即席セイザー小説。かなり短い読みきり文書。 戻る

番外 箱売り

 

 救急隊員は医療関係者のなかでも最もご苦労が耐えない職種だ。真っ先に患者を診る、状況の確認、使用アイテムがあればアイテムの確保、わめく人たちなだめ、重たい機材も人も出し入れは毎日だ。いつもランニング状態。いやむしろ伝言競争+トライアスロンだ。
 男女問わず隊員は腹が減っていることが多い。病院側も彼らをねぎらいのため詰め所にはカップラーメンをダンボールごと(ダンボールの封が開いているのがマナー。そうじゃないと気兼ねがしてしまって隊員は食べてはくれないのだ)ドンっと置いてある。その他スナック菓子、飲み物もダンボールで無造作に並べている。あまり小奇麗においているとやはり色々かんぐられるので「心づけ」程度にするのが、マナーである。

 

 親指一つでひねりを加えアルミの上ブタを跳ね飛ばし、一気に飲み込んでため息ついて首をぐるぐる回し伸びをした。
「あ〜あ。おっさん、くさーぁ」
 ドリンク剤飲んでストレッチしている反町誠をぼーっと眺めていた秤谷仁がぼやく。
 オフ日が重なり、
『食事でもするか』と伝通院洸から言い出した。仁は即座に『やばい隕石降る、クラウドドラゴンに予約入れとけ』とかいっていた。誠は二言返事を返す。仁から『顔にタダメシって書いてあるぞ』と指摘を受けた。まぁ、そういう理由で京南病院の職員用の詰め所で待っているわけだ。で、手近にダンボールが破壊されているドリンク剤を発見、誠が手を出したわけだ。
 一歳年下? の反町の主食? はドリンク剤。一歳年上? の秤谷はサプリメントが主食。どっちもどっちだ。12人のうち不健康のトップ争いはこの二人だ。番外で弓道天馬が金欠のときにのみゴボウ抜きしてヘタれることもあるが、エサさえ与えれば即時に復活の呪文が可能だ。
 万年不健康は、ほぼ決まっているも当然である。腐ってもギョーカイ人。
 炎の連中はいかんせ若い、それ重要。
 大地の面々、体力勝負。筋トレが商売、チャリンコが足、寒い日でも水着着用、気合で鳥肌をとめることが出来る女の子。
 涼子はいろんな意味で強い。伝通院の場合はいろんな意味で規格外。
 愛はいつも気を張ってどうにかしている万年ガマンタイプ。爆発時が怖いが、戦闘は弱いが普段はそうでもない。辰平は仕事が趣味になったようなヤツ。泣き言なんか言わない。いえるわけがない。
 趣味が職業な誠と仁。仕事は三度のメシよりも大好きだが。いかんせ性格、態度にウソがつけないタイプ(もちろん業務時にはシフトチェンジしている)一度「完全オフ」となるとガタガタっと……くる。どーにか、一般生活が可能な状態にするために、シロップカフェインと粒々の御世話にならなくてはいけないのだ。
「ちゅかさー、勝手に備品に手ぇー出したらダメだろう」
 誠がテーブルに置いてあるドリンク剤をもう一本開封した。
「病院の食べ物は洸のものだろう、だからいいんだ」
「ココは個人病院ちがうぞ、あーあしらねー」
 そういいながら仁が横に来て一本かっさらった。
「人のことそういっておいて、なんだその態度は」
「別に……ああ、この全身に駆け巡る安堵感……コレ発明した人に感謝状贈りたいねぇ」「オヤジが!!!」
「コメント・バ〜リヤー」
 ゴンゴンとでかい音で誰かが壁を叩いた。眉間に一本シワのよった伝通院洸が白衣姿で不機嫌気味に立っていた。
「仁、誠」
「よう、お帰り」
「……勝手に備品を飲み食いされても困るんだがな……」
「ほら、誠。やっぱマズイって言ったじゃんさぁ」
「オマエもしっかり飲んでるじゃねーか」
「えー病院のものは洸のものっていって最初に飲んだのソッチじゃねーぇか」
「……買ってこい」
「って病院のキオスクか?」
「違う、ドラッグストアもしくは量販店」
「なんで」
「病院は、私のものではない。この備品は救急隊員用のものだ。今買って来いすぐに行け」
 降り抜いた右腕で白衣の裾が翻った。
 あーこりゃ怒っているな、やばいなと仁は読み取り誠の背中を押して、
「はいはい、いま買ってきまーす」
と外に出た。

 

 うげぇと、仁は呻いた。
「なんで神聖な助手席にオマエが乗り込んでくるんだよ」
「神聖もクソもあるか。このクルマが二人乗りなのが悪い」
「かわいいS2000ちゃんの悪口いうな、てめーはバイクで追っかけて来い」
「バイクで買い物が出来るかっ、箱買いだぞ」
「しるかよ」
「仁が一人で行けばいいだろ」
「うわー、先に飲み食いしたのは誠だろ。ひでーなぁ」
 ブツブツ文句をいいながらもクルマ飛ばして街道沿いのドラッグストアに横付け。
 入り口付近にドンと積んであるドリンク剤のセット売りを両手に掴みのしのしとレジに運ぶ誠。かごを使えよと愚痴たれる仁。
 物がビンだ。中身は液体。量が増えるとかなりの重量。飲んだ本数が二人勘定で4〜5本だが、あの洸の剣幕加減からすると、数ダース買わないと危険そうだ。
「んかさー、とぉっても体力に困ってそうな雰囲気してない? このお買い物」
 まとめ買いするけどさぁ、ココまでってのないよねと仁。
「するな」
 レジに運ぶ姿みて店員が
「御土産ですか?」
と声をかけてきた。
「ははは」
 二人は脱力加減に笑う。どんな土産なんだ、そりゃ。
「で、どっち持ちさ、コレって」
「ワリカンだろ」
「ワリカンってさ……二人だけなんですけど……ねぇ」

 

 どっさりと買い付けてきたドリンク剤の箱を洸は、倉庫番のバイトのように無造作に積んでいった。無断で飲むのはコーヒーぐらいにしてくれと怒られた。

 

「ところで、洸聞いていい?」
「なにをだ」
 気まずい食事会だ。よくよく考えても見れば最初にメシ食おうって言い出したのは伝通院洸である。一人で鍋食うのも味気ないとか気持ちの悪いことを言い出した。やっぱり隕石でも落ちてきそうだ。目の前でグラグラいっているお店用水炊きの匂いが胸にきた。
「洸でもドリンク剤とか飲むのぉかぁ」
「年に数回、長時間の手術の前とかには飲む」
「手術の前ねぇ……そいやドカ食いとかして大丈夫なのかよ、トイレとか」
「基本的に手術は短いのにこしたことがない。不測の事態が発生したら誰かと交代すればいいだけだ……出たり入ったりの手順が面倒ではあるがな」
「ああ、手洗いか。愛に話は聞いたことがあるな、それ」
「基本的に数人必要だからな。誰かが着付け作業などで巻き添えになる。そんな落ち度は私はしない」
「巻き添えねぇ……看護婦さんは大変だぁ」
「愛は大丈夫か、ちゃんと仕事しているか」
「まるでお父さんのよーだ」
「うるさいっ」
「魚住君……最近板に付いたようだ」
「仕事が」
「立ち寝」
 洸のみが箸をつける鍋の音がなにかでかき消された。
「……そろそろ春だから。なにかと大変なんだろう魚住君。夜勤明けの看護士がたまに陥るのだ、だからむやみに院内の売店でドリンク剤のまとめ買いはしてはいけないのだ」
 何事もなかったかのように食事する洸だった。


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