん、ココにさぁ」
バケツの水がぬるくなったなぁと、ぼやきながら仁。
「いや、この大学の格闘系の部活に呼ばれているらしい」
「事情通だね、誠」
興味ない話じゃない。なんで知ってんだよと仁が突っ込んだ。
「さっき学生が騒いでいた。それに豪から連絡があった‥‥あとで豪が来るらしい」
「ふーん」
ますます暑くなるなぁ。と仁がアクビをたれた。
窓の外からバシャバシャと水を撒いているような音と、男にしてはやたらとキーの高い悲鳴があがった。
「剣っ」
天馬が声の主に気がつき、慌てて部屋から出て行った。おぅおぅとロレツの回らない仁が裸足で追いかけた。
「びっくりしたよー天馬さん」
目の前に転がる黒い物体を指差して、あー心臓によくないと剣は胸を撫でている。
「これが、クーラーの故障の原因でした、お姉ちゃんが殴った部分は凹んじゃってどーしようもなかったけどね」
そっと天馬は指で突付くと、速攻うぁぁっと、情けない悲鳴を上げた。後でスラックスを膝上まで上げてオマケに裸足の仁が、なにだせぇ声上げているんだと言ってて二秒後にやっぱり、悲鳴をあげた。
「こ、コウモリじゃんっ」
コウモリの死体だった。
「うん、これが室外機のパイプの中に詰まってたんだよ、これでもう安心」
剣が、クーラー治ってよかったね、と微笑む。脇でギャーと悲鳴あげている仁。
「オレのデスクトップがぁぁっっ、けっ剣。お前なにするんだよぉぉ」
パソコンのケースを外し、ちょっとばらした状態でホースで水をかけている。横には誠のマッキントッシュのが同様に半壊して水をかけられるのを待っている。
「ああ、これ? 水洗い」
埃が落ちていいんだよと剣。ヘナヘナと泣き崩れる仁。
「いくら、型が古くなったっていって、出来る範囲で治してっていったけどさぁ、あんまりだぞぉぉ剣、オレに恨みでもあるのかよぉ」
平然とした顔で、
「素人さんは絶対にやってはだめだよ」
「誰がまねするかっ」
「これで、あとしっかり乾燥させて、少しメンテナンスすれば、治るから」
と、話しながら誠のマックにも水をかける。誠がみたらなんというかなぁ、と仁。卒倒するね、きっとと剣が呟いた。
おーい、お前ら。と声をかけられた。私服の豪だった。相変わらず服装のセンスは異次元だ。
「たるんでるぞ、仁」
速攻ダメダシ。豪は、結構厚着なのにも関わらず、額に汗すらない。さすがガテン。万年エアコンで温室育ちの仁とは全く体の構造が違うらしい。
暑いときにはだなぁ〜、とグチグチ説教が始まったので、仁は、知らん顔しながら、親指で耳栓した。完全にバカにしている。
「暑いときには、何したって熱いのっ、そのうえ部屋には女の子もいないっ、くぁっ日焼けしてでも九十九里だ湘南に繰り出すガキの気持ちがよーくわかる」
どっかに水着の女の子落ちていないかなぁっと呟く仁に、馬鹿者大学にそんな人はいないと変に生真面目な回答が豪から帰ってくる。
「それよりも、直人を知らないか」
「しらないよぉ、つかオレ様に直人の事を聞くなっ、ヤツは敵だ」
豪は、でかい声で『なにっ』と叫んでこういった。
「いつから、風のトライブと交戦状態になったんだっ」
「ちげーよ、この鈍感岩石脳っ、クソ真面目っ彼女なしっ」
「‥‥彼女なしは仁さんも、でしょ」
剣が笑っていると、速攻後頭部に張り手が飛んだ。禁止コードだ。獅堂姉が目撃していたら秤谷仁は、百万倍返しの刑にされていたことだろう。
「んぁ‥‥。あれ、なんだ」
天馬がジリジリに照り返しの眩しい道路を指差した。
「うひゃ」
剣の手からホースが落下し、じたばたと水が暴れている。
「‥‥あのさぁ、豪。頼みがあるんだけど。いーかな」
「なんだ、仁いってみろ」
「あの原始人に、羞恥心と一般常識教えてやれ」
天馬たちが指差す先には、試合用のトランクスに、裸足、上半身むき出しの直人が、肩にタオルを引っかけ、平然とこっちに歩いてくる。目撃した大学生たちは、携帯を取り出して直人に向けてボタンを連打している。
「しっ、知らないふりしろっ、ムシだ無視っ」
仁。
「むっ、無理だよ」
剣。
「あいつ、足の裏熱くないのか」
と天馬。論点がすれている。
豪は、なにか怒鳴りながら直人に向かって全力疾走していた。
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