優しくサヨナラマイダァリン!

 

 

この人は、本当は優しい人だと思う。

例えば今日みたいに暑い日に野外で待ち合わせをしたら、いつもその手には2人分のジュースが握られていた。

体温で少し汗ばんでいた缶はお世辞にも冷たいとは言えなかったが、

無言でそれを受け取ると嬉しそうに笑っていたのをわてはいつも見ていた。

 

この人は、実は優しい人だと思う。

例えば今日みたいにいきなり逢いたいと電話しても、いつも5分も経たずに駆けつけてくれて、

この人はわてが地球の裏側から呼んでも駆けつけるんじゃないだろうかと自惚れに近く思った。

たまに乗せてもらっていた愛用のバイクで目の前に現れた汗だくの姿を見た時、

それまで悩んでいた全ての事が如何でも良くなって、

照れ隠しに拗ねた様に何でもないとそっぽを向くと、わがままじゃのうと笑っていたのをわてはいつも見ていた。

 

この人は、とても優しい人だと思う。

 

わてはこの人の優しさに惹かれた。わてはこの人の笑顔に惹かれた。

只一つ残念な事があるとしたら、わては今からこの人を嫌いにならなければならない。

この人への想いは既に亡く、この人の想いなんて初めから、自分には向けられていないと気付いたからだ。

 

いつも通り愛用のバイクで、汗だくになって、2人分のジュースを握り締めて、現れたコージはんの眼を睨んで、一言告げた。

「わて、ホンマはジュースよりお茶の方が好きだったんどす」

わて、ホンマはあんさんのこと好きやったんだけど、嫌いなんどす。

優しい嘘に惑わされていたけれど、時を重ねる毎に甘い想いは虚しく色褪せていった。

「そぉか」

コージはんは憎らしい位にっこりと笑って1人ベンチへと座った。

いつもわてが座っていた方にジュースの缶をひとつ置くと、自分は勝手にジュースを飲み始めた。

まるで、わてなんて初めから存在していないかのようにいつも通りの行動をするこの人に、

昼メロの様に頬をはたく事も出来ず、子どもみたいにイーッツと歯を向けてそのまま走って帰った。

 

優しいあの人はわての背を追ってきてくれなかったから、わてはその日初めて、公園からの帰り道を1人で歩いた。

優しいまま終わった恋は、人生で一番悲しかった。