寒い日には手を繋ごう。

赤い手には僕の手袋をあげる。
くしゃみをしたら抱きしめてあげる。
冷たい耳には僕の帽子を。
ほっぺたにはてのひらを。





・:ミルクパン:・






1月に入って、それまでも充分低かった気温が更に下がった気がする。
ここら辺では一番寒いのは2月なのだから、この先もまだまだ低くなっていくのだろう。
それを思うともうこたつから出たくなくなる。

いくら子供は風の子だと言われても、寒いものは寒い。

日がな一日、こたつで丸くなって過ごしていたタカオは、雪でも降り出しそうな窓の
外を見ながらぼんやりと思った。
今朝早く、マイケルにベイブレードの特訓をしに行かないかと誘われたのを断った
理由。
寒いから。


きっと断られた方が聞いたら呆れてものも言えなくなるような理由だけれど、
どうもここのところ調子が悪い気がするのだ。
かといって熱もないし、食欲が損なわれているわけでもない。
ただなんとなく怠いと言うか、やる気が起きないと言うか・・・。


原因があるとすれば、ただひとつ。


レイがいない。



久しぶりに里帰りをしてくると言い残してから、まだたったの一週間。もう一週間。
あの村には、明らかにレイに好意を寄せているマオとかいう女の子がいて。
何よりあそこは、レイが生まれ育ったところで。
もう、帰って来ないんじゃないかと思ってしまう。
(寒いなぁ・・・)
ぼんやりと天井を見上げながら口の中で呟く。
(寂しいなぁ・・・)





††††††††††





はぁ。
これで何回目の溜息だろう。
自分から呼び出しておいて、一向にベイを始める気配のないマックスに何と
声をかけて良いのか分からず、寒空の下でもう一時間もお互いに黙ったままでいる。
聞こえてくるのは、いつもは喧しいくらいに元気な金髪のこぼす溜息だけ。


何か悩みでもあるのだろうか。
それにしても、悩みがあるならあるで何故自分を呼んだのかと不思議に思う。
自分にしてみれば、BBAのメンバーの中でプライベートでも付き合いがあるのは
マックスだけだけれど、マックスは誰とでも仲が良い。
タカオにしろレイにしろキョウジュにしろ、相手の感情を敏感にくみ取って接してくる
マックスには、心を許している。

・・・・・・認めたくはないが、少なからず自分でさえも。



だからこそ、こんなときに何故自分を呼ぶのかが分からない。
悩んでいる人にかける言葉を自分は知らない。
マックスもそれを知っているはずだろうに。何故。




「ねぇ、カイ。タカオ、元気ないよねぇ。」
一際大きな溜息をついた後、不意にマックスが沈黙を破った。
元気がないのはお前だろうと言いかけて、それでは返事になっていないような
気がして口をつぐんだ。
代わりに、瞳を伏せてこたえる。
そんなカイを見て、マックスは今日初めての笑顔を見せた。
「ねー、ほら。カイでも分かるっていうのにねー。」






どうして君にはわかんないんだろうねー?







カサリと鳴る茂みにカイがハッとすると、いつからいたのかレイが姿を現した。
「・・・・久し、ぶり。」
「うん、久しぶり。」
くるりと振り返るマックスの、レイを見る視線が、笑ってはいるもののとてつもなく
冷たい。
ここへ来て漸くマックスが何故沈んでいたのかに思い当たり、カイは我関せずと
いった風に木に凭れて眼を閉じた。

そんなカイにマックスが瞳を和らげる。

何だかんだ言っても、結局は彼もタカオのことを気にしていたのだろうと思うと嬉しい。
しかしそれも一瞬のこと。


再びレイへと焦点を定めた蒼い目に、微笑みは浮かんでいなかった。
「で?こんなとこにいるくらいなら早く行ってあげれば?鈍いにぶーい金クン?」
「ああ・・・でもたった一週間だぞ?タカオだって笑顔で見送ってくれたし・・・・。」
半眼で嫌味を投げつけてくるチームメイトに、弱りながらも抵抗してみると、
案の定一蹴されてしまった。

「っなーに言ってんのさ!!今がいつだと思ってんの?!冬休みだよ!
ふーゆーやーすーみっ!!分かる?タカオも学校休みなの!一週間もだよ!?
離れてるより、一緒にいたかったに決まってるじゃないか!」
一気にまくし立てると、マックスは少しばつが悪そうに俯いた。



「マックス・・・」
「ごめん・・・。僕が口出しするような事じゃなかったよね。・・・でも、タカオずっと
元気なかったのは本当だから。
きっとタカオは笑って君を迎えるだろうけど・・・そこんとこ、わかっといて欲しくて。」
もう一度ごめん、と呟くとマックスは顔を上げ、いつものようににっこりと笑って
レイの背中を叩いた。

「ほら、タカオきっと待ってるよっ!早く行って!」
そんなマックスにレイも笑顔で返し、「ありがとう」と言ってタカオの家の方へと
駆けていった。




見えなくなった後ろ姿の方を見つめるマックスの頭に、ぽす、と大きな手が置かれた。
見上げなくても、そこにいるのは。
「お前なりに二人を心配して言ったことだろう。」
だから、レイも分かっていると。
言葉は少ないけれど、一番欲しい言葉をくれる。
こてん、と定位置になりつつある肩に頭を載せて、見上げれば赤い顔。
無性に嬉しくなって、クスクス笑って。
「Thanks.・・・もーちょっとだけ反省させといて・・・。」

視界の端に映る頬が、また少し赤くなったように思えた。







††††††††††






そわそわそわそわそわそわそわ。
ああもう、どうしよう。
丁度微睡みかけていたところへの甲高いインターホンを無視しようとして、
あまりのしつこさにムカついて投げやりな応対をしたら、
聞こえてきたのはいちばん聴きたかった声で。
走ってきたのか、息が上がって途切れ途切れになっていたのだけれども。
挨拶も名前も言わず、ただひとこと。

「・・・った、だい・・・ま・・・っ」

なんて。
あーもう、狡い。
そういわれたらもう、「おかえり」としか言いようがなくなってしまう。
帰ってきたら、うんざりするぐらい文句を言ってやろうと思っていたのに。
顔を合わせた途端、すごく嬉しそうに笑うから。
もう、どうでも良くなってしまった。




「寒かっただろ?ま、あがれよ。」
久々の対面にドキドキしながら、それに気づかれないように平静を装う。
顔が赤いのを見られるのが恥ずかしくて、ひったくるようにして荷物を奪った時に
触れた手が冷たかった。

それに顔をしかめて「だから手袋しろって言ってるのに。」と口を尖らせると、
困ったようにゴメンと笑った。
「大体いつもオレに手袋しろだのマフラー忘れてるだの言うの、レイの方だろ?
なのに何で自分のことになるとほっぽっとくんだよ。」
「だからゴメンってば。・・・でもありがとう。」


ほら、まただ。
そうやって笑うから、また。


「〜〜〜〜〜〜っ!もういーよっ!!今あったかい飲み物でも持ってくるから、
ちょっと待ってろ!!」
逃げるようにしてその場を離れると、後ろから堪えきれない、とでもいうように
吹き出す声が聞こえてきた。


全く。勝手にしろよ。
人がどんな気持ちで待ってたかなんて知りもしないで。

鍋で牛乳を温めながら(この前マックスに作ってもらって美味しかったから、
それ以来自分でも鍋で作るようにしている)、ぶちぶちと文句を吐く。



レイの笑顔は大好きだ。
初めて見たときから、なんてキレーに笑うんだよコイツ、と内心ドギマギしていた。
この手の他人の感情には割合聡いレイは、その微笑みが自分にどれだけの効果を
もたらすかを熟知していて。
ここぞというタイミングで、さっきみたいに笑うから。
自分はその全てを、許してしまわざるを得ないのだ。


全て、と言っても何も生死に関わることやベイに関しての重大問題はまた別なの
だけれど。
とにかく、あの笑顔は自分の苛立ちや憤り、その他のあらゆる負の感情を
一時的にでも和らげてしまう。


「ったく、タチが悪ぃったらありゃしねぇ。」




尽きることのない悪態を付きながら、何の気なしにふと調味棚を見ると、
あるものが目についた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪」

これで少しは曲者笑顔の乱用を防止できるかもしれない。
そう思うと少しはムカムカしていた気も晴れる気がした。








湯気の立つカップをお盆に載せて、零さないようにしてそっと歩いていると、
部屋の前にレイが立っていた。
「遅いから台所まで迎えに行こうと思ったんだ。」
タイミングの悪さに気恥ずかしそうにしているところは珍しく年相応に見えて、
何だか嬉しくなった。
「ん、さんきゅ。じゃあそこのドア開けてくんない?両手が塞がってて無理っぽい。」
「了解。」
わざと困ったような声を出すと、ほっとしたように笑って答えた。
・・・・・・うん、この顔は悪くない。
何て思っていた矢先。





「ごめん。」




部屋に入るなりそう言われて、何なんだと振り返ってみれば、ドアを背にしたレイが
真っ直ぐにこちらを見ていた。
何だかいつもと様子が違っていて、少し不安になる。
お盆を机に載せて、改めて向き合う。
「どうしたんだよ、いきなり。」
少し重くなってきた雰囲気を振り払うように、無意味におどけた調子で尋ねてみても、
相変わらずの痛いくらいの視線にうち消されてしまう。


おかしい。

さっきまではこんなんじゃなかったのに。
頭の中をグルグルと嫌な考えが回る。


もしかしたら。もしかしたら。もしかしたら。
そんなこと考えたくもないのに、折角頑張って見送って待ちわびておかえりも
言ったのに、なんでどうして。
こんなに不安にさせるんだろう。


「タカオ?」
いつの間にか目の前にいたレイに肩を掴まれて、自分の考えに没頭してしまっていた
ことに気が付く。
最悪の予想に潤んできた目を見られるのが嫌で思い切り視線を逸らすと、
レイが肩から手を離した。




言わなくちゃ。
何か言わなくちゃいけないのに。
こんなままじゃ嫌なのに。
どうして声にならないんだよ。

それでもどうにかして言葉を絞り出そうとしたその時、
「ごめん。」
2度目のその言葉にカッときて、レイの頬を殴った。



それでもレイはそれ以上何も言わずに、ただこちらを見つめている。
それだけで。

「な、んなんだよ一体ッ!ごめんて何だよ。お前、オレに何したってんだよ。
どうして謝るんだよ。
んで何も言ってくんないんだよ!言えよ!!
こんなんじゃ・・・どうして良いかわかんな・・・っ。」



嫌だ。
泣くつもりなんてなかったのに。
最後の方は声にならなかった。








「・・・不安に、させてしまっていたんじゃないかと思って。」
一生懸命涙を止めようとしていると、不意にレイが口を開いた。
思いも寄らなかったことを言われて、涙がピタリと止まる。

「・・・・・・・・・は?」

「だから、一人で中国に帰ってしまって・・・悪かったと思って。
何もタカオが休みの時に合わせる事なんてなかったのに。
寂しがってたってマックスから聞いて、それで・・・。」

らしくもなく言葉を濁すレイの頬の赤味は、叩かれたからだけではなくて。
さっきまで苦しくてたまらなかったのに、何だかそれがとても嬉しくて笑ってしまった。


それでもあっさりと許してしまうのは癪な気がして、思いつく限りの文句を並べてみる。

「気が付くのが遅いんだよ。帰ってきてからじゃ。」
「悪かった。」
「あー、謝れば済むってモンでもないだろー?」
「・・・・・・ごめん。」
「何だよ。芸がないなぁ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・ごめん。」
「大体マックスに言われるまで分かんないなんてさ。せめて電話の一本も入れるとか、
何か考えなかった訳?」
「そ、それは・・・・・・あそこには電話がない・・・から・・・。」
「そんなこと言って、あのマオとかって子と仲良くやってたんじゃねぇの?」
「え・・・・・・?」
「うっわ、嘘、マジで!?」
「ち、ちが・・・・っ!そんな事はッ!!」



だって仕方ない。
こんなことが、すごくすごく嬉しいんだから。











暫くそうやってレイをからかって遊んでいると、ふと机の上のマグカップが目についた。

・・・・・・・・・・・・・・。

「あぁ〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」
「ど、どうしたんだ、タカオ?!」
「ほ、ホットミルクが・・・・・・・・・・コールドミルクになってる・・・。」
そう。すっかり忘れてはいたが、そこにはさっきわざわざ鍋で沸かして温めたミルクが
入っていた。もう大分冷めてしまっている。

「大丈夫。まだ暖かいよ。」
肩を落とすタカオに微笑みかけ、レイがカップに口を付けた。







「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!っ甘・・・っ!」

眩暈を起こしそうなほどの甘さに思わずタカオを睨み付けると、してやったりとでも
言うようにニヤニヤと笑っていた。
「里帰りして疲れてんだろ?そう言うときには甘いモンが良いんだぜ♪」
「・・・オレが甘い物が苦手だって事は、」
「知ってる。せっかくオレが作ってやったんだから、ちゃんと最後まで飲めよな!」


そう釘打たれ、泣きそうな思いで極甘ホットミルク(多少冷めてきているために
少し砂糖がザリザリしている)を飲み干しながら、それでも幸せな気分に浸り、
レイはその日二度目のただいまを言った。










|‖あとがき?‖|

前のサイトで頂いたリクエスト用に書いたものです。
こーうせいがぐっちゃらこっちゃらで、本当に申し訳なく思っています・・・/滅
この頃から段々マックス好きに。折笠さんの御声が素敵。
私はレイさんはカッコつけてる割には激ニブいと思うのです。
マックスは誰よりも度量が広いと思うのです。
というか希望です。
タカオはこんなに乙女ではないと思います。
カイさんは昔の方がおバカっぽくて好きでした(愛)
(今は別の意味でなー・・・・。うーん/涙)
キョウジュを出せなくてごめんなさい。

そしてホットミルクがお鍋で温めた方が美味しいかとかは分からないです・・・。
さらにレイさんは甘いの寧ろ好きなんじゃなかろうかと・・・。

 

戻。