パン・キレ

昔のことです。
まだくろが幼かった頃、といっても体の大きさは
さちと同じくらいになったころだったと思います。
(あ、もちろんるりはいませんよ、存在すらしていません)

我が家では、犬を檻にいれるとき
ご飯ではあげないちょっと特別なものを、
これを「おやつ」としてあげます。

いつのものでしょう?
その「おやつ」としてあげた食パンの4分の1をさちが咥えて歩いていました。

さちには多くの変な癖があるのですが、その中の1つ、
「ちょっと変わったもの(おやつ)は大事にとっておく」というものがあります。
とっておく・・・といっても、自分の檻の中の小庭のどこかに埋めておくというものです。
(埋めたところは絶対に忘れません、賢いので)

おそらく、そのコレクションの中のものだと思います。
前回あげたのはクッキーで、これはもらってすぐに食べていましたから・・・

で、このパン・・・土の中で圧迫され、湿気を吸ってぺったんこになり、
そしてもちろん白ではなく、土の色をしています。
人間なら、普通は食べません。絶対。

でも、犬達には違うように映るようです。
誰もがさちを羨望の眼差しで見ます。

まりは遠くからさちの様子を窺っています。
さすがは耳が遠くなる前のまりです。賢い判断です。

しかし、若者達は我慢できません。
おっかなびっくり、ゆきくろさちに近寄ります。

「ううう〜〜・・・」

さちが威嚇します。
「これ以上、近寄るな、離れてろ!
 さもなくば斬る!!(もちろん堪忍袋の緒です)」と。

ここで肝の細いゆきは止めます。
やや離れ、うらやましそうにさちを見ることにします。

しかし、ゆきよりも、いや、家の中で一番肝のいいくろは止めません。
キャンキャン吼え、さちのまわりをうろちょろします。

「いいじゃん、頂戴よっ!」と。

この状況は非常にまずいです。
一人庭に出ていたまなさん、遠くでその様子を確認し、止めに歩きます。

「ウルハァッ!!」

さちくろに対して噛み付くような真似をして威嚇します。

あ、やばいやばい、こうなるとくろは・・・

全ての動作がすばやくなるのです。
短い周期でキャンキャン鳴き、前よりも速く、さらに範囲を広げてうろちょろします。

くろっ!!」

僕はくろを叱ります。そしてくろを捕まえようとしますが、
さちの威嚇をかわすための素早い動作を止めることがなかなかできません。

「う〜・・・んにゃうにゃうんにゃうんにゃ・・・」

さちがキレる一歩手前の唸り声を出します。
これには僕もくろも大慌て。
僕はくろを捕まえようと、勢いよく手を振ります・・・が、
くろは全速力でさちのお尻が向いている方向にに走って行きました。

やれやれ・・・と、気を許すと
ドドドドドッとくろが走って戻ってきて、そのまま全速力で
今度はさちの頭の向いている方向に走っていきます。

くろが通り過ぎる瞬間、「うにゃ」とさちが唸ります。
僕は捕まえようとして失敗します。

再びくろが戻ってきました。
今度はお尻の方向に走りぬけます。
またさちは「うにゃ」と唸り、僕は捕獲に失敗します。

おそらくまた来るでしょう。
くろは良くも悪くもあきらめない犬です。
今度こそは捕まえる・・・そう意気込む僕・・・

くろを目で追い、集中力を高めます。・・・しかし、さちがちょっと気になる。
一瞬、チラリと見るつもりでさちを見る・・・

ここで、僕はチラリと見る予定を覆すことになりました。

何故かというと、
くろを捕らえるっ!!」と決意したのは僕だけではなかったからです。

そう、さちくろを捕らえるつもりでいたのです。
僕は見て一瞬で気がつきました。咥えていたパンを落としたさち
あの、制裁の前に見せる構えのない構え・・・
剣術でいうのならば「無形の位」。
ただ前方を見ているだけにみえるが、実際は
神経の網を体の外に、四方八方に
まさに蜘蛛の巣のようにのばしています。
獲物を捕らえようと・・・

このさちの様子に気をとられ、僕はくろを捕まえる機を失います。
さちよりもくろの接近を確認するのが一瞬遅れました。

あっ!!と思ったときには遅かったです。
背後から接近してきたくろに対して、さちは絶妙のタイミングで噛み付きますっ!

さちの勢いに押されてか、気合に押されてか、
くろは1mもしないところで倒れます。さちを首につけたまま・・・

お互い本気の喧嘩声を出し合っていますが、
状況としては、さちくろにまたがった状態で噛み付き、
下でくろは反撃できずにただ声を上げている、というものでした。

しかし、この状態はすぐに変わります。
まなさんがさちを捕まえ上げました。

ふぅぅ、一見落着っ!!

と、終わらないのが犬の喧嘩。
「やりやがったなっ!!」とばかりにくろさちに噛み付こうと体を起こし、
僕に胸のあたりを抱かれた体を動かせないさちに反撃を試みます。

さすがのさちもこれは分が悪い。
相手は体を自由に動かせますが、自分は首しか動かせません。

それでもくろは牙をむきます。さちの喉をねらって・・・!!

ガッ!!

牙と牙がぶつかる音がします・・・そう、
さちはこの状況下でもくろに負けませんでした。
なぜならば、くろが狙うのはさちの首から上。
さちに噛み付こうと近づけば、さちが首を動かして届く範囲に顔をもってくることになります。
さちはこのことを利用し、くろが首を動かす方向に自分も、
くろよりも速く動かし、くろが間合いに入り次第、
自分も牙を向けて迎撃し、一切体に触れさせません。

・・・ですが、僕は気が気ではありません。
さちがいつまでもつかわかりませんし、くろが諦めるとも思えません。
「おい、誰が出てこいよっ!!」と、家族を大声で呼びます。

その声を聞いてか、それともさちくろの喧嘩声を聞いてか、
父と母、そして姉が家から走り出てきます。
やっと出てきたか・・・と、少し気が楽になります。

するり・・・

その気を抜いた一瞬の隙・・・
手が少し緩んだのでしょう。さちが僕の腕から抜け出てしまいました。

再びもつれ合うさちくろ
そして再びさちが上に、くろが下になります。

しかし、僕達は逃がしません。
すぐに僕がさちを、父がくろを捕まえ、引き離します・・・が、

「きゃ〜んっ!!」

くろの口から悲痛な叫びが発せられます。
この度の制裁中、一度も負けを訴えることのなかったにもかかわらず、
引き離された瞬間に・・・

ここでまなさんの視線の移動をスローで追ってみます。

まず、さちの撫でると気持ちいい頭が見えます。
きれいな赤毛です。見事としかいいようがありません。
そして視線が移動、さちの目を通り、黒い鼻を捕らえ・・・あれ?
鼻の先にも黒いものが続いているぞ?

父:「さちくろの手(前足)を咥えてるだろっ!!」

そう、黒いものはくろの前足だったのです。
どうやらさちは、引き離される瞬間、くろの前足だけを捕らえたのです。
まさに、「きさん、ただでは許さんきにっ!!」というような極妻みたいに。

そりゃ、痛いわ。

僕はすぐさまさちの口をあけ、くろの前足を外します。

とりあえず、両者の争いは止めることができましたが、
この後にしないといけないことが一つあります。

それは、この争いの火種。パンの処理です。

ここで家族一丸となって、僕と父はそれぞれさちくろを抱いたまま、
その様子を見ていた母と姉はその場で、さちがパンを落とした場所を見ます。

もっしゃもっしゃもっしゃもっしゃ・・・

あれあれ?なんでなんで、どうしたの?
ま〜りちゃ〜ん、な〜にをた〜べて〜るの〜♪
そこにあったはずのパンはどこにいったのかなぁ?

ゆきにうらやましそうに見つめられつつも、
懸命に口を動かし、僕ら人間と目が合った瞬間に
口の中のものを飲み込むまりさん。

まさに漁夫の利!!

まりちゃんは最後にみんなから「卑怯者」と罵られたとさ。

以上、だらだらと書きましたが、過去にあった
パンさちキレたときにあった一連のできごと。

略してパン・キレ(笑)

 

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