即席セイザーX小説。戻る

隊長の憂鬱

 

「最近、隊長の様子が変なの」
「サメのオッサンが?」
「シャーク隊長!」
「あーあ、はいはい。……ありえねぇだろ、いろいろ」
 平日昼下がりの安藤家は、静かで聞こえる音といったら目の前でついているお昼のドラマを放送しているテレビぐらい。それもさっきかかってきた電話でボリュームが小さくなって流れている。遠くのほうで走っているだろう自転車のペダルの音まで聞こえるぐらい。 普段では考えられないぐらい静かだった。
 シャーク隊長は皆がいう以上に完璧な男に見えた。未来からきた人間だからだろうか、それとも元々人格が出来ているのであろうか。戦っていても、そうでなくても物をいわず手を後ろで組んでじっと戦艦の窓際に立っているだけで、レミーじゃないが背筋が伸びる。そんな毎日緊張感に満ち溢れた気配漂わす、父や祖父と全く違った大人の気配をもった人が拓人の見るシャークである。
「なにが変なんだよ」
「……なんか物憂げな表情をして、窓際でため息ばかりついているの」
「おめーなんかしたんだろー」
「たっくんじゃあるまいし、私なにもシャーク隊長を心配させるようなことするわけないじゃない!」
 お話に隊長が絡むと、レミーは怖い。誰よりも怖い。
「なんでオレがなんかやったって、決め付けるんだオマエは」
「だって真っ先に戦艦壊しちゃうじゃないっ、あんなことをしたら隊長や宗二郎さんが怒るに決まっているでしょう」
「アドやケインだって……ついでに隊長だって……」
「なぁーに? なにかいいたい訳?」
「しゅみません」
 同じぐらいジーちゃん困らせているって……言いたかっただけだ。
 ノソノソと二階から音が聞こえた。相変わらず慣れないことだが、セイザーパッドの転送で誰かがこっちに来たようだ。階段をケインが靴を片手に持っていつもながらに申し訳なさそうな笑顔でこっちむいて、ただいまー。とかいっている。
「おかえり」
「ねねね、たっくん。たっくんなんかした? 隊長に」
「なんの話だよ」
 玄関に靴をバカ丁寧に並べて(もちろん放り投げられた状態の拓人の靴を直すことは忘れない)いそいそと茶の間にあがって、拓人の隣に座った。
「隊長、なんか変だよ。ため息ばっかり」
「ほらーーーーーーーーーー」
 ふくれっ面のレミーが怒鳴る。
「えーーーーーーーーーーー」
 身に覚えがありそうで、絶対にないと反論の出来ない拓人から悲鳴が上がる。
「なにアンタ隊長に心配かけるのよぉー」
 今にもマウントかけられて、なにか技を繰り出すよといわんばかりの剣幕。ケインじゃないが、彼女はやるといったら、やる。そういう性格だ。ただし歯止めが効けばのお話だが。
「あ。たっくん、ボクのチョコ勝手に食べたでしょー。食べちゃうのはいいけど、ちゃんと入れといてよねぇ。なくなったら皆が食べられなくなっちゃうよ」
 今思い出しましたという感じでケイン。バイト代で買ったものだの由衣や母やらにもらった菓子を空き箱に備蓄しているのだ。箱には「みんなでたべよう」とかひらがなで書いてある。暗黙ルールとして、食べた分は補充しておくことになっている。自分がそういう約束意識がままゆるいことを、見た目がゆるいこの男は、こー見えても絶対に見逃さない。
「たしたよ。昨日の晩。M&M'sの豆入り、5袋。バイト先からもらったやつ」
「え、それ袋空いてたよ。中身3粒しか入ってなかった……食べたら、かえっておなか減っちゃった」
「あー。だったらゴルドとか、アイン、ツバイン。ほれ、怪奇鷲艦長もいるじゃねーか。犯人はあいつらのどれかだっ」
「ゴルドは寝ていたし、アインとツバインはこっちでお風呂はいってそのまま、由衣ちゃんとゲームしてたじゃない。怪奇鷲艦長……またそういうこというと、アドにいわれるよぉ。アドかなぁ」
 縁側で土がすれる音がした。
「勝手に決めるな、バカが」
「突然わいて出るな! びっくりするだろう、転送とはいえノックぐらいしろ」
「転送機能にノックつけるのかぁ。面白そうだからつけようかなぁ」
「ケイン意味のないことしない!」
 縁側に不機嫌そうにアドが仁王立ちしている。相変わらずよく分からない自信と嫌味に満ちている怪しい18歳である。でも今日はなんかおかしい。顔色が悪い。目の下に熊を飼っている。
「レミー、なんか隊長から聞いているか? 俺のこと」
「なにを?」
「なんか思いつめた表情でこっちを見て、はぁとため息つかれた。なっなにかやったのかー俺!」
 この男、態度では高飛車だが、どうも肝がすわっていない。不安因子を投げつけてやると、たまにクリティカルヒットする。いまが、その状態。完璧君があの隊長に面と向かってため息つかれたんだ。色々あることないこと詮索してしまうだろう。
「だーははは。オレじゃないじゃんかー! ざまーみろーーー」
「ひどいよ、たっくん。そのいいかた。アドに謝りなよ」
「そーよたっくん!!」
「そうだ、俺にまず謝れ、拓人」
「なにドサクサまぎれてナニ語ってんだお前っ」
 一触即発とはまさにこのこと。レミーは隊長が絡むとムキになる。アドはプライドがかかわるとマジになる。ケインは目の前の騒動を治めるのに本気だ。で拓人はいつもと一緒で変わらないが。
 茶の間の長机をはさんで18歳4人のにらみ合い(うなり声つき)が続く。
「おい、お前たち……宗二郎しらないか」
 気配が全くしなかった。その噂の人物、シャーク隊長が縁側たたずんでいる。
「しゃっ、シャーク隊長!!」
 大慌てで敬礼のポーズするレミー、そこに廊下を歩いてきた春子が、
「ああ、隊長さん。お祖父ちゃんならガレージですよ」
といって何食わぬ顔して去っていった。
 それを聞きながらシャーク、何もいわずドタバタしている4人組のほうに顔だけ向けて、手は後ろで組み、はぁと息を吐く。
 怒っているのか悲しいのか、何かいいたそうな、いいたくないのか。なんとも渋い顔と「ああ」と短い返事だけ残してガレージに行ってしまった。
 拓人除いて凍りつく3人。
「あたし、なにかやったんだわ……隊長……」
 レミー今にも泣きそうだ。
「なんかぁ……怒ってるぽい? もしかして」
 と不安げなケイン「あんな隊長見たことないよ、ボク」とかいっている。
「俺だ、俺がなんか……わぁぁぁぁぁ」
 アド、絶叫大会。そのままピって音だけ残して姿を消した。どこに行ったのやら。
「確かに……ありゃ変だ、やばくね?」
 拓人が呟くのが早いか、レミーの意味不明の首絞め攻撃が早いか……茶の間は500年後の未来にも負けない闇に包まれていた。

 

「宗二郎……」
「どーしたシャーク。元気ないな」
「いや……」
 なにかいいたそうにしていたが、いかんせこのシャーク。そう滅多に本心やらムダ話を喋る男ではないのだ。
 ぎゅっと唇噛んで思いつめた顔をしている。
「変なヤツだな、相変わらず」
 危険な空気は立ち込めていたが、どうも違う方向に向いていることを宗二郎は汲み取った。別に戦闘うんぬんで思いつめているわけでもなさそうだ。拓人たちやブレアードがなにか仕出かしたのかもしれない。
「おじーちゃん、お疲れー。アイス食べよう。あ、隊長さんもどーぞ」
 由衣がビニール袋さげて帰ってきた。二人をみるや嬉しそうに袋を振ってみせた。
 たまには休憩でもしてやるか、とかいって宗二郎は孫娘の差し出す袋をガサガサやって二つキャンディタイプのアイスを取って、ひとつシャークに渡した。
「ほら、お前の好きな青いアイスだぞ」
「……」
 孫娘がいるなか恥ずかしいのか、無言で受け取った。
「由衣、この間のチョコレートのヤツがうまかったんだが……まぁいいか。おいシャークたまには地上で食うのも美味いだろ……」
 視線の先にシャークの姿はなかった。あんな図体のでかいのがどこに消えたのかと思ったら、青いアイスキャンディ片手にしゃがみこんで、低く小さく唸っていた。
「どーしたシャーク?」
「一本当たったとか、アイス!」
「……なんでもない」
 何事もなかったかのように、立ち上がった。そうはいうが、二口目がちっとも進まず、手の温みと人三人分の体温でゆるゆると汁がひとつふたつと床に落ちる。
「早く食べちゃってください。もったいないよぉ」
「すまん」
「おいシャーク」
「なんだ宗二郎」
「お前、アレか」
「なんだ、あれとは」
「もしかして、虫歯じゃねぇのか」
「……」
 奇奇怪怪(ご自宅に宇宙人……もとい未来から来た宇宙人+見た目っからして怪しいことこの上ない生き物……古代地球人の成れの果て)な生命体にかこまれて、少なからず地球と未来と宇宙の存亡に関わる事態に関わってきて、兄以上の鋼鉄の神経を持ち合わせた由衣の手からバニラアイスのカップが落下した。そのまま固まっている。
「最近オマエ、あいつらの菓子食ったり……忙しかったり寝込んだりで……生活不規則だわ……アイスでのた打ち回るったら、虫歯にきまってらぁ」
「……歯は磨いている、絶対違う」
「相変わらず、やせ我慢大好きだなシャーク。ついでに……オマエの神経機関にゃストレスキャンセラーとか、イライラのゴミの日とかはねぇのか……」
 じーっと宗二郎はシャークの顔みて、あぁーあと妙な笑いのこもったため息して、
「まぁ、ムリだわな。んな生き方できたら今頃苦労はしねぇか」
ごそごそと工具あさって、明らかに1時間以内に使用済みなペンチ取り出して、
「シャーク、口貸せ」
「断る」
「悪いようにはしない」
「悪意しか俺には見えないぞ」
「なんだ分かってるじゃねぇか。安心しろオマエだったら麻酔とか絶対いらなそうだ」
「人をなんだと思ってるんだ、宗二郎」
「だったら、とっとと医者でも未来の技術でもなんでもいいから治療しろ。オマエみたいなヤツがため息しながらウロウロしてたら、あいつらがどーなってもしらないぞ」
「俺の部下だ心配はいらない」
「どこをどう見てものをいってんだか、こいつは」
 やれやれいって、宗二郎は地図と紹介状というのか、状況説明した手紙みたいなものをレポート用紙に書き込んで破ってシャークに手渡す。
「もしも、戦艦の医療設備で歯を治すのがなかったら、そこに行け悪いようにはしないだろう」
「……」
「サメの隊長さんってサメなんだよね。歯抜いたってすぐ新しいの生えてきて、一生歯に困らないって学校で習ったよ。やっぱおじいちゃんに抜いてもらったら?」
「……俺はサメじゃない」

 


 考えること30分後、安藤家ご近所のかかりつけの歯医者で治療し、憑き物がとれて晴れ晴れした顔で帰ってきた。
 いまだ混沌とした闇のなかにどっぷりつかっている茶の間の4人に対してシャークは、
「お前らなにをやっている。持ち場に帰れ」
といつもの調子でいうのだ。4人はどうしたらいいのか分からないまま、通常任務についた。
「ああ、隊長さん? 虫歯だったんだよ」
 止められているのにも関わらず、さすが女の子。ついついいちゃった。
「うそ、まじ」
「……信じられない……」
「そりゃ、誰だって虫歯ぐらい……ボクはなったことないけど」
「フッ。隊長も危機管理がなっていないな」
「隊長だって人間よ!」
「そーいうアドはどーなんだよっ」
「俺はいつも完璧だ」
「やかましい、この人類外」
「だまれバカが」

 

 三日後。アドの右ほほがぷっくり腫れ上がる。
 親知らずだったようだ。ビオード星でも数百万人に一人の奇病とのこと。
 安藤拓人に「それは、進化が足りないやつがなるんだぜ」といわれ大いにな凹んだのだった。

 アドは確信した。
「虫歯は空気感染する病気だ」


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