即席セイザー小説。かなり短い読みきり文書。 戻る

番外  コンビニ前


 正直、獅堂剣は固まった。
 もしも、この現場になにかと茶々を入れたがる秤谷仁がいたら、速攻「さいなら」とかいってクルマをUターンさせ帰るだろう。
 こんなに変なメンツがコンビニにタムロしている図もそうそういない。
 今日は、反町誠の写真展に行こうと企画。無論情報の出所は三上辰平と魚住愛。
『あいつは、自分のことあんまり宣伝しないから。‥‥あ、そうそう楽しい写真、飾ってありますよ』
 とか、辰平はいっていた。仲間ぐらいには、ちゃんと自分の仕事くらいアピールしたってバチは当たらないはずだ。頼んでもいないのに仁は自分のショーの券持ってくるし(後々分かったことだけど、アノ人のショーのチケットを持っているっていうことだけで尊敬された。どういう外面なんだ、アノ人は)辰平もたまに、タダ券‥‥とまでは行かないが、勤務先水族館の割引券をくれる。
 写真展から程近いコンビニで待ち合わせになったわけなんだが。
 なんなんでしょう。この仏滅と友引と厄年と13日の金曜日が一緒になってミキサーにかけられ、納豆とキムチとドリアンと、爆発寸前の古い魚の缶詰の中身を加えたみたいな雰囲気は。
 いい年した三人の男が店先でソフトクリームを食べている。ただそれだけのことなんだけど‥‥ねぇ。
 チョコレートのソフトクリームをほぼ三口でフィニッシュして、隣の人のミックスソフトを確実に狙っている松坂直人。ドカチャン焼けしている肌に黒いタンクトップ。これで麦わら帽子と虫取り網、虫かごを装備させれば、速攻小学生に逆戻りしそうだ。というか脳内構造は限りなく無口な人見知りの激しい小学生だけど。
 うっせえ、誰が食わせるかよと、隣で狙っている直人に早速因縁つけている弓道天馬。この人が自腹を切ってこのソフトクリームを手にしていれば確実に、誰にも食わせないだろう。コンビニで無駄な買い物が出来ないくらいトキタマ切迫にキリキリな時がある。
 で、この人だ。ああなんか見ちゃいけないものを見たなぁと、剣は空気だけ吐く悲鳴を上げた。
 バニラ・ソフトクリームをむっつりと舐めている、伝通院洸。直人と天馬と洸の間には、目には見えない日本海溝でもあるのだろうか。二人は全然相手にもしない。この暑い最中に平気でウールの分量が多いジャケットを着て汗もかかないあたりすでに妖怪じみている。
 というか、確実にまだ来ていない警官・神谷から、
「お前ら、いい歳してコンビニでタムロしているな、馬鹿者」
と律儀に説教されるだろう。
 獅堂剣はしばらくこの大人たちを観察することにした。

 


「ところでさー、誠の写真展ってなにしてんの」
「写真が飾ってある」
「んなの分かってるよ、んだよ洸オレのことバカにしてるだろ」
「‥‥バカなんだろ」
「んだよ、直人に言われた、超腹たつっ」
「ところで、誠ってなに写真家? グラビア専門とか、風景写真とかあるじゃんさ」
「‥‥猫」
「うそをつくな直人」
「‥‥撮ってたぞ、この間。猫」
「写真家って、グラビアアイドルとか写真撮ったりして、なんか美味しくないか」
「‥‥どこがだ」
「女の子と知り合えて」
「‥‥そんなことか」
「たしかに」
「んだよ、くそっ。いいよなぁ二人は、黙っていても女の子できるしさぁー。世の中ってどーかしてるぜ」
「年中、女の尻を追いかけている人間なら、私は知っている」
「うわ、露骨に嫌なこというね、洸。だれがどー聞いても仁のことじゃん、それって」
「私は、固有名詞を出していない。よく、飽きないというか、懲りないなと思う」
「ひでぇ。涼子もモテて大変だなぁ」
 涼子の名前が出て、直人の動きが止まった。なにか心に引っかかるものがあると、顔に書いてある。
 そいや、最近。秤谷仁、雨宮涼子、松坂直人の三すくみのトライブを結成していたりする。なんとも、心持穏やかではない空気が漂う。
 仁さん→熱狂的追っかけ
 辰平さん→尊敬している
 直人さん→威圧されている
 ‥‥確実にグランセイザー食物連鎖のピラミッドの頂点に君臨している涼子さん。あれだけ色々凄い女性だ。もてても仕方のない話だけど。剣は凄い縮図のなかで僕たち生活してんだなぁと、独り言。まあ美人だから仕方ないけどね。
「なにしているんだ、剣」
 後から呼ばれた。遅れてきた豪だ。相変わらず服装のセンスは迷宮入りしている。
「ボクも今きたところで」
 剣の発言を全部聞くことなく素通りし、思っていた通りのセリフとアクションをコンビニ前で繰り広げている。これは、個展会場にたどり着くのが遅くなりそうだと剣は、騒がしく口論をしている四人にむかって、大人って‥‥と呟いた。

 


「なんというか、これ見よがし‥‥だよね」
 どーんと、立派な花にしっかりと「秤谷仁」と立て札をおったてている。本人の性格や性質をどけて置いても社会的お約束は絶対に外さない良識人な彼だ。というか、端的にからかっているとも思えてしまう。
 入り口付近で、いらっしゃいませ、なんて挨拶して「げ、お前らか」と露骨に顔をゆがませた。今日のためだろうかいつもの服ではなく、限りなくスーツに近いジャケットを身に着けて別人みたいに見えてしまう。
 伝通院洸をのぞいた全員が、恐ろしくラフ(一部迷宮入り)な格好だ。開催している場所のせいだろうか、仕事帰りのOLやサラリーマンが客の全てだった。剣は、どじったなぁと呟く。
 知らないうちに誠の背後に忍び寄り、ジャケットの襟の部分を引っ張って、
「あ、仁のブランドだ」
と天馬。誠は振り払いながら、眉間にしわを寄せつつ耳まで真っ赤になった。
「買わされたんだろー、お前」
 この顔つきを見る限り、10割事実だろう。
「‥‥ところでさぁ、誠さん」
「なんだ剣」
 言葉の端はしにブレスがはいった。
「これって、なに」
 仁の花なんかより半分くらいのサイズだが、見栄えのする花にこう書かれてあった。
『東亜大学 堀口研究所内 星座倶楽部』
 どういう会なんだろう。と首をひねる五人に対して誠は、
「それは涼子から来た祝いの花だ。11人全員からのお祝いだと電報までくれた」
 受付においてある、キティの電報ぬいぐるみ。さすが我らがリーダーと感服する剣。
「なんか、こう書くと天文マニアの会って感じしない?」
「たしかに直接書けないからな、我々の関係は」
「‥‥いいんじゃないか、直接でも」
「ダメに決まっているだろ、直人」
 あくまでも隠密だ、と唇に人差し指をあてる豪に、面倒だと直人。
「そんなところで油売ってないでさ、早く見ようよ」
「‥‥そうだな」
 直人がさあ、写真を見るぞ、と言いかけたときOL風の女性がソソとやってきて、
「松坂直人さんですよね、握手してください」
「‥‥ああ」
「モデルもなさっているんですね‥‥皆さん」
 状況が読めず、直人を初めとする五人は固まってしまった。見回しても誠の姿は見えない。
「は、はいっ」
 まあとりあえず返事を返しておこうと剣が、女ウケしそうな笑みをOLに返す。彼女は、頑張ってくださいねといって、去っていった。
 一体何のことだろうか。そのとき辰平のいった『楽しい写真』の言葉がどこかに引っかかった。

「‥‥やっぱり、猫だ」
 ほら見ろ俺の言うとおりだと、直人は天馬の背中に拳をグリグリ押し当てた。
「んだ、えっちな写真ないじゃん。つまんねー」
「天馬さん、なに期待してたの」
 恥ずかしいと剣は、天馬に声を小さくして喋ってよねと遠まわしに注意する。
 風景写真が多く、その風景もどこか荒涼としていて寒々しい。撮影年月日を確認すると知り合う前の数字だった。たまに三上辰平らから間接的に聞く戦場カメラマンだった時期なのだろう。瓦礫と風の吹く方向のままに伸びた木々。銃痕残る建物のなかで無邪気に転がる猫や、遊びまわる子供。ドキュメント性が強い写真。
「真面目に仕事しているんだな誠は」
 感心しきった様子の豪。
 写真のなかの人物に、タマネギおばさんが混じっていても違和感のない構図。何かを期待していた天馬はすでに飽きはじめている。
 セパレーターで区切られたコーナーで、一同は硬直した。
「これだったんだ」
 辰平のいっていた変なセリフに、急に消えた誠の姿。

連作・職業

 バイク便の伝票を確認する天馬。
 車椅子を押す愛。
 渓流の真ん中に立つ直人。
 ダンスの練習をしている蘭。
 口に安全ピンを挟み、衣装の微調整をする仁。
 病院の庭で患者と談笑する洸。
 イルカと対じする辰平。
 自転車に乗る豪。
 生徒たちと、エアロビをしている涼子。
 発掘作業をしている堀口博士と獅堂兄弟。


 各々の記憶の端はしに、たしかにカメラを持った誠の姿があった。カメラは使い捨てだったり、デジカメだったりと本業用の道具を使っていないことが多かった。
 誠はいつも何らかの形でカメラを持っている。でときたま撮っている。そういう風景が日常的になり、こちらも慣れっこで色々油断をしていた。
 写真展を訪れた人達が、ヒソヒソと話している。写真と同じ服装でいる直人はよく目立った。
「あいつ、断りもなしにこんなものを」
 明日からどうしようと、困り果てた顔の豪。
「べつにいいんじゃないの、よく撮れているじゃない」
 どうして困るのさと剣。
「さすが、パパラッチ」
 隠し撮りかよっと天馬がツッコミ。
「というか、やっぱり誠さんってプロのカメラマンなんだね。だって使い捨てとかデジカメでこうきれいに撮れちゃうんだから」
「たしかに」
 洸が頷く。
 手近に合った過去に出版された誠の写真集を見つつ剣はいった。
「今までの誠さんではなくなったのは、事実だね。きっとこれから新しい誠さんになるんだよ」
「でもよぉ、出演料ってどーなるんだぁ」
 と勝手なことをいっている天馬に、微妙に頷く4人であった。



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