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去勢してからのペペは驚くほど穏やかな性格になり、そしてくどいほどの甘えん坊になった。
家で独りぼっちになってしまうと、どうやら玄関に座ってしばらくの間遠吠えをしているようだった。つい、「1匹じゃ寂しいかな」と思ってしまう。ネコの行動パターンはかなり習得してきていたし、ネコとの暮らしにかなり自信をもち始めていたので、ペペにお嫁さんをと、2匹目を飼うということで話がまとまった。知っている範囲ではどこかで子猫が生まれているらしいという情報もなかったので、ペットショップで買うことになった。
ガラスケースの中の子猫はきれいにはしてもらっていたが、1匹ずつ別々に入れられていたので、ネコ同士でじゃれて遊んだりすることもなく人々が向ける視線に反応しておなかを出して見せたり、手足を動かして見せたりしているだけだった。その中で、目にとまったのがシャムネコだった。おとなしい性格なのか、ケースをのぞき込んでもあまり反応せず顔を動かす程度だった。けだるい雰囲気をもっていた。「こんな飼われ方してるとだんだん感情がなくなってくるんだなぁ」と適当に解釈して納得してしまった。ペペ兄ちゃんと会えば元気に遊ぶだろう。あまり深いことも考えずに、ペペの相棒はこのシャムネコと決まった。
子猫と対面したペペはネコらしく拒絶の態度を示した。ペペはもう子猫ではないから、やはり新しくやってくるものはたとえ子猫でも侵入者だと思ってしまう。自分から近寄っていこうとはしないし、興味深々ではあるのだが、子猫が近づいていこうとすると威嚇しながら一定の距離を保とうとする。「そのうち仲良くなるさ」と信じて、傍観することにする。子猫にはリリという名がついた。
ところが、リリがやってきたその日に早くも重大なことが起こっていた。
リリは餌を食べると、、嘔吐と下痢をするのだ。遊んでやるとそれなりに反応はするが、やはりなんとなく元気がない。ペペが来たときのようなはつらつとした元気さがない。環境が急に変わってまだ慣れないのかな、と最初の日は思った。でも、何日たっても状況は変わらない。さすがに気が付いた。「この仔は病気なんだ。」すぐにペペと隔離し、獣医へ連れて行く。ウイルス性の感染症だった。しかも、昨日や今日にかかったものではなく、生まれて間もなく親からうつったものではないかということだった。すべて合点がいった。
リリは展示されていたとき、他の猫より少し「ボーッ」とした感じだった。それは決して性格の問題なんかではなくて、子猫が活発に動かないのはやはり何かが異常なのだ。それに、そのときはさして気にとめていなかったのだが、他の子猫たちに比べて少し大きくなっているのでという理由で値下げされていたような気もする。元気な子たちが次々に売れていく中、リリは売れ残ってしまったのだ。誰もが、「この仔は元気がない」と気付いて買わなかったのだろう。ましてプロのペット屋がこの仔の病気に気付いていないはずがない。私たちはまんまとペット屋が仕掛けたわなにかかったわけだ。
獣医はそのあたりのからくりを説明してくれた。そして言った。「情がうつらないうちに返品してきなさい」それから、リリの触れたものすべてペペに触れさせないようにとも言った。
すぐにリリをつれてペットショップへ行って事情を説明した。相手は「それは申し訳ないことしました」と丁重に対応はしてくれたが内心はどうだったのだろうか? 結局、ペット屋での管理が悪かったということで代金の全額を返金するといってきたが、なぜか母は「半額でけっこうです。」と言って譲らなかった。「どうして?」と後で聞いてみたら「授業料よ」とだけ言った。
母の気持ちはこうだったのだろう。まず、生き物を買うということに対し、その子の将来までの責任を負わなくてはならないということをあまり深く考えずに、即断で「これ下さい」という感覚でリリを買ってしまったことに対する反省。リリが病気であったことと、それを知りながら売っているペット屋の腹黒い魂胆を見抜けなかったことへの反省。そして、何よりもリリに申し訳ないという気持ちがあったのだと思う。1度縁あってうちに来た仔である。治療費をペット屋に払ってもらい、うちで面倒みるという方法もあったのだが、ペペに病気が移ることを恐れてそれができなかった。それで、「しっかり病気を治して、別のお宅でかわいがってもらってください。」と何度も念を押して、リリへの餞別代りに半額をペット屋に託した。「必ず病気は治します」といったペット屋にひとかけらの良心が残っていたと信じたい。
この1件でいろんなことを学んだ。人気のある品種は、無理に繁殖させて市場に出すため、奇形や病気の率が高くなり、大量に処分されていること。休む間もなく繁殖を繰り返すため、親自体も消耗して病気になることがあり、そうなると利用価値がないと判断して処分されること。たくさん生まれすぎて売れ残ると、それも処分されること。目を背けたくなるような話だが、これも現実なのだ。
それ以来なんとなくペット屋に足が向かなくなった。
そして、ペペはしばらくの間一人っ子でいることになる。