君の名は?




子猫を抱いて意気揚々と実家を後にした。子猫は洋服のポケットにすっぽり入るほど小さかった。 アパートに帰る途中、子猫を抱いて近所のペットショップにネコカンを飼うために立ち寄った。
今日からこの子猫と生活を共にするのだ。そう思うだけでわくわくしてくる気持を押さえることはできな かった。かなりの興奮状態である。それほど嬉しかったのだ。

ペットショップに入ると、店員の若いお姉さんが素早く子猫を見つけて騒いでくれた。なかなか注目を浴 びると言うことは気分がいいものである。子猫は若いお姉さんに遊んで貰ってこちらもいい気分。
今夜食べる猫の缶詰と猫用のミルクを買った。これだけでも結構なお金である。動物を飼うと言う事は お金もそれなりにかかるということなのだ。でも、家族だと思うとそんなことはなんでもないと思えてく るから不思議である。

家に着くと巨大なゲージ(檻)が子猫を待っていた。このゲージは大人がひとり入れるぐらいの大きさで ある。この日のために前もって買って置いたものだった。あのころの私にはかなり高額な買い物だった ように思う。高額なものにも関わらず、使用期間はわずかなものであった。現在は押入の奥深くに追い やられてしまった。隠居状態である。

部屋に子猫を離すとたちまちあちこち探検が始まった。この猫の特徴その1である。冒険家なのだ。 このころのリュウはまだ痩せていて身軽であった。確かに生まれて1ヶ月で肥満になる猫も見たことはない。 ま、フツウの猫らしい猫であった。食欲は旺盛である。言い方を変えれば”食いしん坊”なのだ。
行動はと言えば、常にぴょんぴょん走り回っては遊び道具を探し、捕まえてきては連続猫キックを食らわしていた。 折り紙付きの健康優良猫である。また別の言い方をすれば、かなりの”乱暴者”であった。 こちらの呼び名の方がふさわしいかもしれない。

それから2〜3日経って名前をつけなければいけないと思い立った。貰う前から名前は決めていたの だが、どうやらその名にふさわしい性格ではないらしいと、その頃思はじめていた。当初の予定では” さくら”とか”かえで”とか”ゆき”などと、とても愛らしい名前を考えていたのだ。しかし、どうもこの猫の 容姿やら行動やらを観察していくと、この名前は当てはまらない。そんな生やさしいおっとりした愛らし い名前は似合わないと言うことに気が付いたのだ。どう見ても”おてんば”で”乱暴者”で”食いしん 坊”である。しかし頭は非常に良かった。一度いけないと叱ると次からは絶対にしなかった。飲み込み が早いのである。ひとつぐらいは良い所はあるものなのだ。これがせめてもの救いであったのは言う までもない。
こうしてあれこれと呼び名に悩む日々が続いたのである。

すっかり呼び名が思いつかず”名無しの権兵衛”を決め込んでいた時、突然テレビを見ていて思い ついた。その当時、高橋留美子さんの漫画で”うる星やつら”が巷で流行っていた。(私は当時かなりの 留美子ファンであった)その中の登場人物で”藤波竜之介”というのがいる。まさにこのキャラクターが なんとも家の猫に似ているように思われたのである。(勝手に思いこんでいただけかもしれないが)
”俺は女だー!”と言っては暴れまくっているその姿に家の猫を見たような気がしたのだ。なんとも思 いこみが激しいものである。
「君は藤波竜之介そっくりじゃないかー?」などと猫に話しかけ、「じゃ、君は今日から竜之介と命名し よう!」と言うことになった。猫にとってはまったくどーでもいいことだったかも知れない。呼び名なんて 人間の勝手な都合だけのことなのだ。しかし、呼び名がないとお互い生活していく上でかなり不便である。 付けない訳にはいかない。こうして呼び名は決まったのだった。
そして、その名の通り元気のいい暴れん坊に育ってしまった。
名は体を表すとはこのことである(?)

これがリュウと言う名の由来である。
そして、いつしか竜之介と呼ぶのが面倒になり”リュウ”と省略されてしまって現在に至っている。




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