即席セイザー小説。かなり短い読みきり文書。 戻る

番外  ××と柔軟剤


 どこをどう搾り出すと、コイツが暇で金が余っているのかと思ってしまう。海焼けしていい感じで肌が照り焼きのように焼けている。ついでに坊主頭と無精ひげの手助けもあり、警察とは先天的に仲が悪そうな人相に化けあがっている。香辛料としての派手なアロハも効いている。
「とある事情で、ハワイ行きのチケット貰ったんです」
 なんだという、あはあはと笑う辰平。
「で、ハワイで波乗り。豪勢ね」
 涼子は日焼けしすぎて今にも皮がむけそうな二の腕をじっとみて、日焼け止めぐらい塗りなさいよと辰平に注意した。
「今月、ちゃんとご飯食べられるの? 辰平」
 愛は、『おばさんに電話して、食べ物の援助とかするんじゃないでしょうね』と辰平を睨む。小さく「まあ、なんとか」と呟く返事。
「おなかへっても、飼っている魚食べちゃだめだよ」
と剣。最悪、食べられなかったりしたらココに来ればと研究所の床に指差した。後ろで堀口博士が「養いきれん」と言い切った。
「ああ、そうそうお土産です」
 ぽんと手を叩き、持参したスポーツバッグを漁る。
「え、なに。ヴィトン、シャネル?」
 目を輝かせる愛に、辰平じゃ無理よと涼子。
「どーせ、チョコレートでしょ」
 見透かしている剣。
 どっさりと、きっちり畳まれていない布がテーブルに山を築いた。
「なにこれ」
剣と愛。
「アロハシャツです」
「なんで、こうも畳まれてないのよ。辰平アンタまさか」
「げ、万引きとかって思ってますかっ涼子さんっ、ち違うっスよ」
 そんなことは、小学生のときに練り消しをもってきちっゃたのが最後です。と聞いてもいないのに、自分の罪歴を口走る。
「地元のサーファーなおっさんと勝負して、その賞品として『じいさんが着たので悪いけど』ってことで、貰いました」
「賞品にしては、ずいぶんな扱いね」
 面白くないらしく、指で服を引っかけてフーンと涼子。
「我が家には、アイロンないんですよ、慌てて持ってきたんで勘弁してください」
「ブレーカーが落ちるんだって」
と剣が補足した。
「今、着ているのも巻き上げたアロハの一枚です」
 じゃーんと、一回転してみる。ファッションチェックもなにも、毎度のスタイルなんで反応は薄い。
「ところで、辰平はその賭け事に、なにを賭けたの」
 まさか、お金じゃないでしょうねと愛が腰に手を当てた。
「予備のボード」
「それって、釣り合っているの?」
 剣が、古着とボードって、どーなのかなぁと考え込んだ。
 ノックもなしに、やっほーと手を上げて仁が部屋に入ってきた。ちなみに今日はなんの寄り合いでもない。
「わ、お揃いで。涼子さーんっ」
「はいはい」
 涼子は適当に返事を返す。
「ありゃありゃ。今日はどんな集まりよ、これ」
「オレがハワイに行ってきて、そのお土産を持ってきたところっス」
「ひっヒマだねぇ。つか、金あんのかよお前。どーせチョコでしょ」
「‥‥アロハシャツだって」
 剣が、ほらこれと一枚摘んで自分の体にあてがう。
「まった、派手だねぇ。誰が着るのよぉ」
 違った次元で派手好きの仁がいってもなんにも説得力とかが沸いて出ない。
「涼子さんや、愛が着るの、コレ‥‥」
 ダメでしょとか言って一枚引き抜いて、ん? と考え込んで、マジかよと独り言した。
「‥‥辰平、これどーした」
 戦闘中でもしないだろう強い眼力で食い入るように服の内側やらボタンを丹念に見ている。
「地元のオヤジとサーフィン勝負して、んで『じいさんが着たので悪いけど』っていうことで」
「‥‥太っ腹だねぇ、そのオヤジ」
「へ?」
「そのお前が今、着ているのもそのオヤジから巻き上げたってのか」
「着心地けっこういいっスよ」
「もしかして、フツーに着ているとか言わない‥‥よな」
「ふつーに着てます」
「洗濯は?」
「自分で、フロ入ったときに石鹸で洗ってるっす」
 俯く仁。金髪のメッシュがプルプルしている。
「アホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 絶叫だった。
 ぽかーんと固まる、辰平と剣。奥のほうでうるさいぞと、博士が文句を飛ばした。
「てめーはアホかっ、これビンテージアロハだっ!! いくらすると思ってんだっっっ」
「へ? ただの古着じゃないんすか」
「このボタン、貝で出来てるだろ、それにこの生地。浴衣や着物の生地だ。お前はホントにアロハ好きかよ」
「え、オレは単にアロハだったらなんでもいいんで‥‥ねぇ」
「ちなみに、仁さんこれって総額いくらになるの?」
 剣が恐る恐る聞いてきた。
「‥‥ドンブリ勘定で、百万‥‥以上かな」
 研究室の人間にはレジの効果音が自動的に脳内に木霊した。
「わ、悪い冗談だよね、仁さん」
「それでメシ食ってるのに、嘘ついてどーするよ」
 呆れ顔で仁は自分の前髪をいじった。
「わ、わたし要らないよ。辰平。だって持っているのが怖くなるし」
 愛が、どう管理していいのか分からないと、言葉を蕾ます。
「私も。第一アロハ着ないし」
 と涼子が手を上げた。ボクもと剣が続く。
「ま、本気で金がなくなったら売れば。その前に管理法を後で教えてやっからオレ様がタダで」
 コソコソっと堀口博士が仁の耳元でいった。
「仁、ところでどれが一番高いだ」
「いま、辰平が着ているヤツ」
 案外、見る目あるんじゃなーいと、仁は気だるげにいった。
 目の輝く堀口博士が、辰平ににじり寄り、
「ワシは、お前の着ているそれがほしい。もらえるかな」
といった。
 ええーっと、困りジワで顔をゆがませる辰平。
「辰平、脱げ」
 さあ、よこせと迫る博士。
 博士が着たら、ガラが悪く見えるよ、と剣が呟いた。


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