僕は毎夜、ゴメン、と呟く。
君はその度、笑いながら、何故、と問う。


君には自由で在って欲しかったのに、
こんなにも深く、求めてしまっている。




∴∵触感。∵∴






一見固そうに見えるけれど、意外に柔らかな黒髪。(手触りが良い。)
見た目以上に柔らかい、血色の良い頬。(というか全身。)
頭を抱えたくなるくらいに、柔軟な思考回路。(けどそのワクワク感もスリルを愉しんでいる。)
強くて暖かくて、そして時には柔らかな表情を浮かべる、瞳。(これが一番気に入っている。)


思うに、ゴンは何もかもが柔らかくできている。
その上、甘い。
オレより0.5回りくらい華奢な(適度に筋肉が付いているけれど、それがまた気持ちいい。)
身体を抱きしめた時なんか、眩暈を起こしそうになる。
綿菓子のように柔らかいだけではなくて、しっかり芯がある。
こんなヤツきっと、一人しか居ない。
ひとりしか、いないのに・・・。










もじもじと、居心地が悪そうにゴンが目線を泳がす。
さっきから、何故かキルアがこちらをみつめている。
何か言いたいことがあるのかと思い、話しかけてみても、聞こえていないのか反応がナイ。
それだけならばまだしも、ニヤニヤとおかしな笑みを浮かべているのだ。

怖い。

これがレオリオであればゴンも大して気にしないのだが、他でもないキルアのこと。
何か変なモノでも食べたんじゃあ、と心底心配になってくる。
ゴンはソファを立ち上がると、そっとキルアの額に手を置いた。
どうやら熱はなさそうだ。
ふと、キルアの眼が閉じられていることに気が付く。
幾分ホッとして、ゴンはキルアの隣に座ると、猫っ毛な銀髪を撫で付けた。


暫くそうしていると、キルアが不意に口を開いた。
「・・・・・・ゴメン、な。」
あまりに意表を突いた言葉に、ゴンの手が止まる。
「何?どうかしたの?」
そう聞くと、キルアはやんわりと笑って「別に。」とだけ答えた。


ゴンの胸の中に、またひとつ、小さな波紋を残して。













「・・・オレ・・っ、ゴンのこと、好きだ。」

いつだったろうか、ひどく興奮した状態で帰ってきたキルアが、怯えるように縋るように
何度も何度も繰り返していたのは。
確か、ヨークシンシティでクラピカと再開する前の晩のことだった気がする。
一応例の場所へ行ってみようと、戦いが繰り広げられていたであろう場所へと、
キルアと二人で行ったときのこと。
先に帰っていてくれと言うキルアに従い、ゴンは一足早くホテルに戻った。

キルアが帰ってきたのは、次の日の朝のことだった。



それから、ずっと。
キルアの様子がおかしいのだ。
みんなと居るときには感じないのだが、こうして二人きりになると妙な感じがする。
嫌、と言うよりは不安を覚える。
きっとキルア自身が不安を感じているのだ。

何に対してのモノなのかは分からないけれど、自分に何かできないか、
懸命に捜してみる。




小さな頃、自分が不安でどうしようもなくなったとき、ミトさんはどうしてくれたのだったろう。

傍にいて。
抱きしめて。
寝付けない夜には、ゴンが寝るまで手を繋いでいてくれた。
ミトさんの温度が心地よくて、何をそんなに不安に思っていたのかを忘れてしまうほどに
安心して眠りについた記憶がある。


それならば、自分にも出来る気がする。
以前に「心音が人を安心させる」と聞いたこともあった。
何か出来るかも知れないと、ゴンはしずかに瞳を閉じた。










夕飯を済ませ、大浴場にはしゃぎすぎて宿屋の人に注意された後。
いつものように、二人してテレビを見ながらポップコォンを頬張り、そのままじゃれあいながら
寝室まで転がってきた。

「も、ほんっとお前ってアッタマ悪いのな〜!!ミトさんが泣くぜ〜?」
「うっるさいなぁ!もうッ。バカバカゆうなよッ。」
「言ってません〜♪自分で認めてやんの。やっぱバカ♪」
「も〜〜〜〜〜ッッ!!!」
ばふん、と枕ごとゴンがキルアにのしかかる。
すると、両脇から細い腕が生えてきて、ゴンを抱え込むようにして立場を反転させた。



「ゴンって見た目に依らず軽いな〜。」
「何だよそれ!オレが太って見えるみたいじゃん。」
あれ、と言う風にキルアが言うと、ゴンはムッとして一生懸命に体重をかけようとしながら
言い返した。


大体、キルアが細すぎるのだ。
大量のお菓子は何処に消えたのかと、恐れを知らないゴンでさえも薄ら寒いモノを感じる
時がある。
「え、だって結構ふっくらしてんじゃん?腕とかきもちーしv」
抱きかかえたまま、ゴンの二の腕に手を移す。
むにむにむに。
ご満悦、といった風に自分の腕を揉みまくるキルアに、ゴンは盛大に溜息を付いた。
「・・・きるあ、何してんのさ・・・。」











とくん、とくん、とくん。

規則正しい鼓動が、すぐ、傍にある。


何度も消してきた音。
けれど、ずっと欲しかった音。

イルミ兄のそれは、近くにあってもとても遠くて、冷たくて。
ゴンのような熱はなくて、まるで血が通っていないかのようだった。

それに、オレは。


あの人を欲しいとも思わないし、あの人のモノにもなりたくはなかった。









「キルア?・・・寝ちゃった?」
不意に大人しくなったキルアに、ゴンはそっと呼びかけてみた。
すると、キルアの顔が真正面に来る位置まで、背に回された腕がずり上げられた。
滅多に見せない微笑みを浮かべて、キルアはゴンの頬に軽く口づける。
くすぐったくてクスクスと笑うと、今度は唇に。
触れるだけの、居場所を確認するかのようなキス。
そのままゴンを抱きしめて、キルアはゴンの耳元に囁いた。



「・・・ゴン、オレ、ゴンが好きだ。
ずっと傍に居てよ。何だってするから、だから・・・、」




「きる、あ・・・。」
掠める吐息に、身体が熱を帯びていくのを感じて、ゴンは思わず溜息を付くように
キルアの名前を呼んだ。
切なくて。
こんなにも、キルアのことが好きなのに。
もう、何もかも全て、あげてしまっても良いくらいに。
大好きなのに。





自分には、ミトさんのような力はない。
キルアの心を、守れない。

この想いは、きっとずっと、伝わらない。








「キルア?オレ、キルアが一番好きだよ。
ミトさんの好きとも、レオリオやクラピカの好きとも違う。
ずっと、傍にいるから。
オレは離れないで、キルアがそう言うんならずっと、傍にいるから。
オレの全部を、キルアにあげるから・・・。」



だから、泣かないで。












柔らかな髪の毛に、柔らかな躯。それに、優しい心。
柔らかくて優しくて、だからゴンはオレに嘘を付く。
とても優しい、極上の嘘を。

きっとゴンはオレといるだけじゃ満足出来ない。
ゴンにはもっと、広い世界でなきゃいけない。
なのにオレはきっと、ゴンを手放せない。
一緒にいる限り、優しいゴンを閉じこめてしまう。


だからゴンは、いつかオレから離れていく。
離れなければいけない。




ゴンはオレに、嘘を付く。
「いつか」の自分自身にも。












いつになったら、想いは届くのだろう。伝わるのだろう。
キルアは、信じてくれるのだろう。



この先待っているどんな未来にも、キルアにいて欲しいと思う気持ちは本当なのに。
その為だったら何を差し出しても構わないとさえ思うのに。




「きるあ?だいすき、だよ。」
「・・・・・・ありがとう・・・。」




どうして、そんな哀しい眼をするの。
どうして、笑ってくれないの。
どうして、好きだって言い返してくれないの。


どうしたら、信じてくれるの・・・。

















僕は毎夜、ゴメン、と呟く。
君はその度、笑いながら、何故、と問う。


君には信じて欲しかったのに、
ボクにはその力が、ないんだ。












|‖あとがきというか。‖|

桜澤ゆきちゃんへのお誕生日に捧げさせて頂いたものです。
前のサイトにもおいてあったのですが、今回ほんの少しだけ
修正してみました。
私的には結構大切なところも何カ所か。
お気づきの方がいましたら凄い人大賞を差し上げます(え)。

ハンターを書くのなら、やはりキルゴンが一番楽しいです。
ああでも、女の子キャラのお話もすごく楽しい・・・。
マイナー路線で今後も増えるかも知れません。(笑)



 

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