即席セイザーX小説。 戻る

それが、それだと分かるとき。


 母、春子曰く、ここに引っ越してきて以来の大掃除となるらしい。
「いったいどんだけサボっていたんだよ」
 と息子の拓人が突っ込んだが母は、問答無用にハタキで顔面をはたいた。
「はい、とっとと働く、動く」



 バケツとか雑巾とかをあてがわれて、改めてゲンナリする。
 はい、宇宙海賊との戦いに勝ちました。コスモカプセルも残りわずか、まあゆっくり探しましょうや。んでだ。あの義理と人情にやたらと厚いケインが「お掃除手伝うよ、だってボク居候だし、ちゃんとお手伝いしなきゃね」なんていうし、時期がだ年末の大掃除とカブってだ、勝利の喜びでウハウハして男三人が円陣組んでオーっていったはいいが……。
 しんどい。マジしんどい。いや、なにがって、時給も日給も発生しないし。テンション下がる。だんだん下がる。人が多いのをいいことに、いつもやらない場所まで掃除させられる始末。
「いやー、男の子がたくさんいるといいねー」
と、母。労働力に満足している模様。
「お兄ちゃん、まさかバイトしたほうがいいなんて、思ってない?」
 由衣には完全に見透かされている。
「んなわけねーだろっ」
「どーだか」
 兄は信用なりませんって目でコッチを見ている。
「だめだよ、たっくん。お家のお手伝いはちゃんとしなきゃ」
「してるだろう今っ」
「物は大事に使わないとだめだよ、ちゃんとキレイにしてあげたり、修理すれば長く使えるんだから。あ、たっくんその古いシャツ、雑巾だから捨てちゃダメだよ。それに春子母さんのはいていた薄い靴下は、ゴミを取るのにいいからあとでまとめて箒にするから。新聞紙も少し取っておいてね、窓拭いたり湿らせて床に撒いて掃き掃除につかうから」
「お前はドケチ主婦かっ、つかなんなんだ、その家事の無駄知識ぶりは」
「だって、春子母さんの手伝いしてるもん」
 なに顔見合わせて、ねー♪ してるんだ。

 改めて考えてみると、ケインが自分よりも長く安藤家にいることに気がついた。
 由衣は学校、自分はバイト。レミーは基本的には俺がいないとこない。アドは由衣が苦手で(いや、単に人が苦手なのだろう)艦から出てこない。ついでに呼んでもなかなかでてこない。メシに呼んでやってるんだから、きやがれってんだ。
 定期任務を外しても、一番ながくいるのは、やっぱりケインになる。
 戦艦の修理をし、じーちゃんと一緒になにか物を作っていたりしているのだから。気がよくて人懐っこいケインが、ただ黙ってメシ食って、風呂入って、寝るとは確かに考えられない。
 で、気がついたら……主夫かよっっ。
 ちっょとまて、虫型ヒーロー。
「だって。タダでゴハンだべさせてもらってるんだもの、することしないとバチあたるよ」
 バチって……あーた。歳いくつだよ。
 ……レミーの話では18歳。でもこーみえても立派な、筋金入りの宇宙人。18というのが、地球人のそれに照らし合わせて、果たしてイコールなのか、わかりゃしない。
「ちなみに、どんなバチなんだよ」
「……しりたい?」
「ああ、ちょっとな」
 なに、その怖くて爽やかな笑顔。
「ラディ星では、ちゃんと、お家のお手伝いしない悪い子は、崖から突き落とされちゃうんだよ」
 母、春子が固まり、由衣が「え」に濁点がついた声を発して、眉間をへこませた。
「火サスかよっ!!!」
「死んじゃうじゃんっ」
「へーきへーき。ラディ星の人高いところから落ちても平気だからー」
 ……。
 さすが宇宙人。
「地球ではどうするの、悪いことすると」
「……尻を叩くとか?」
 ほうき持っていたアドが怪訝な顔してコッチを見ている。
「俺の星で、それやると大変なことになるぞ」
「え、なんなんだよ、教えろよ」
「……」
「……沈黙かよっ」
「ぐ、軍事機密だ、それだけはダメなんだ、聞くな」
「だったら、話しかけんなよ、気になるじゃねーかっ」
 レミー曰く、この時代に来る前にある程度はシャーク隊長作成の資料とやらに目を通して勉強はしているらしいが、この未来から来たご一行様は服装同様、世間様になじむ、潜むってことが苦手らしい。
「ケインくん、ちょっと、悪いけどお買い物してきてくれる?」
「はーい」
 手を上げて返事を返し、ケインはメモ書きと、買い物かごを受け取った。
 メモを見て、首をひねってセイザーパッドを取り出して、なにやらピコピコ始めた。
「ふーん。地球の文化って変わってるんだねー。春子母さん、ちょっと借りるね」
 なぜか、新聞紙をまとめようとしていたビニール紐を切るためのハサミを拝借して、てくてくアドに近づいた。
「アド、手かして、買わずにすむんだ。お金は大事に使わなきゃ」
「なにするんだ」
「だって、必要なんだもん」
 ケインが、アドにハサミ突きつけて、危なっかしくドタバタやってる。
「このバカ、なにをするんだ!」
「まーまーじーっとしててよ、なにもしないよ」
「だったら、なんだその刃物は」
 なに、この昼メロ。
「はい、買わずに済んだよ」
 勝ち誇ったかのような顔しているケインが母の手のひらに何かを乗っけた。
「なに、これ?」
「鷹の爪」
「え?」
 どこからみても、人類。庭掃除している人類型宇宙人のアドの爪の先だった。
 母と、妹と、二秒送れて俺は、ぶんぶん首を横に振った。
「ちがうの??」
「ちげーよっ」
「だって、鷹って、イーグルでしょ。……アドじゃないの?」
「アド食ってどーするんだよっ」
「あたし、アドさんたべたいー」
「食うな由衣、腹壊す」
「なんだと」
「お前、絶対食うな、つか妹に近寄るなアドっ」
「言われるまでもない」
「えー」
 たしかに、セイザーパッドには『タカ=イーグル』と表記されていた。
「あのね、タカの爪ってのは唐辛子のことで……調味料なの。ごめん由衣、買ってきて」
「めんどくさー」
 さすがの由衣でも、今後なに買ってくるか分かったものではないケインを、そのまま使いに出す恐ろしさがすぐに分かったらしく、さっさと行ってしまった。
「ボクもお買い物行きたかったなー」
 あーあと言いながら、ケインは由衣の背中を寂しそうに見ている。
 ケインのお買い物は、まだ少し遠そうだ。




 掃除の終わった頃にレミーが現れた。
 ……まさか、戦艦から様子をうかがっていたとかじゃないだろうな。
「えらいね、たっくんお家のお手伝い?」
「つか、アドもケインも一緒だよ」
「えらい、えらい」
 ガキかよっと、心のなかで突っ込んだ。
「ただいまー」
 由衣が帰ってきた。なんか、やたらでかい袋をさげている。
「なにそれ」
「お母さん。福引するの忘れてたでしょ、やってきちゃった。で5等あたったの」
「すごいじゃん。ハワイ旅行?、カニ? 肉? メロン?」
「5等だよ、そんないーもの当たるわけないじゃん。バカじゃないのお兄ちゃん」
「んだとーーー」
 側面に力いっぱい『お楽しみ袋』と嫌な言葉が書いてある。
「……ゴミ袋じゃん」
「お兄ちゃん、ストレートに言っちゃダメ」
「だってさぁ、かーちゃんに付き合って、新年早々早朝にたたき起こされて、始発乗ってデパートいって、福袋かって……マトモなもの、入っていたことあっか?」
「ない」
 安藤兄妹のテンションが一気に低下した。
「わーいいなぁ、どんなプレゼント? たっくん」
「しらない」
 ため息つきながら、袋を開けると、うん年前にはやった、いまも現役の人気があるのかよく分からないが、真っ白なアザラシの赤ちゃんの縫ぐるみが、でーんと詰まっていた。
「軽かったわけだ……アザラシかよ」
 レミーが興味深げに、アザラシの目を見つめている。
「んだ? ほしいのレミー」
「いいの?」
「いーよ、やるよ」
 わーっと声あげて、真っ白のアザラシを抱っこして、レミーは微笑んで、
「たっくんありがとう、うれしい」
と、いってきゅーっと抱きしめた。
「なんか……可愛いね、レミーさん」
「ガキなだけだろう」
 ちげーよと、妹は兄に肘鉄お見舞いした。
「わー、シロモケケかー。懐かしいなぁ。模型だけど……すごい……美味しそう」

 ……。

「……なに??? いま、なんていった、レミー」
「シロモケケ。アンドロメダ星系ではポピュラーな、おかずよ。ちょっとひれの形は違うけど。春になるとみんなで、とりにいくのよ。知らないの、たっくん。学校のキャンプとかでは必ずっていうくらい、メニューにでるのよ。こーんな感じで柔らかくて美味しいの。冬とかは脂がのって美味しくなってね……顔が可愛いんだけど、味にはかえられないわ。懐かしいなぁ……」
 ……。
 ……。
「あの、あの……あの……なぁ」
「くっちゃうんだ……ゴマちゃん」
「どうしたの、たっくん顔変だよ」
「変言うな、お前が変だーーーーー」
「なんですってーーーー」
 ちょんちょんと、後ろにひっそりと体育座りしていたケインが、レミーにそっとセイザーパッドを差し出した。
「……タテゴトアザラシ……食肉目アザラシ科の海獣のなかま。頭は丸く四肢はひれ状、毛は青黒色で光沢があり、黒色の斑点が散る。幼少期の毛色は雪に擬態するため、白い綿毛で覆われている。性質はおとなしく、よく人になれる。レジャー施設では子供たちの人気者。地球では大変愛されてる保護動物のひとつ……」
 レミーが、ほごほごと、小さくぶつぶついって、首の下からじわーっと赤みが上がってきた。。
「いやーーーーーー」
 小脇にアザラシ抱え、セイザーパッド使って庭先からジャンプして空中で消えた。
 縁側には、レミーの靴だけが転がっている。
「恥ずかしかったんだろうねぇ、レミー。落ち込んじゃったかなぁ。だって地球の基礎知識の講座、成績トップだったもの……皆勤賞」
 あーあ。靴忘れてるよーと、空に向かってケインがいっている。
「本当に地球の文化って、覚えるの大変だよねぇ。たしかに、地球のアザラシの赤ちゃんとシロモケケ似てるもん。食品サンプルって思っちゃうの、とーぜんかも」
「お、美味しいの……それ」
「うん」
「……聞いてい?」
「なんだい」
「その講義って誰がしてたんだ?」
「シャーク隊長にきまってるじゃん、無事だった地球に来たことあるんだもん」
「……なるほど」

 



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