始めての洗濯機




そのころの我が家はとても貧しいものであった。日当たりの良くない安アパートの1階部分に住んでいたというのは前回お話したと思う。 丁度そのころ使っていた洗濯機というのが”二層式”のものである。 現在ではようやく、相方の協力もあり全自動で最新型のとても静かなものに変わっているが、その当時の私にとっては全自動式の洗濯機などは高値の華であった。 当然買える代物ではない。
それはこんな二層式の洗濯機を使っていた頃の出来事である。

当然働いているので平日などは帰りが遅く、近所迷惑になるといけないのでほとんど洗濯は休日に行っていた。 当時の洗濯機というモノは今よりもずっと騒々しい音を立てて動いていたのである。 近頃の洗濯機というものは大変すばらしいと言うべきだろう。 今現在使っている洗濯機など、真夜中に洗濯しても全くと言って良いほど音がしないのである。 すばらしい!

それはさておき、休日などに洗濯機をガラガラと回しているとリュウはよく洗濯機の様子を見にやって来た。(当時洗濯機は室内に設置されていた) そのころのリュウはとてもスリムでとても身軽であった。 彼女にとって洗濯機はとても珍しいものであったらしい。 なにしろ水がジャージャーと出てクルクルと洗濯物が回っているのだ。とても不思議だったのだと思う。 それでよく洗濯機の縁にちょこんと乗って観察していた。 彼女は実に好奇心旺盛である。 その好奇心旺盛な性格がとんでもない災難になるとは、本人もそのころは予想もできなかったのである。

その日もいつもと変わらず私は洗濯をしていた。 それはすすぎの段階であった。 二層式なので水を出しながらすすぎをしていた。 洗濯をしながら部屋の片づけをするという、別にいつもと変わらない休日のはずであった。 でもその日は少し違っていた。  リュウは相変わらず洗濯機の縁に乗っかってクルクルと回る洗濯物を眺めていた。 私は「あぁ、いつものように観察してるなー」と思い、気にもとめていなかった。 その時である。 突然「バシャ!」っという音がしたかと思うと、リュウが血相を変えて、ずぶ濡れ状態であわてて私目がけて走って来るではないか! そしてそのまま部屋の中に入ってきたのである。 当然部屋の中は、畳やら雑誌やら他のものが水だらけ状態となってしまった。 ここは水族館ではないのである。 風呂屋でもない。 なんとしたことか!? 初めは何がおこったのか皆目見当も付かない有様であった。 しかし、リュウの走ってきた痕跡をたどっていくとそれは分かったのである。 なんと、彼女は洗濯機の中に落ちたのだった。 あのクルクルと回っている洗濯物を捕まえようとして、マヌケにもその中に落ちたのである。

猫は狩人なのである。 動く物全てが狩りの対象となり、彼らにとっては大事な獲物なのだ。 それがたとえ洗濯機の中でクルクルと回っている洗濯物であっても同じ事なのである。 猫故の不幸な出来事だったとしか言いようがない。

これ以来、リュウは洗濯機に近寄ろうとしなくなったのは言うまでもない。 




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