優しくさよなら愛しい人。

 

 

 

 

公園のベンチ1人で座り恋人を待つ。夏の日ざしは思っていたよりも眩しくて、空を見上げ眼を細めた。

 

彼は優しい。

例えばこんな風に私が炎天下の中1人座っていたら、声を掛け、機嫌をとり、木陰を作ってくれるのが私の好きな彼だ。

 

時計を見て、約束の時間を少し過ぎた事を知る。

 

彼は優しい。

例えばこんな風に私が彼よりも先に待ち合わせ場所に着いてしまった時は、

大抵ご自慢の女性用愛情弁当と嬉しそうな笑顔を持ってきてくれるのが私の好きな彼だ。

 

彼は優しい。

例えば今日みたいに急に会いたいと連絡しても、全速力で駆けつけてくれて余計な詮索はせずに

どうしたの?と一言聞いてくれるのが私の好きな彼だ。

 

私の好きな彼だ。

私の知っている限りの、彼だ。

 

私は彼の優しさに惹かれた。私は彼といるとオヒメサマになれる、自分に惹かれた。

只一つ残念な事があるとしたら、私はこれから彼を嫌いにならなければならない。

彼への想いは既に無く、彼の想いは自分以外の不特定多数にも向けられるものだと気付いたから。

否、正確に言えば彼の想いは只1人の男にだけ向けられているのだと、私は最近やっと分かったのだけれど。

 

じゃあその事にもっと早く気付いていれば良かったのかしらと足をぷらぷらさせながら思ったが、

それも全ては過ぎた事だからどうしようもないんだろう。

と、不意に頭上に影が差し、のんびりと見上げるとやはり全速力で走ってきたらしい彼がいた。

「・・・サンジ君。」

「・・・っは・・、遅れて、ごめん、ナミさん・・。」

申し訳なさそうに笑う彼の手には、弁当が無い――――誰と会っていて、遅れたの?

「今日のマニキュア、綺麗だね。新しい色?」

目聡く見つけたそれは、彼の為に買った緑色だけど―――本当に綺麗だと思うのは?

「・・どう、したの?」

勝手に隣に腰掛けて、柔らかな笑みで何時もの様に問う―――ねえ、詮索されたくないのは、どっちよ。

 

「          」

 

 

そのまま歩き出した私の背中には彼の目線が痛いほど向いていたけれど、優しい彼は追いかけてこなかった。

終わった恋のほろ苦さに暫く眼を閉じて浸りつつ、私は憎らしいほど爽やかな午後の町を彼の優しい手を振り切って一人で歩き始めた。