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3代続けて獣医をしているというその人たちは、医院と住居が1つになっている「ビル」(実際は単なる3階建て住居)に住み、そこで開業していた。ここでまず、「?」と思った。「ビル」内を自由に歩き回っているはずのネコがいない。ひとまず今までの事情を話し、クロと愛ちゃんに会わせてほしいと言ったら、2代目の夫人が出てきた。この人自身も獣医らしかった。
再度クロと愛ちゃんに会わせてほしいとお願いしたが、「それはできない」と言われてしまう。夫人の話によれば、保護した猫たちは寄生虫の駆虫をしたり、ワクチンを打ったりしているので、新たに感染しないように外から来た人との接触はさせていないとのことだった。それならせめて今の状況を聞きたいと頼んだが、係の者がいないのでわからないと言う。
こうして話している間、目の前には3段に仕切られたケージに愛ちゃんと同じくらいの大きさの子猫が所狭しと入れられているのが見え、どうやら愛ちゃんもこの中にいるのではないかと思われた。でも悲しいことに、私は他の猫と愛ちゃんを区別できるほどには愛ちゃんの顔を覚えていなかった。
「里親が見つかったら必ず連絡しますから。」、「大丈夫ですから。」、、、、、話を聞けば聞くほど不安は増していった。だって、1ヶ月も前に引き取られたクロのことは何もわからないではないか。係の者がいないくらいで、どこから来た猫がどこへ行ったのかわからないなんて、、、、、
結局何もわからないまま言いくるめられて、追い返されるようにして帰るしかなかった。どうやら私は招かれざる客だったようだ。帰りの電車の中で、悔しくて仕方なかった。応対をしてくれた夫人のおどおどした視線、言い訳のような説明、電話での強気な対応とは全く違っていた。そして、一般家庭にはないような大きな仏壇が目に焼き付いてはなれなかった。
家に帰り着いてからその場で府に落ちなかったことが次々と思い出されていった。
まず、3つに分けられたケージにはそれぞれ10匹くらいずつの子猫がいたが、ケージに中にはトイレがなく、菌や虫が移動するのを避けるためにビニールシートが敷かれているだけだった。毎日検便してそれぞれ虫がいないかどうかを見ているという説明であったが、あれだけの頭数の便をどうやって個々のものであると判別することができるのか? だいたい何十匹もいる似たような模様の子猫を、番号もつけずにどうやって識別するというのだろう? そのあたりの詳しい説明を求めると応えはあいまいだった。
またことさらに十分な食事を与えていることを強調して、寄付されたという缶詰などを見せたが、丸々太っているはずの子猫たちはみんなやせ細っていて、ケージの中では水も与えられていなかった。いつでも新鮮な水が飲めるようにと、ペットの飼い方の本には必ず書かれている。そんな一般常識すらないがしろにして何が動物保護なのだろう?
そしてその日も1匹か2匹もらわれていったことを何度も何度も繰り返し、そのことを印象づける意図があるようにも感じた。
更に思い出してみると、クロのときも愛ちゃんのときも支払った依頼金に対する領収書というものを受け取っていなかった。そして、猫を引き渡すときに「覚書」なるものをもらったことはもらったが、そこには獣医院の所在地や電話番号を記していなかったし、責任者の名前もなければ印鑑のひとつも押してなかった。そして、面会に行ったときですら電話による道案内だけでその住所は最後まで教えてもらえなかった。
納得のいかないことばかりではあったが、でも心の片隅ではクロにも愛ちゃんにも里親が見つかったと信じたかった。きっとどこかで幸せになっていると信じたかった。けれど、いつまでたっても里親が見つかったという連絡はなかった。
だまされたことはほぼ確信したが、どうすることもできなかった。
あの時、どれが愛ちゃんなのかが判ればその場で連れて帰っていただろう。そう思うと、だったらどうして最初からうちで飼うと決心できなかったのか、と悔やんでも悔やみきれなかった。自分が拾わなければ他の誰かが拾って可愛がってくれたかもしれない。外でそのまま大きくなって生きつづけたかもしれない。クロについても同じことだ。安易なおせっかいがふたつの命を奪ってしまったことを心から後悔した。
元気に遊んでいた愛ちゃんの姿がいつまでも忘れられずにいました