みっつめ

「あなた方は、現世に思い残した事がある故に、ここに集められました。

しかし、その思い残しが、個人的な強い恨みであったり、殺意であったりする可能性があるために、

具体的な記憶は抹消させられています。

しかし、あなた方は、そのうやむやが解消する日まで、現世に留まる事が許されています。

あなた方の「気が済んだ」時点で、ゲームセット。

キレイに現世から姿を消していただきます。」


場内は、一層静けさを増した。

一同皆、状況を飲み込めていない雰囲気。

わけがわからないのは、僕も同じやった。

現世?


「すみませーん・・・」

ドラマで言うと、確実に奥さんに尻に引かれ、

子供には嫌われているであろう、気の弱そうな、サラリーマン風の男が、弱弱しく口火を切った。

「現世とか、思い残すとか、ははは。なんか僕が死んだみたいな、そういう風に聞こえますが」

薄笑いを浮かべながら、おずおずと言葉を発する男。

その格好悪さに、つっこんでる余裕なんて、あるはずがなかった。

その通りや。

なにを阿呆らしい事を言い出すねん、このおっさんは。

集団どっきりかなんかなのか!?


「その辺の状況は、追々わかっていただけるかと思います。

この研修は、あなた方が、模範的な幽霊として、現世で多少のエンターテイメント性を持って、

活躍していただくための、そういう研修なのです。」


・・・まったく状況を飲み込めないまま、

とりあえずカメラのありそうな所を探す。

どこにでもありそうで、どこにもなさそうな感じ。

無機質な部屋。白い壁。

黒いスーツの無表情な男。

そう言われてみれば、どことなく違和感のある場内。

・・・現実離れしている・・・

そう思いかけて、咄嗟に頭を振る。

じゃあなんや。その中におる僕は、その現実離れの中の、パーツていう事なんか!?

「これからビデオを見ていただきます。

『四谷怪談・皿屋敷』の話、ご存知の方もいらっしゃるでしょう。

その辺の雑学的な知識や一般常識などは、記憶に残してあるはずです。

これは「悪い例」としてご覧頂きたい。

ははは、悪い、例。・・・もちろん悪い霊なんですけどね。ははは。」

1つも目が笑っていない。

しかしその、無感情な言い方が、ますます現実味を増す。

いや、非現実味と言うべきか。


事がたんたんと、抗えないまま、進んでいく。

僕は、はっきりしない意識の中、ただただ、彼の言葉に飲み込まれていった。


戻る