即席セイザー小説。かなり短い読みきり文書。 戻る

番外 黒ィ色、郵送物。

 

 毎日新聞がやってきて、一面をみて、テレビ欄をみてビデオチェック。
 くだらないバラエティの色漂うやかましい朝のテレビを見ながら、コーヒーとトーストが仕上がるのを待つ。ケータイのメールをチェックしつつ平らげ、デザートはバナナ一本。 ずいぶんと落ち着いた生活になったもんだと、壁に引っかけたコルクパネルを見た。数年の前から刺してある予定表と海外に出るたびに書いた遺書。これは加賀さんからの受け売りだ。身辺整理はちゃんとしろといわれ続けて、この生活だったが、一連の宇宙からやってきた馬鹿どもで生活が激変。
 ……戦場のど真ん中で十字射撃くらい同行していた兵士たちがバタバタ倒れ、にわかに拵えた塹壕には俺一人だけが取り残された。武器も持たず、落ちている武器には弾もなく、障子紙に豆を落としたような軽い音が頭上を通過する。ああ、死ぬな俺。そう漠然とした不安のなかで、青い光が弾けた。死ぬな生きろ、記憶の底に染み付いた昔馴染みな声で、そう語りかけてきた何者からの声。気がついたら……青い鮫になっていた。で……生き残って日本に帰れた。
 あの時の生活が人生の標準で、今のバナナ食いながら通販のチラシを見て笑うのは異常なのではないかとたまに思う。
 今現在もフリーカメラマンの肩書きに偽りはないが固定客がついた。一人は大口だか半分ボランティアみたいなものだ。デザイナーの秤谷仁。ある意味、同僚。仕事は真面目なのだがスケジュール的にむらっ気があり(締め切りは守る)他の仕事とバッティングすると地獄を見る。食べ物写真と衣装関係は拘束時間が半端ではない。アイツの言う、
「オマエに任せたっ」
の言葉が一番危険だ。任せてもらった試がない。デジカメも併用しているのでダメダシは即座に入る。すぐ見られる分、突っ込みも早い。
 あと一人、モデルになった早乙女蘭。これもある意味、同僚。カメラマンの指定は絶対確実でこっちにくる。仕事自体の時間は短いが、移動時間が長い。遠路はるばる海へ山へとお出かけ。蘭のケータイに入ってくる剣からのメールはいつも、
「まーた誠さんと一緒なの?」
だ。蘭にはその気はない。俺にはもっとない。まぁ剣は知っているからいいのだが。
 郵便桶から鈍い音がした。朝も早いうちに郵便物。
 やたらと丸々太った封筒。茶封筒なのに手触りがフカフカしていて気持ちが悪い。筆書きで住所が書いてあり、昨日降った雨のせいだろうか、所々文字が滲んだり伸びたりしている。裏書をみた。名前がない。切手は貼ってあり消印は押してあるが雨跡が邪魔をしている。一応、郵政省は通過しているようだ。日差しに透かすと短冊状の手紙らしきものと、なにか飴玉の袋を模したような奇妙な影が見える。リード線はないようだ。耳に当てる、変な音もしない。
 放置しているのも気持ちが悪いので、開けてみた。
 封筒にハサミを入れ、逆さまにして机の上に撒いた。落ちてきたのはキャンディーの形をしたラッピングしたなにか、それと短冊形の和風便箋、鉛筆書きな女の文字。


『前略、お久しぶりです。お元気ですか。毎日寒い日が続きますが、私の愛のこもった手作りチョコで頑張ってください。 かしこ』


 ……。
 思い当たりそうな人物全てからチョコを貰ったので、該当者が記憶の中にも見つからない。涼子からは、義理なくせして高いチョコを2粒もらった。未加は力いっぱい「義理よ義理」本気で義理と人情が籠もってそうな厚い板チョコを突きつけられ、愛は相変わらずおどおど気味で水色の紙とリボンに包まれたのを貰い、蘭からはあきらかに本人の嗜好が分かるど派手なラッピング用紙に撒かれた手作りの生チョコとクッキー受け取った。他は出版社の女性社員から皆と一緒な物を横並びに。以上俺のバレンタインデー終了。
 これは、なんなんだ。
 もう一度日に透かし、怪しい線がないかと確認してラッピング用紙をリボンの部分からハサミを入れる。
 乾いた音と一緒に転がった市販のチョコレート。しかも、お徳用の袋ものをばらしたものだ。便箋を見た。手作りという言葉に偽りあり。ご丁寧に90円と80円の切手を貼って送りつけるような品物ではない。
 昔の女……。新しい住所は知らないはずだ。ついでに付き合っても、一年も続かなかった。
 加賀さんの彼女。……加賀さんが行方知れずになって探しているのであれば、そう書くだろう、それに明らかに筆跡が違う。まてよ、彼女もこの住所は知らない。郵便局での転送先は、報道関係の事務所になっているから、こちらに流れてくることは考えられない。
 飲み屋の女の子に名刺なんて渡したこともない。
 ……ファン?
 ……嫌がらせ?
 後者であれば、思い当たりそうなネタは掃いて捨てるほどあがる。
 お得チョコを見た。……朝のさわやかな空気が、秒単位でワーストクラスの一級河川並みによどんでくる。眉間付近で渦巻く疑問。
『ざんね〜んっ今日のさそり座の皆さん。お友だちのいうことは、聞こうね♪』
 朝の脳天気な占いの声がやたらと耳に染み付いた。
 あいつらか?
 考えてみよう。
 松坂直人。住所は確実に覚えていない。渡したが絶対なくしている。前略なんて書かない。明らかに筆跡が異なる。鉛筆なんて持たせたら、便箋に穴が開く。
 神谷豪。住所は知っている。あのクソ真面目はこういうことはしない。
 伝通院洸。問題外。
 秤谷仁。ふざけてやりそうだが、今は忙しくてそれどころではない。宛名が筆書き。ありえない。
 三上辰平。筆書きはありえるが、便箋まで筆書きにするだろう。筆跡が異なる。昔のバイトの癖で書体がPOP調になる。
 弓道天馬。切手が新品。かつ、切手代なぞに170円自腹切るとは考えられない。
 獅堂剣。……ダークホース。だが、受験シーズン。ありえない。
 御園木篤司。当時もっとも恨みを買っていただろうと思われる人物。自分の手は汚さないだろう。
 沖田総一郎。この人も散々怒らせた。


 ……。まさか、国防省?
 灰色の疑惑だけで頭痛がする。
 もしも続くようであれば引っ越そう。
 そう、反町誠は本気で考えた。


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