クロッカスの待望。

 

 

 

 

「ごっそーさん・・・んん?」

安っぽい裏口のドアを開く。

と目に飛び込んできたのはこれ又安っぽい隣の壁。

しかも土作りの其れは些細な風にさえぽろぽろと崩れてゆく。

そんな壁伝いに足下を眺めて行くと、

ハニーブロンドの髪、

個性的な眉毛、

きっちりとスーツを着込んだ上半身、

コンパクトに立てられている両足、

片方のそれを抱え込んでいる左手が目に入る。そして・・。

「痛ぇんだが・・・。てめえ、さっさと退けやがれ!!」

言葉遣いは今一つらしいな。と暢気な事を考えつつ、エースは右足を男の右手から退けた。

「ったく・・料理人の命を何だと思ってやがる・・。」

「ああ、わりぃわりぃ。んで君は何してんだ?えっと――」

エースはそのあまり出来が良いとは云えない記憶力をフル回転させ、

何所かで見た覚えの有る自称料理人の情報を引き出そうとする。

「サンジだ。言っとくが今回は茶は出ねえかんな。」

料理人もといサンジはそっけなく言うと、エースに後頭部と項を見せた。

つまりは、そっぽを向いた。

「つれないねえ。俺より市場通りの方が好いってか。」

膝を屈めた自分の前髪がサンジの頬をくすぐる。

野良猫でも覗き込むかのように見つめる俺を、当の野良猫は鋭い目つきで威嚇する

「当たりめえだろボケ。それについ先程レストランから出てきたノン気の野郎に媚売ってどーすんだよ。」

「まあ、そりゃあもっともだな。あんたコックの鑑だねえ」

エースは顔をゆっくりと離すと、サンジと同じ方を向いた。

「で・・・?そんなコックの鑑サンジクンはこんな路地で何を?」

最上の笑みを浮かべ、エースは首だけでサンジを見下ろす。

座り込んでいるサンジの眉根がキッと寄せられた。

「・・・アンタ以外に意地悪イのな。――まあ、待ち合わせかなあ。」

ふう、っとサンジの表情が和らぐ。それを眺めたエースはううむ、と小さく唸り。

「―――――――恋人?」

難しい数式を答えるかのようなその表情と発言とのギャップに、

目を見開いた後一拍おいてサンジは爆笑した。

「ひぃ・っはは・・。恋人、ね。そうかも。まあ、3日間待ちぼうけなんだけどさあ。あ、それ一本くれねえ?」

サンジが笑っている間に取り出したらしい、エースの口元を指して伺う。

ん、いーよ。とエースは又最上の笑みでシガレットケースから物を抜き取ると、反対に咥えた。

「・・変わった吸い方するんだな。あんた。」

「いやん。エースって呼んで。いらねえの?」

いやいります。とサンジは棒読みしてエースの反対側、本来咥える方をぱくりと口に入れる。

「ライターは無しで自家発炎だ。」

「・・・便利なこって。面倒臭がり?」

エースが口元を橙に染める。

「なあ、“恋人”さんとはこんな事すんの?」

「親父臭い事聞くなよ。まあ俺のダーリンは強くてカッコいいけど流石に燃えないし?」

じり、とエースの口元から火が燈る。

「あはは。その上方向音痴なんだ。」

「おわ!落ちるって・・。そうそう。そうなの。

ファッションセンスも皆無でさあ。」

二人がまるで悪戯っ子の様に笑い会っていると、何時の間にか火は完全に燈り。

燃えるようなキスってこういうのだったのかも知れない。と

サンジは1センチ先まで迫っていたエースの唇が離れていくその一瞬、そう思った。

深く、愛しそうに煙の呼吸をした後、

サンジは優しい、それでいて小悪魔のような声音で呟いた。

「なあ、俺の恋人ってクソ方向音痴だけど3日もあればたどり着くからさあ。

斬られねえウチに行ったほうがいいぜ。お兄さん。」

「・・・エースだってば。あんま虐めねえでよ。」

御互い様だろ、ニッと不敵な笑みをサンジが浮かべる。

老若男女振り返るだけの力を秘めたその笑みを常に背中に感じられる男を思って、エースは小さく笑った。

(まあでもあの男は、振り返ったりしないんだろぅね。)

じゃあね、と笑いが抜けきらない顔で言うと、一応サンジが小さく手を上げた。振り返りざま、一声掛ける。

「あ〜あ。俺なら1秒でサンジクンの所来れるのになぁ。」

「ハイハイさんきゅ。ま、それでも俺は、さ・・・

 

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広くは無い港町の中を走り回って、もう3日になる。基よりヒントなんて無い。

縦横無尽に探しては見たが、未だ探し者は見付らない。

あちらが迷っているのか、こちらが迷っているのか判らないこの状況で、ゾロは本能のみを頼りに―船長の様だが―走っていた。

3日前、海軍との戦闘の際、怪我を負ったナミを気遣い、一人サンジが囮になった。

そして、それ以来行方が攫めない。

市場通りと町の者が呼んでいる所へ出たときも、たいして気にはしていなかった。

.5メートルくらいの細い路地が見えたときにも、何気無しに覗いただけだった。

果たして其処には。

幾度と無く思い描いてしまっていた血の惨状は其処には無く、只――

 

『それでも俺は、さ。あいつが来るって信じてんの。なあ・・・ゾロ?』

 

只、焼けた花と煙草の残り香だけが其処には会った。

 

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蛇足・クロッカスの花言葉

「あなたを待っています。」 

 

 

「・・・・・・・・・・サンジ?」

 

 

 

 

 

 

サンジ君はお花ちゃんだったって言う事ですね!(違)